表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十二巫女神獣録  作者: Ирвэс
3/3

第3幕 Creator And Goddesses

 「う……んっ……!」


 目を覚ますと、透菜は青い空間の中にいた。否、正確には何処かの建物の中の青い大広間だ。目の前には玉座らしき物があるが、ここはこの建物の主の部屋なのだろうか?

 ふと近くに目を遣ると、自分以外の誰か2人が横になっている様子が視界に入る。何れも透菜と年齢的に近い年恰好の少女達の様だが、2人揃って青い衣にミニスカートかショートパンツ、素足にサンダル履きと言う出で立ちであった。この2人がトゥルメアの言っていた、透菜を含む十二の希望の一角なのだろうか?

 トゥルメアと言えば“コルカノに行く”と言う旨の言葉を彼から告げられた後、眩いばかりの光に包まれた所までは覚えているが、それから先は意識がパッタリと途絶えている為、何が有ったか全く分からないし思い出せない。

 彼の言葉を信じるとするなら、自分はあのまま眠った状態でここに運び込まれた事になるが、一体どれ位の時間を眠っていたのだろう?1時間か?2時間か?下手をすれば何十年、何百年と言う途方も無い時間を眠っていた様な気分にさえなる。

 アインシュタインの『相対性理論』によると、時間の流れる速さは観測者(こじん)によってバラバラだそうだが、眠りと言うのはその事を教えてくれる少ない例の1つと言えなくもないだろう。


 「あれ?わたし、何時の間に着替えたの?」


 気付けば透菜は、自分も近くにいる2人とデザインは異なれど、同じく青と白を基調としたローブの様な服を着せられており、下半身もショートパンツで足元は素足にサンダル履きと言う奇妙な服装をしている事に気付く。因みにサンダルは人間界で自分が履いていたのとはデザインが異なっており、カラーリングも群青色だ。


 (まるでファンタジー物のゲームのキャラの恰好みたい。でもわたしも魔法が使えるっぽいし、この世界も幻獣とかがいるって話だし、世界観的に合ってるなら別に良っか……)


 そう自分に言い聞かせる事で、透菜は自分の中で納得して見せる。良く見たら服も綺麗でお洒落だし、猶更である。


 「うぅッ……!」

 「何処や、ここ……?」


 すると、先程から自分の傍で眠っていた2人の少女が透菜から遅れて目を覚ます。

 1人は透菜より僅かに2㎝程背が低く、瑠璃色のツーサイドアップにコバルトブルーの瞳が特徴の少女。

 もう1人は逆に透菜より3㎝程背が高く、茶髪にポニーテールでライムグリーンの瞳が特徴の少女だった。


 「あっ、お…はよう……ございます……」


 目を覚ました2人に対し、透菜はたどたどしい口調でそう挨拶の言葉を掛ける。

 これまでの対人関係での失敗から羮に懲りて膾を吹いたのか、“嫌われたくない”と言う気持ちを未だ引き摺ってか、イライラされても止む無しな発言であった……。

 だが、関西弁の少女はそんな透菜に対して思い掛けない言葉を掛ける。


 「おう、お早うさん!」

 「えっ……?」

 「いや~、あのトゥルメアっちゅう奴に“コルカノ行かへん?”言われて正直不安やったし、ウチ以外誰もおらんかったらどないしょ~思てたんやけど、取り敢えず他に人間の子がおって助かったわ!」

 「は、はぁ……」

 「ん~?何やあんた、さっきから元気も覇気も感じられへんで?もっとデカい声出しぃ!アッハッハッハッハ!」

 「デカい声って、そんな……」


 元気そうに明るく笑ってのける関西弁の少女のテンションに、透菜は軽く引いていた。今までこんなタイプの子は相手した事が無かった為、どう接したら良いか分からなかったのだ。

