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プロローグ
周りの音が次第に遠のいていく。手の感覚や足の感覚、触れている部分の感覚も少しずつぼやけていく。横たわったコンクリートの上で彼女は他人事のような感覚でそう感じていた。雨が降り続く中で、その体が濡れ、衣服が重たくなっていくが、対照的に自分の中の感覚が少しずつ薄れていき、体がふわりと浮かんでいきそうな思いさえある。実際のところ、横たわる数刻前にふわりと宙を舞ってからの現在であり、時差のような感覚でしかないのだが。
テレビの砂嵐のような雨の音。消え入りそうな息遣い。彼女はふと思い浮かべる。鈍行列車が駅に着く前に、徐々に徐々にスピードを緩め、コトンコトンと停車するまでの情景。コトン、コトンとなっているのは彼女の心臓とは知らぬまま、鈍行列車は停車し、そして停車音もないままにその音は途絶えた。
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