《0ターンキル》
「おい、あいつが例の……?」
「ああ、剣聖の息子なのに外れスキルを授かったっていう……」
「アンリ、あれに目を合わせたら駄目! あなたまで外れスキルを授かってしまうわ!」
剣聖の息子が、外れスキルを授かった――
そのニュースは瞬く間に世間に広まっていったようだ。
教会を出たばかりなのに、周囲からの視線が妙に痛い。
……まぁ、無理もない。
スキルというのは、基本的に血筋が大きく関わってくるもの。だからオルランド家も、代々剣聖としてその名を馳せてきたわけだ。
そのオルランドの血を引く俺が、《外れスキル》を授かった――
その事実がきっと、民衆にとって衝撃的なのだろう。しかもあろうことか、授かったのは《0ターンキル》という未知のスキル……
良くも悪くも注目を集めてしまうのは、ある意味当然といえた。
「ガイア殿もお気の毒に……」
「ああ、とんだ子息を持ってしまったものだ」
その言葉の数々は、俺の心を再び抉るのに充分な威力を秘めていた。
――そして。
コツン、と。
ふいに背中に衝撃を覚え、俺は思わず背後を振り向く。
どうやら石ころを投げつけられたようだな。
コロコロと虚しい音を立てながら、小さな石が地面を転がっている。
……いや。この一発だけじゃない。
続けざまに二発、三発と、多くの石が俺めがけて投げつけられていく。
「外れスキル所持者は呪われているんだ! とっとと消えな!」
「死ね! 消えろ――っ‼」
「……っ」
あまりにもひどい暴言の数々に、俺は思わず表情を歪めてしまう。
――呪われし者。
――王都の恥さらし。
投げつけられる石そのものよりも、それらの暴言のほうがはるかに痛かった。
「くっ……!」
俺はいてもたってもいられなくなり、その場で疾走。
行く宛があるわけでもないが、ただひたすらに走り続けた。
――ひどい。
本当にひどい。
王都の人たちは、昨日まで俺のことを《お坊ちゃん》として接してくれていたのに。
外れスキルを授かった瞬間に、これほど露骨に態度が変わってしまうとは。
「は……ははは……」
走りながら、思わず乾いた笑みが浮かんできてしまう。
それでいて両の目からは、滂沱の涙が溢れ出てきていた。
やがて開けた場所に出た。
レイサス平原。帝都を抜けた先にある、だだっ広い平原だ。中心部分に街道がある以外は、これといって特徴もない場所である。
「これから、どうするか……」
歩きながら、ひとりそう呟く俺。
行く宛もない。生きる目的もない。
立派な剣聖になれるよう、いままで血反吐が出るような特訓を積み重ねてきた。その目標が閉ざされたいま、正直、なにをする気にもならない。
「せめてこのスキルが強かったらよかったんだがな……」
謎の外れスキル、《0ターンキル》。
その実態は――なにもすることができない。
剣聖スキルじゃなくても、戦闘に関するスキルであれば救いはあったかもしれないんだがな。
その結果がこれでは、もはや救いようがない。
「はぁ……」
俺がため息をついた、その瞬間。
「グルルルルルルルル……」
ふいに背後から不穏な気配が流れ込んできた。
――見ないでもわかる。
ブラッドウルフ。
危険度は《Eランク》に指定されており、初心者向けの魔物とされている。
その数……だいたい5匹くらいか。
思ったより多いが、まあ、それくらいなら取るに足らないだろう。
この18年間、俺だって血の滲むような努力をしてきたわけだからな。
「ガァァァァァァァァァァアア!」
バレてないと思ったのか、ブラッドウルフの一匹が背後から襲いかかってきた。
だが――遅い。
「オルランド流、ファイアネスゲイル」
俺は咄嗟に剣を抜くと、自身の周囲に弧を描くように振り回す。
たったそれだけで剣に炎がまとわれ、赤色の軌跡が空中に舞った。
「ギュアアアア!」
醜い悲鳴をあげて、その場に崩れ落ちるブラッドウルフ。
もちろんいまの攻撃で、他のブラッドウルフも一緒に始末しておいた。
あまりにも呆気ないが、これこそ、ブラッドウルフが「初心者向け」とされる所以でもある。
「まあ、なんでこんなところにブラッドウルフが出ているのか……っていう疑問は残るけどな……」
街道には《魔物除け》の街灯が設置してあるし、そもそもここは王都に隣接する平原だ。定期的に冒険者たちが魔物を撃退しているはずだが……
「ふむ……」
まあ、俺が考えても詮無いことか。
外れスキルを授かった俺なんか……もう社会的に死んだも同然だし。
と、その瞬間だった。
「いやぁぁぁぁぁぁぁあああ!」
ふいに女性の悲鳴が聞こえ、俺はぎょっと目を見開いた。
この声。まさか……!