 対応に透菜が困っていると、もう1人の大人しそうな少女が話し掛けて来る。


 「貴女も、トゥルメアに誘われてこっちに来た子なの?」

 「えっ?あっ、はい……」

 「敬語なんて無理に話さなくて良いわ。わたし達、年もあんまり違わないんだし」

 「い、良いの……?」

 「うん。自己紹介が遅れたけど、わたし桜香(おうか)!『四海桜香(しかいおうか)』って言うの。宜しく!」

 「ウチの名前は『蜜波羅木虎(みつはらきとら)』!木虎(きとら)でえぇよ~♪宜しゅうな、えぇっと……」

 「透菜(ゆきな)……わたしの名前は『村上透菜(むらかみゆきな)』って言うの。宜しくね、木虎さんに四海さん」

 「さん付け禁止!呼び捨てで呼んで!多分やけど、ウチ等長い付き合いになるやろうからな!」

 「あ、うん…じゃあ宜しく……木虎!」

 「ほなら宜しゅう、透菜♪」

 「わたしの事も桜香で良いわ。宜しくね、透菜ちゃん♪」

 「こっちこそ!」


 お互いに自己紹介を交わし、木虎と桜香の2人と親睦を深める透菜。

 何故だろう?初対面でまだ2人の事は良く知らないし、ともすればこれまで出会って来た人間達と同じく、彼女達との関係もこの先、自分自身の人間的な愚かさとミスで壊してしまうのではと不安になってしまうが、その一方で彼女達とは上手くやって行けそうだと、根拠は無いがそんな予感すらしていた。 

 どちらにせよ、それを成立させる為には自分自身がこれから始まるこの世界での、新しい暮らしの中で変わって行くしかない。人が簡単に変われないのは分かっているが、それでもこの世界でならきっとやれる筈。

 そんな風に透菜が考えていると、不意に背後の大扉が開く音がする。


 「「「!?」」」


 何事かと思って3人が振り返ると、其処に立っていたのは青い中華風の服を着た、透菜達と同じ位の年恰好の少女だった。だが彼女の頭部と尻には龍の物と思しき角と尻尾が生えており、只ならぬ雰囲気を放っているのが肌で感じられた。

 因みに足元は黒いタイツの上からブーツを履いている。


 (何?女の子?)

 (せやけど何かごっつぅヤバい感じがするで……)

 (あの角と尻尾って本物?コスプレとか……じゃないわよね?)


 少女は無言のまま、尚且つ悠然と広間を堂々と横切ると、そのまま奥の玉座に腰を下ろして3人を睥睨する。どうやら彼女がここの主らしい。

 その金色の瞳で見つめられた透菜達は、何故か言葉を話す事も出来ない処か、指一本動かす気も起きなくなっている。さながら超重力のプレッシャーが上から圧し掛かって来る様な気分だ。

 そればかりか、まるで心臓を何か巨大な手で握り締められ、相手がその気になれば自分達の命など吹けば飛ぶ様に簡単に散らされてしまう――――そんな感覚すら3人は覚えていた。

 一体、目の前の少女は何者なのだろう?それを知るべく声を発しようとするも、この状況がそれを許さない。元々空気を読むのが苦手な透菜ですら、状況に逆らえず押し黙らざるを得ないのだから相当である。


 そうして暫しの沈黙が流れた後―――。


 「ハ~イ♪初めまして、巫女(かんなぎ)の皆!あんた達とこうやって出会えて私、とおぉぉぉ~~っても嬉しいよ!!」

 「「「え………!?」」」


 突然おちゃらけた調子で話し掛けて来る少女の態度に、3人は思わず面食らった。

 そんな透菜達の心中を知ってか知らずか、少女は尚も言葉を紡ぐ。


 「ようこそ、私達の治める世界『コルカノ』へ!私はコルカノ東方の守護をゼラレフ様から任された四宝神の1柱で、名は『アズロット』!宜しくね、私の巫女(かんなぎ)ちゃん達♪」

