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剣聖の息子、無能者扱いされる

 スキル。

 それは誰もが持つ特殊能力。


 魔術師なら《MP増大》や《魔力強化》など、魔法に関連するスキルを持ち。

 そして戦士であれば、《攻撃力アップ大》や《剣術》など、戦闘に関するスキルを持つ。


 つまりスキルというのは、人生において重要な意味を持つのだ。


 いままで剣を振ったことのない者でさえ、《剣術》スキルを授かれば瞬時にして剣の名人になれる。


 逆に言えば、いままで一心不乱に修行し続けてきた者でも、スキルが弱ければ一気に転落しかねない。


 そのスキルが開花する日は――18歳の誕生日。


 だからこそこの日は、誰もがそわそわする者と言える。期待に胸を膨らませる者や、緊張のあまり気絶しそうな者まで……多くの人が教会に並ぶ。



そして俺――ユノ・オルランドも、今日18歳になる者のひとりだ。


「ふふ……そう緊張するでない、ユノよ」

「は、はい……!」


 隣から発破をかけられ、俺はぴんと背筋を伸ばす。


 その様子を見て、父――ガイア・オルランドはまたも苦笑を浮かべた。


「ふっ、そう案ずることはない。おまえの頑張りは私が知っている。高位のスキルを授かることは違いあるまい」


「はい……。そうだといいんですが……」


「心配は不要。なにせ私の血を引いているのだからな」


 そう。

 なにを隠そう、オルランド家は《剣聖》として代々その名を馳せてきた。


 父も唯一無二の《剣聖》スキルを授かっているし、祖父も曽祖父そうそふも、歴代のオルランド家はみな《剣聖》スキルを授かってきた。


 実を言えば、スキルは家系に依存するところが大きい。


 魔術師の家系は古くから魔術師だし、鍛冶師の家系も古くから鍛冶師なのだ。


 だからこそ、父は期待しているわけだ。

 必ずや、俺が《剣聖》スキルを授かるであろうことを。


 その実力を買われてオルランド家は王族の護衛も任されているからな。家系の存続のためにも、俺のスキル内容はとても重要といえるだろう。


「すう、はぁ……」


 俺の脳裏に、これまでの厳しい修行の数々が浮かんでくる。


 何度も諦めかけた日々。泣きたくて逃げたくて、ひとり枕を濡らした夜。同世代が遊びに興じているなかで、俺だけはひたすら剣の修行に打ち込み続けた。


 ――そう、すべてはこの日のため。


 いける。

 こんなに修行し続けてきたんだから、俺だってきっと、強いスキルを授かれるはずだ……!


「ふふ。決意は固まったようだな」

 父はそう言って微笑むと、とんと俺の背中を優しく押した。

「では行ってくるがいい。私も近くで見ているからな」


「はい……!」


 威勢のいい返事をし、俺は教会の檀上に歩みだす。


「あれ、あのお方は……!」

「なんと、オルランド殿のご子息ではないか……?」

「すごい、かっこいい……!」


 見物人たちの声を受け、俺は顔が熱くなるのを感じた。


 オルランド家は剣聖として名高い名家。人々の注目を集めるのもある意味当然なのだが――こんなに見つめられると、さすがに恥ずかしくなるな。


「こほん……。それではユノ殿、こちらに」


 そしてとうとう、俺の番がやってきた。

 檀上には神官が待機していて、机上の水晶を用いて《スキル開花の儀》を行う仕組みとなっている。


「は、はい……!」


 沸き起こる緊張をなんとか抑えつけ、俺は檀上へと歩み寄った。

 あとは神官に任せておけば、自動的にスキルが開花するはずだ。


「む、むむむむむっ……!」


 神官が水晶に両手をかざし、眉根を寄せる。

 この作業自体にも魔力を使っているらしく、水晶の周りできらめくほのかな輝きに、俺はしばらく見惚れた。


 そして……


「こ、これは……」


 どういうわけか、神官が素っ頓狂な声をあげた。

 目を閉じたり開いたりして、何度も水晶を覗き込んでいる。


「あ、あの……神官様。どうされたんですか?」


 若干嫌な予感を抱きながら訊ねる俺に、神官は神妙な面持ちで答えた。



「ユノ殿。心して聞かれるがよい。あなたのスキルは――《0ターンキル》だ」



「え……」


《0ターンキル》……?