俺は咄嗟に身を翻し、声のした方向に駆け出す。
もう人生のすべてを諦めたはずだった。それでも勝手に身体が動いたのは、まだ剣聖候補としての意識が残っているからかもしれない。
そう。いまの声には嫌というほど聞き覚えがあったのだ。
俺の記憶が正しければ、この声は……!
「どうされましたか! フラム王女殿下!」
果たして、木々の密集地帯に見覚えのある女性がいた。
フラム・リア・アレキドス。
ここアレキドス帝国の第三王女だ。
あろうことか護衛のひとりもつけておらず、ただただ一人、魔物の前で尻餅をついているのみ。動きを封じられているのか、叫び声をあげるばかりでぴくりとも動いていない。
対する魔物のほうは――No.3と呼ばれる、《異界の魔物》だった。
「嘘……だろ……⁉」
《異界の魔物》と呼ばれているのは、最近見つかった謎の魔物だから。
全身が黒い闇に包まれている、人型の化け物だ。目も口も鼻もない。ただただ不気味な鳴き声を発するのみで、そもそも生物かどうかもわからない。
具体的な強さも不明だが、Aランク冒険者がかろうじて勝てたことから、No.3に関してはAランク級の魔物とされている。
傾向も弱点もなにもかもがわからない――
それが《異界の魔物》だった。
むろん、外れスキルを授かった俺には絶対に勝てない相手だ。
「ユ、ユノ……⁉」
かろうじて、フラムが俺の姿に気づいたようだ。
そのまま覚束ない動きで、手を差し伸ばしてくる。
「助けて……! 力が出せないっ……!」
「くっ……!」
妙な術でも使われているのか、フラムは動くことさえままならない様子。
このままでは――!
「せめて、フラムの命だけでも……!」
死の覚悟を持って、俺はNo.3に向けて突進を敢行。
「オルランド流、ファイアネスゲ――」
先ほどと同じく、炎の剣でNo.3に斬りかかろうとしたのだが。
「グルァァァァァァアアアアア!」
「な、なんだと……⁉」
No.3から闇色の可視放射を放たれ、俺は堪らず後方に吹き飛んだ。
熱い。
なにもできない。
全身が燃えるようだ。
可視放射から開放され、地面に叩きつけられてからも、俺は起き上がることができなかった。
――なんと重い攻撃だ。
外れスキルを授かった俺なんかでは、絶対に勝てるわけがなかったのだ。
くそ。
もっと俺に強い力があれば――!
あのNo.3を倒せるくらい、この《1ターンキル》が強ければ……!
――――
検知。検知。
異界の魔物デスライガーの出現を感知しました。
スキル《0ターンキル》を発動しますか?
――――
「なに……?」
ふと視界に浮かび上がってきた文字列に、俺は仰天の声をあげる。
「なんだ……? 異界の魔物、デスライガー……?」
もしかしなくても、あのNo.3のことを指しているのか。
あいつの正体は不明で、そもそもろくな名前さえつけられていなかったはずだが――
だが、四の五の言っていられる場合ではない。
俺を始末したNo.3は、満足そうな声をあげながら徐々にフラムと距離を縮めている。
この《0ターンキル》がどういったスキルなのかはわからないが、ここは迷っているときではない――!
「スキル発動! 《0ターンキル》‼」
俺が大声でそう叫んだ、その瞬間。
驚きの現象が引き起こされた。
「グオッ……?」
あれほど手強かったNo.3が間抜けな声を発するや――なんとその場に崩れ落ちたのである。
なにか攻撃をしたわけでもない。
助っ人が現れたわけでもない。
特になにかが起こったわけでもないのに、No.3だけが倒れたのである。
――――
異界の魔物デスライガーを0ターンキルさせました。
異界の魔物デスライガーを0ターンキルさせました。
異界の魔物デスライガーを0ターンキルさせました。
――――
俺の視界には、そんなメッセージだけが繰り返し映り続けるのだった。
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