 「は、はい……」

 「宜しゅうお願いします……」

 「貴女の巫女(かんなぎ)達……ですか……」


 自分達の予想に反して気さくに対応及び自己紹介をする、アズロットと言う神の調子(ペース)に3人は完全に乗せられていた。


 「他の奴等のとこにも巫女(かんなぎ)ちゃん達はもう着いてる頃だろうし、呼び出しが有るまで皆、自己紹介でもしてよっか?」

 「もうわたし達、神様が来る前にとっくにしましたけど……?」

 「不対不対(ちがうちがう)、あんた達が私にするの!私がここに来る前にあんた達はお互いに勝手に名乗り合ったみたいだけど、私は未だあんた達の事を名前込みで何も知らないんだから当然でしょ?明白了吗(わかったかな~)?」


 先程3人は互いに名を名乗り合ったが、雇用主とでも言うべき目の前の神には未だ本格的に名乗っていない。


 「ホラあんた達、何時までも床にへたり込んでないで、1体ずつ立ち上がって名乗りなさい。先ずはそこのあんたから!元気良く笑顔でね♪」


 アズロットに指名され、透菜、桜香、木虎の3人は1人ずつ起立すると、仕方無くもアズロットに自分達の名前を名乗って行った。

 因みに立ち上がっている間、3人は手を後ろ手に組んで真っ直ぐアズロットの顔を直視しながら自己紹介していた。


 「あんたがユキナでこの子がオウカ、でそっちの子がキトラね。確かに記憶に刻み込んだわ!」

 (この人、自分を神様って名乗ってるだけあって超絶パない……)

 (アカン……こいつに逆らうんだけは超不味いわ……)

 (さっきからわたし達、立つ事も喋る事も、何なら呼吸(いき)出来てるのも全部この人の機嫌次第って感じ……)


 3人の名を知れてホクホク顔のアズロットだったが、当の透菜達は先程から彼女が神を名乗るだけあってとんでもない相手である事を身を以て理解していた。


 先ず最初に、この部屋に入室して来た時に彼女が放っていた圧倒的なプレッシャー……。一気に四方八方から自分達の身体を押し潰す程の、圧倒的水圧が働く暗い深海の底に一気に沈められた気分だ。

 次に、透菜達が言葉を発する事が出来たのは……否、失った言葉を取り戻せたのは、彼女がおちゃらけて気さくな雰囲気を放ってからだった。アズロットが玉座に座って話し掛けるまでの間、透菜達は言葉を発する処か、俯いて指一本動かす事すら出来なかったが、それがこうして顔を上げて声を発する事が出来たのは、アズロットが気安い空気を作り出したからこそだ。睥睨されていた時は動く事も喋る事も許さず、呼吸以外の全てを禁じられていた様な感じだった。

 だが、この時点で透菜達に許されたのは顔を上げて言葉を発する事だけ。漸く立ち上がる=動く事が許されたのはアズロットが立ち上がって名乗る事を命じた時から。その命が出て、漸く「身体を動かして立ち上がる」と言う脳の電気信号の命令を、四肢の神経組織が受理出来る様になった。只、『逆らう事は絶対に許さない』と言うアズロットの意思が働いてか、3人は見えないロープで縛られるが如く両手を後ろ手に強制的に回して組まされる事になってしまったが……。

 透菜達は先程から、言葉にすればこう言う感じの表現となる感覚を、アズロットの言葉と作り出す雰囲気から短時間で嫌と言う程味わわされ、それに従って動かされていたのだ。

 生きるも死ぬも、ましてや動く事も喋る事も、何なら呼吸する事さえも全てアズロットの気分次第。全て神の采配次第であり、人間の自分達には一切の選択権も決定権も無い。


 この世界に来てまだ間が無い彼女達だが、“神”と言う物が如何に人間の理解の及ばない別次元の存在であるかを、まざまざと実感させられた訳である。


 (さっきこの神様、自分は東を守ってるって言ってたけど……)

 (西と南と北を守っとる神様もおるっちゅうんか?)

