第1章-2
一部編集致しました。
―?―
「美しい…」
テノールの主からの声に、とっさに我に返る。見ると焦げた跡が体のあちこちに見られ痛々しい。自分よりもはるかに長身であり、整った顔立ちをしているが、腰の下あたりから黒いしっぽが見える。相手から敵意がなくなった様子のため、改めて男性に尋ねる。
「あの~。大丈夫ですか?色々とお尋ねしたいんですけど…」
「とんだご無礼をお嬢様。麗しきあなた様への非礼をどうか我が身に引き換えてお許しください」
何故か深々と腰を折り自分に謝罪をする男性。見ると火傷の痕もいつの間にかなくなっている。とりあえず聞きたいことを順番に尋ねてみる。「えっと。お気になさらずに。ただわたし一体どうなったんでしょうか?たしか急に何かぶつかってだんだん意識が遠くなって
…。」
とりあえず思ったことを相手に伝える。
「バカラとお呼びくださいませ。紅の瞳のお嬢様。非礼をお許し頂けるならばゆっくりと御不明点を説明致しましょう。こんなところでは失礼ですので、どうぞ私の屋敷まで」
紅の瞳?と不思議に思いながらバカラと名乗る男性から光が見えた瞬間、気付けば広い執務室に移動していた。どうやら瞬時に移動したのであろう、先程の場所とは明らかに異なる場所に立っている。地に足がついて地面を確かめると、ふと隣に女性が立っていることに気づく。腰まである長い黒髪に、2本の角を生やし、腰の下にはバカラと同様の黒い尻尾、真っ赤な瞳。失礼のないように頭を下げようとする彼女。
「こ、こんにちは!」
すると相手も全く同じタイミングで頭を下げる。
「おや、鏡を見るのは初めてですか?貴重な物ですからね。そちらに映っている姿はお嬢様のお姿ですよ」
彼女は女性と視線を合わせる。わたし?え、鏡って確か自分の身だしなみを整えるのに使うって聞いたことがあるけど…。
「え?えー----!」
室内に悲鳴が響き、彼女が落ち着くまでしばらく時間を要するのであった。
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―?玉座―
台座に腰を掛ける荘厳な壮年。傍らには、座っている壮年よりやや年下に見える眼鏡を掛けた男性が控える。壮年の前に跪く青年と王とのやり取りが始まる。
「よくぞ参った。そなたに勇者の称号を与える」
「は。有難き幸せ。必ずやこの手で魔王を討ち果たしてご覧に入れます」
「うむ。余はそなたに期待をしておる。必ずや成し遂げてみせよ。旅に必要となるものは兵に持たせる。余からは以上だ。下がってよいぞ」
「は。」
短い謁見を終え、青年はその場を後にする。
「左大臣よ。あの者が勇者で間違えないか」
「然り。間違えございませぬ」
「そうか…。此度も勇者が勝利するのであろうかな」
「願わくばと」
「ふむ。暫くは報告を待とう」
その言葉を最後に厳かな謁見の間が、静けさを取り戻すのであった。
初投稿となります。
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