おてんば王女
「こ、これは……?」
勝った……ぽいな。
気配を探ってみても、新たな魔物が現れる気配はない。ただただ穏やかな風が、周囲の木の葉を揺らしていくだけだ。
謎の魔法――《0ターンキル》。
詳しいことはわからないが、これでNo.3を倒したことは間違いない。Aランク冒険者でさえ苦戦するような《異界の魔物》に、俺たちは勝ったんだ。
それを思えば、さっき手にいれたばかりの《0ターンキル》……
存外にも、使い道はあるのかもしれない。
考えてみれば、俺も神官も、このスキルのことをなにも知らないわけだからな。
スキル開花時にはなにもできなかった……ただ、それだけのことだ。
剣聖になれなかったのは残念だが、この《0ターンキル》、色々と考察してみてもいいかもしれない。
……と、いかんいかん。
いまはスキルのことより、お姫様の対応が優先だろう。
ちなみに懐に忍ばせていたポーションを飲んだので、No.3から受けた傷はすでに回復済である。
「お久ぶりですね、フラ……」
「わぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!」
俺が言いかけたところで、フラムがいきなり抱き着いてきた。
「!?!?!?」
青春真っ盛りの俺としては、てんやわんやどころの騒ぎではない。フラムは抜群のスタイルを誇っており、男性ならばまず間違いなく釘付けになってしまうほどの外見。
そんな彼女に抱き着かれてしまえば、色々とやばいのである。
当たってるしな。色々なものが。
「お……おいフラム、やめろって……!」
「怖かった……。怖かったよぉ……!」
そう言って涙目で見上げてくるフラムは、色んな意味で反則だった。
「ありがとうユノ……。助けてくれて……」
「ま、まあな。無事だったんならよかったよ……」
パニクるあまりタメ口になってしまったが、彼女に対しては問題ない。
なにせ俺とフラムは同い年……
俺が剣聖になった暁には彼女の護衛になる予定だったため、昔からよく顔を合わせていたのである。
まあ、わかりやすく言えば幼馴染ってやつだな。
「と、ところで……フラム」
胸に顔を埋めてくるお姫様に、俺は若干ドギマギしながら答える。
「いったいどうしたんだ……? こんなところで、護衛もつけずにひとりで……」
「決まってるじゃん。ユノに会いにきたんだよ」
「は……?」
「聞いたよ。外れスキルを授かって……それで、家を出てきたんだよね?」
「…………」
これはさすがに驚いた。
いくらなんでも情報の掌握が早すぎる。
たしかに俺は剣聖の息子だし、他の人よりは注目されやすいが……
そこを指摘すると、フラムは当然のように「当たり前じゃん!」と言ってのけた。
「今日は大事な日だからね! ユノの勇姿をしっかり見られるように、私服で教会に潜入してたんだ!」
「いやいやいや……」
自信満々にでかい胸を張っているが、すこしも誇れることではない。
俺のスキル開花を見届けようとして教会に潜入……
そりゃまあ、道理で俺が外れスキルを授かったことを知っているわけだよな。現場にいたわけだし。
「だから私、ユノに伝えにきたんだ!」
そう言ってフラムは俺の両手を握ると、改めて俺をじっと見つめた。
「元気出してって。他のみんながなんと言おうと、私はユノの良いところ、いっぱい知ってるから……」
「フラム……」
そうか。そうだな。
彼女はこういう性格だった。
小さい頃から無鉄砲で、お転婆で。
だけどいざというときは、自分の身を呈してでも他人を守ろうとする人だった。
お礼を言うのは……俺のほうだな。
「ありがとう……フラム。そう言ってもらえるだけで、俺は嬉しいよ。」
彼女を護衛することは、もうできなくなってしまったけれど。
それでもいまの言葉は、俺の傷心を癒すに充分な力を秘めていた。
「俺はもう剣聖にはなれないけど……でも、また別の道を探すよ。王都にはさすがにいられないから、適当なところで暮らすことになるけど……」
「うん……。そうね。じゃあ、ベール村はどう?」
ベール村。
たしか王都からほどよく離れた村だったか。
俺の記憶によれば冒険者ギルドもあるはずだし……うん、いいかもな。
王都から近すぎず遠すぎないという点も、地味にプラスポイントだ。
「そうだな……ベール村、行ってみるよ」
「うんうん! よし、それじゃあ早速行ってみよー!」
そう言って俺の手を握り、ぐいぐいと適当な方向に歩き出すフラム。
……おいおいおい、ちょっと待て。
「なんでおまえも一緒に行こうとしてるんだよ。おまえはベール村に行く必要ないだろが」
「へ? 必要ならめっちゃあるよ?」
「は? なんで」
「そこにユノがいるから♪」
「…………」
駄目だ、会話がまったく成立していない。フラムの奴、一度言い出したら聞かないんだよな。
だが俺も、今回ばかりは引き下がってはいられない。
「待て待て。おまえは王族だろ?」
「うん♪」
「だったらしかるべき公務があるはずだ。こんなところで姿を消してる場合じゃない」
「大丈夫だって。あとでセバンに適当に手紙送ってくから」
「セバン……」
フラムの執事のことか。
老齢で一見頼りなく見えるが、王城においては一、二を争うほどのベテラン執事だったはず。
ああ……可哀そうに。
ただでさえ苦労人っぽく見える顔に、さらに野太い横皺が刻まれることになる。
「だから王城のことは大丈夫! 心配しないでって!」
まあ、たしかにフラムは第三王女だしな。
時期国王としては有力視されていないし、そこまで公務はないかもしれないが……
「それに……理屈じゃないんだよ」
俺の手をぎゅっと握りしめながら、フラムは言う。
「理由なんてない。私にとってなにより大事なのは、ユノと一緒に……だから」
「は……?」
なんだ。よく聞こえなかったぞ。
「すまない、もう一回言ってくれないか?」
だから聞き直してみたんだが、
「なんでもないっ! べーだ!」
と舌を突き出されてしまった。
「とにかく、私と一緒にベール村に行くの! はい決定!」
「はぁ……」
仕方ない。
納得しかねるところではあるが、彼女がいれば心の痛みが和らぐのも事実だ。
ずっと一緒にいるわけにもいかないし、適当なタイミングで帰ってもらうことにしよう……
そう判断して、俺はフラムとともに歩みだすのだった。
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