 (皆この神様と同じ位凄いって言うの?だったらこの人達を生んだって言う『ゼラレフ』って神様はどれだけそうなのよ……?)


 透菜達がアズロット以外の四宝神3柱とその創造神ゼラレフについて思いを巡らせる中、アズロットはニコニコ笑いながら3人の巫女(かんなぎ)達を見回して言う。


 「フフン♪じゃあ皆、次は何をして……」

 『アズロット様、そして巫女(かんなぎ)の皆さん、準備が出来ましたので中央ホールへと来て下さい。他の四宝神の方々も、それぞれの巫女(かんなぎ)の皆さんと既に向かっておりますので』


 すると突然その場にトゥルメアが出現し、四宝殿のホールに集合する様に告げる。


 「あっ、もう準備出来たんだ。良し!それじゃあキトラ、ユキナ、オウカ、皆待ってるし私達も早く行こっか!」

 「「「えっ……?」」」

 「ホラ、返事は?」

 「「「はい!!」」」


 玉座から立ち上がるアズロットに促されるまま、透菜達は中央ホールへと歩いて向かう彼女に付き従う形で共に歩き出す。

 アズロットの玉座の有る神の間から暫く廊下を歩いて行くと、複数の施設内へと通じる玄関の中央広間へと到達。広間の中心には、大きな太陽を思わせる絵が描かれており、その中央部は白い円となっていた。

 アズロットが広間の床に描かれた太陽の絵の中心の白い円に立つと、緑色の光の柱が天井に描かれたフレスコ画らしき絵の中心を突き抜け、そのまま天空へと一気に伸びて行く。そのまま宇宙へと立ち昇るのではないか言う程の勢いだ。


 「さぁ、あんた達も一緒にこの円の上に立つの。全員乗ったら行くわよ!」


 促されるまま透菜達が床の白い円の上にアズロットと一緒に乗った次の瞬間、自分の身体が宙に浮いて物凄いスピードで上昇して行く様な浮遊感が襲って来た。

 そのまま自分達の意識が光の中に溶けて行くかと思われた時、不意に光が弱くなって辺りは真っ暗になった。

 気付けば自分達は虹色に光り輝く巨大な円状のプレートの上に立っており、周囲は無数の星が煌めく宇宙空間。ここがトゥルメアの言う中央ホールなのだろうか?まぁ中央広間から来た訳だから中央繋がりなのは確かなのかも知れないが……。


 「ここが、中央ホール?」

 「宇宙空間やのに息が出来る?」

 「凄く綺麗……」


 透菜達が思い思いの感想を口にしていると、少し離れた場所に先客と思しき3つのグループが屯しているのが視界に飛び込んで来る。

 自分達3人と似た様なデザインの服装だが、赤と白と黒と言う異なるカラーリングで色分けされた9人の巫女(かんなぎ)達と、その中心と思しき人物が2名。

 赤い女性は鳥を思わせるデザインをした西洋風のドレスで身を包み、足元も赤と白のグラデーションのタイツに赤いお洒落な靴を履いた姿。

 対する黒い女性はOLのスーツと軍服を足して2で割った様なスタイリッシュな服装に身を包み、足元も濃いデニールの黒タイツにブーツ、目元には眼鏡と言うクールビューティだ。


 (あれがアズロット以外の神様と、その巫女(かんなぎ)達……)


 赤と黒の四宝神と思しき人物は、アズロット以上に人間に近い姿の女性の姿をしている。だが、ここで透菜は違和感を覚える。四宝神と言う位だから4柱いる筈なのに、残る白の神様の姿だけ何処にも見えないのだ。


 (あれっ?白い神様だけいない!?何処に居るの!?)


 白い服に身を包んだ巫女(かんなぎ)達のグループにどれだけ目を遣っても、残る白の四宝神と思しき人物はまるで見えない。只、白い服に身を包んだ巫女(かんなぎ)の子の1人が、白い虎猫(タビー)1匹を抱きかかえているのが気になるが……。

 すると突然、アズロットが急に前に向かって歩き出したではないか。


 (アズロット!?)