 なんだそれは。

 聞いたこともないスキルだぞ。


「0ターンキル……? おまえ、聞いたことあるか……?」

「い、いや、ないが……。なんだか変な名前じゃないか?」

「まさか外れスキル……?」


 見物人たちも俺と同様のことを思ったらしい。

 口々に囁きはじめ、その声量はどんどん大きくなる。


「そ、そそそそ、そんなはずはないっ!」

 突如にして大声を響かせたのは、剣聖たる父ガイアだった。

「もしかすれば強力なスキルかもしれぬだろう! ユノよ、スキルを発動してみなさい!」


「は、はい……!」


 ちなみにスキルを使うには、《スキル発動》と唱えるだけでいい。

 もしくは、実際に口に出さずとも、胸のうちで唱えることでも発動できる。


「えっと……スキル発動。0ターンキル」


 俺が小声でそう呟くも――しかしなにも起こらなかった。


 普通は自分の身体が輝いたり、魔法系のスキルならば炎の球とかが浮いたり……なんらかの変化が見られるはずなのに。

 教会内では、ただただ重苦しい沈黙だけが広がるのみだった。


「父上……できません……」


「なに……?」


「なにも……できないようです。なにも起こりません……」


 これで疑いの余地もない。

 謎のスキル《0ターンキル》は……正真正銘の外れスキルだ。


「ば……馬鹿な……」


 父もよほどのショックを受けたのだろう。

 頭を抱え、その場にうずくまってしまった。


「ち、父上、その……」


「――申し訳ないが、その場をどいていただけないかな。次の若者が控えておりますゆえ」


「あ……はい。すみません……」


 神官に冷たく言われ、俺はそそくさと檀上から離れる。


「もう駄目だ、おしまいだ……。私はいったい、なんのために息子を育ててきたのだ……」


「父上……」


 俺が声をかけても、父はいっさい反応しない。

 ただただ絶望に染まった表情で、ひたすら悔やみの言葉を呟いている。


「嘘でしょ……? 剣聖の家系なのに、外れスキル……?」

「ガイア様……可哀そう……」

「オルランド家もこれで終わりかしら……。ワンチャン玉の輿狙おうと思ってたのに」


 見物人たちもヒソヒソ話を繰り返すのみ。


 先ほどはまた別の意味で注目を集めてしまっているのを、俺は肌で感じ取っていた。


 と。次の瞬間。



「むむっ! 出ましたぞ! スキル《剣聖》っ!」



「おおおっ! すげぇぇぇぇぇぇぇええ!」

「まさかのここで《剣聖》か!」

「え、待って? あの人なんか……かっこよくない?」


 俺のときとはまるで違う、賑やかな歓声が沸き起こった。


「んあ? 俺が剣聖? マジで?」


 当の本人は現実を飲み込めないのか、きょとんと目を丸くしたままだ。自分が《剣聖》スキルを授かったことが、よほど信じられないらしい。


 ――それもそのはず。


 彼の名はベルフ・オルランド。


 俺の“双子の弟”だが、とにかく自分の欲望に忠実な男だった。剣の修行などはなにかにつけてサボっていたし、それでいて女好き。父に何度叱られても、夜遊びに女遊びに……英雄として名高い剣聖とはほど遠い人物だった。


 だからこそ父はベルフの教育をなかば放棄していたし、よりいっそう俺の修行に心血を注ぐようになった。


 おまえこそ剣聖にふさわしい、おまえは自慢の息子だと――


 事あるごとに、父に褒め称えられてきたものだ。


 その期待に応えるべく俺も修行に打ち込んできたし、ベルフの分も頑張らねばと思っていた。


 なのに――


「おお、信じていたぞベルフよ! おまえならきっと、剣聖スキルを授かるだろうとな!」


 一気に機嫌が良くなったのか、父はベルフの元へ歩み寄ると……その両肩をがしっと掴んだ。


「さあベルフよ! 私とともに剣聖への道を進もうではないか! おまえなら必ずや、いずれ私をも超えるであろう!」


「お、親父……。い、いいのか……? こんな俺で……?」


「当然ではないか! おまえだけ・・が、オルランド家の希望といえよう!」


「ああ……! 俺、目が覚めたよ! これからは精一杯、修行に励むからな!」


 な、なんだ?

 俺はなにを見せられているんだ?


「すごいなぁ……。いままで修行してなかったのに《剣聖》を授かるなんて、やっぱ才能あるんじゃないか?」

「うんうん、私ベルフ様派」

「あ、ずるい! 私もベルフ様派よ!」


 なんだよこれ。


 いったいなんなんだよ。


 いままでの修行は決して楽ではなかった。

 辞めたくなる日もあった。

 投げ出したくなる日もあった。


 すべては父の期待に応えるため。ベルフの分も頑張るためだった。


 なのに、この仕打ちは……!


「ち、父上……」


「ん?」

 俺の呟き声に、父ガイアは真顔で応じた。

「ああ、まだそこにいたのか。無能者よ」


「え…………?」


「おまえの努力は私も認めよう。だが、それをもってしても《剣聖》にはなれなかった。つまりおまえは――私が鍛える価値もない、無能者だったということだ」


 嘘……だろ……?

 父は……俺の大好きだった父は、なにを言っているんだ……?


「そんな無能者に、私の聖なる剣を教わる資格はない。とっとと出ていくのだな」


 ――出ていく。


 その言葉の意味を、すぐには理解できなかった。

 けれど。


「きゃー、ベルフ様! こっち向いてー!」

「ベルフ様ぁーー!」

「新たな英雄の誕生だ!」


 すぐに大勢の見物人が集まってきて、その中心部に父とベルフがいて。


 俺は完全に蚊帳の外で。

 その光景を見たら、惨めな気持ちがとめどなく溢れてくるのだった。


「――――ッ!」


 さすがに耐えきれなくなり、俺は涙とともに教会を後にする。


 そんな俺に気づく者は――誰もいなかった。



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