 (急にどないしたん!?)

 (あれ?アズロットの前に他のグループから誰か出て来た!?)


 アズロットが前に出て来ると、それに反応してか、赤と黒のグループの中心と思しき2名の女性がアズロットの前に出て来たではないか!

 それだけではない。先程から白い巫女(かんなぎ)の子の1人に抱きかかえられていた猫が彼女の懐から飛び降り、彼女達の元へと駆け出したのだ。


 「ヤッホー、皆!お待たせ♪」

 「漸く来たか……」

 「もう、遅いわよアズロット!」

 「1番乗りは俺とその巫女(かんなぎ)達だったけどニャ!」


 アズロットが挨拶すると、それを受けて他の黒と赤の女性がそれに答える。

 やはり赤と黒の女性は四宝神だった様だ。ここまでは透菜達も予想していた手前、然程驚かなかった。

 だが唯一驚いた事と言えば―――。


 (((((((((猫が喋った!?って言うか、四宝神だったの!?)))))))))


 何と、アズロット相手にドヤ顔で人語を喋り、自分達が1番乗りでここに来た事をアピールした猫が四宝神だったのである。

 これには透菜だけでなく、他の赤と黒の巫女(かんなぎ)の子達も唖然となった。

 尤も、白の巫女(かんなぎ)達3名は事情を知っていただろうからその手前、まるで驚いていないばかりか、寧ろ自分達の反応を見て笑って楽しんでいる様だが……。


 「さてと…皆揃った所だし、そろそろ始めちゃって下さい!ゼラレフ様!!」

 「何故お前が仕切る……?」


 自分達四宝神と、それに付き従うべき十二人の巫女(かんなぎ)の少女達が集まったのを確認すると、アズロットがゼラレフの名を叫ぶ。

 黒の四宝神がそれに対して冷静に突っ込みを入れている、次の瞬間だった!


 突然その場にいる全員の頭上が眩しく光り出したかと思うと、其処から白くて神々しい巨大な四足歩行型の神獣が出現した。外見的には空想上の動物の方の麒麟に何処と無く似ている。

 更にその傍らには、先程のトゥルメアの他、彼に似た姿で色違いの赤と白と黒の3体の獣が取り巻きとして侍っている。


 (トゥルメア以外にも別な色の鹿みたいなのが3匹も!?)

 (て事は他の色の子は……)

 (それぞれに対応した色の鹿からスカウトされてコルカノに来たってとこかしら?)


 透菜達アズロット組の3人がそう考察しているのを他所に、白くて巨大な神獣がトゥルメア達と共にゆっくり降りて来ると、アズロット達四宝神はその前に真っ先に出るや、そのまま膝を折って首を垂れて跪き、その名を呼んだ。


 「「「「お待ちしておりました。偉大なる我等が創造主・ゼラレフ様!」」」」

 ((((((((((((四宝神が膝を突いた!?))))))))))))


 アズロットの神としての存在感と威圧感は、透菜も木虎も桜香もここに来た時に初対面で嫌と言う程味わったが、どうやら他の四宝神の元に配属された巫女(かんなぎ)の子達もそれぞれの神の元で同じ想いを味わっていたらしい。

 それが創造神相手に膝を突いて頭を下げ、敬語で接している光景はまさしく12人全員にとっては驚愕の一語であった。

 やはり彼女達を生み出した創造神ともなれば、それより遥かに格上の存在なのは当然と言った所か。


 (あれが…ゼラレフ……)

 (ヤバい……尊みマジパない……もうあれしか勝たん!)

 (何て神々しくて美しいの……)


 黒と赤と白の巫女(かんなぎ)の少女達がそんな事を想っている中、ゼラレフはその場に集いし四宝神4柱を一通り見回した後、改めて透菜達12人に視線を落とす。


 「「「「「「「「「「「「!!!?」」」」」」」」」」」」


 その眼差しを向けられた時、透菜達は一切の思考が完全に停止し、茫然自失となっていた。

 目の前に降臨した白く神々しい威容は、巨大などと言う言葉では到底片付けられない規格外の存在感を放っており、遠近感すら跡形も無く消し飛ばす程だった。その場にいるのは分かっている筈なのに、脳の認識と理解が全く追い付かない。

 まるで巨大な惑星がそのまま眼前に迫っているかの様な感覚―――ともすれば自分達と言う存在を今直ぐにでも消し尽くしてしまいかねない「何か」が直ぐそこにいると言うのに、全く恐怖が感じられない。と言うより、目の前にいるこの巨大な獣自体、存在感が無ければ幻ではないかとすら思えてしまう。今、巫女(かんなぎ)達の視界を埋め尽くしている偉大なる白き者は、「存在していて存在しない」と言う矛盾した感覚で以て、彼女達に「今、ここにいる」と言う現実感を感じさせない。

 加えてその御身より放たれし金色の輝きと、無数のプラチナの粒子がこの場を満たして行く光景も、それに輪を掛けて自分達の今立っているこの場所さえ夢か現か、何なら自分達が今、生きているのか死んでいるのかさえ分からなくさせるには十分過ぎる演出であった。

 総括して、空想、現実、時間、空間、精神……自分達に世界を認識させる、ありとあらゆる概念と言う概念を根底から崩し尽くす程のその存在感は、人の身でも四宝神すら可愛く思わせるには十分過ぎると言えよう。

 何にせよ、“神とはこう言う物なのだ”と言う事を、まだコルカノに来たばかりの身でありながら、透菜達は脳や魂の髄の髄まで刻み付けられる結果となった。


 そんな巫女(かんなぎ)達の胸中など全く意に介する事無く、ゼラレフは透菜達に静かに告げる。


 『人間界より来たりし巫女(かんなぎ)達よ、待っていました―――』


 トゥルメア達同様、耳からではなく脳に直接響く声として、透菜達はゼラレフの意思を受け取っていた。

 だが、誰1人として言葉を発する事も動く事も出来ない。キリスト教やイスラム教の世界観に在る“最後の審判”が訪れる事が有るとすれば、まさにこんな形で展開して行くと言うのなら納得だ。


 『私こそがこの世界―――コルカノを創造せし者。名をゼラレフ。此度は我が世界の為、我が分身であるトゥルメア、フラメル、タウレー、ケラスタンの招聘に応じ、良くぞコルカノへの移住を決意してくれました。其方達の決断と勇気に、心よりの感謝を申し上げましょう』


 まさか透菜達に最初に告げるのがこの世界に来た事への感謝とは意外だとアズロット達は思ったが、次の瞬間ゼラレフは不意にその場から消える。

 ゼラレフがその場からいなくなると同時に、時が止まったかの様に動かなくなっていた12人の人間の少女達は漸く我に返った。

 だがそれも束の間、再びゼラレフの声が何処からともなく響き渡る。


 『誉れ高き四宝神達よ、本題に入る前にここに集いし巫女(かんなぎ)達に改めて知らしめるのです。お前達が何者で、如何なる存在であるかを―――』

 「「「「承知致しました」」」」


 要するに自分は席を一旦外すから、アズロット達に自己紹介をしろと言う事なのだろう。

 まぁ自分達の配属先の神以外、名前も何もまるで知らない為に妥当ではある。


 「じゃあ、最初は私から―――」


 最初に自己紹介するのはアズロットの様だ。最初にあの神の間でやった時と同じ体でやるのかと透菜達は思っていたが、次の瞬間彼女の身体が眩い光に包まれる。

 そして気付いた時、12人の少女達の視界にはもう龍娘の姿など何処にも無かった。だが、透菜は直ぐに知る事となる。アズロットの真の姿を―――。

 次の瞬間、聴覚と言う聴覚を破壊し尽くされそうな程の凄まじい嘶きが聞こえたかと思うと、其処にいたのは超巨大な青い東洋龍だったのだ!


 『改めて名乗るわ。私が名はアズロット!コルカノ東方の守護と統治をゼラレフ様より任されし四宝神が1柱―――『蒼龍神(そうりゅうじん)アズロット』!!』


 ゼラレフには及ばない物の、それでもエベレスト級の雄大な山脈か、太平洋の如き巨大な海がその場に現れたかと思う程の圧倒的な質量と存在感。

 よもやこれが、四宝神アズロットの真の姿とは!人間態もかなりの圧を放っていたが、真の姿が放つそれはその比ではない。やはり彼女もゼラレフの子供なのだ。


 「では、次は私の番ね」


 すると次に前に出て来たのは赤い女性の四宝神だ。同じ様に彼女の身体が眩い光に包まれたかと思った次の瞬間、身を焦がすかと思う程の熱風と共に虹色の羽根がその場に舞い散る。

 そして12人が上を見上げた時、彼女達の視界に飛び込んで来たのは巨大な赤い鳳凰だった。この世の赤と言う赤を熱と共に凝縮した様なその姿は、まさしく生命の躍動感と美しさの化身と言っても過言ではない。

 虹色のグラデーションに彩られた炎の羽根が、彼女の美しさを最大限に引き出している。


 『私はエリュニウス!大いなるゼラレフ様より生み出されし四宝神にして、コルカノ南部の守護と統治を司りし者―――『朱鳳神(しゅほうしん)エリュニウス』とは私の事よ!』


 青い龍と赤い鳳凰……ここまで来れば残りの2柱が如何なる神か、察しの付く者もいる事だろう。


 「そんじゃあ次は俺の番だな!」


 そう言って3番目に名乗るのは白い虎猫だ。白く眩い光に身体が包まれたかと思うと、虎猫の身体は巨大な水晶の塊の中に閉じ込められた。

 更にそれを取り巻くかの如く無数の水晶の槍の柱が爪の如く周囲から突き出たかと思うと、突然時空を震わせる様な巨大な咆哮が響き渡り、その音圧で水晶の塊は粉砕。

 粉砕された水晶の塊から出て来たのは、アズロットやエリュニウスと比べると小さいが、それでも山1つ分は有ろうかと思う程の巨大な白虎だった。


 『俺の名はヴァイゲル!ゼラレフ様より生み出されし西の四宝神―――『白虎神(びゃっこしん)ヴァイゲル』だ!!』


 真の姿のお披露目と共に、次々と名乗りを上げて行く四宝神。人間では抗う事は疎か、如何なる手を使って戦っても勝つ事も到底出来ないと思わせるには十分過ぎる強さと存在感を透菜達は感じていた。

 とは言え、ヴァイゲルの“白虎神”と言う肩書は他の四宝神と比べても思いっ切りそのまんまではあるが……。


 「さて、最後は我の番か……」


 最後に残った黒いクールビューティな女性が眼鏡を外すと、突如彼女の周囲が分厚い濃霧に鎖された。

 霧はそのまま中央ホール全体を覆い尽くしたかと思うと、やがて静かに晴れて行く。

 霧が全て解除された時、少女達の前に姿を現したのは山脈処か、島1つ分は有ろうかと思う程の超巨大な漆黒の亀だった。

 青龍、朱雀、白虎と来たのだから、最後の1体が玄武なのは分かり切った事だが、実際の存在感はそんな浅知恵すら吹けばあっさり飛ぶ程の別次元だ。


 『我が名はムストローグ。偉大なる我等が創造主・ゼラレフ様より生み出され、北の守護と統治を任されし四宝神が1柱―――『黒亀神(こっきじん)ムストローグ』である』


 斯くして、12人の巫女(かんなぎ)達はゼラレフ共々、自分達がこれから雇用主として仕える事となる4柱の女神達の名と威容を、脳と魂の髄から髄まで徹底的に刻み付けられたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