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十二巫女神獣録  作者: Ирвэс
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第1幕 Forsaken Girl

 或る日の昼休み、少女は1人で過ごしていた。

 教室では他に仲良しグループを作って他愛の無い話に花を咲かせる者達や、漫画やゲームに夢中になる者達と、多くの生徒が思い思いに次の授業が始まるまでの間の時間を潰す。

 だが、少女には誰もいない。彼女には仲の良い友人もおらず、何時も孤独だった。


 少女の名前は『村上透菜(むらかみゆきな)』。東京は世田谷某所の高校に通う、高校2年生の普通の女子高生である。

 世界から嫌われ、疎まれる弱者である事を除けば―――。


 教室にいる時も、トイレで用を足して洗面所で手を洗っている時も……。


 「村上って超ウザいよね」

 「本ッ当、自分無さ過ぎ!」


 (止めて…)


 「嫌われたくなくて無理してこっち合わせようとしてんの、必死過ぎて笑うww」

 「それで滑って失敗してんだもん。マジウケるwww」


 (ごめんなさい……!)


 「見ててイラつくんだよ」

 「皆の足引っ張ってるって分かんない訳?」

 「あーマジ消えて欲しいわ」


 (そんな心算じゃなかったのに………!!)


 表立って虐められる事こそ無かった物の、何処へ行っても彼女の耳に響いて来るのは自分自身への悪意の言葉ばかり。

 自分はただ、友達が欲しかっただけなのに……。

 皆と仲良くしたいだけなのに……。

 周りに好かれようと頑張って先生や同級生達に自分を合わせようとしただけなのに……全部裏目に出て、結局は自分がウザがられ、嫌われ、疎まれるだけ。

 相談出来る相手もおらず、蔑みと嘲りの中で孤立無援の生き地獄。

 もっと要領良く立ち回る事が出来ていたら……コミュ力がもっと高かったら……仲の良い友達も出来て、今よりマシに生きられたのだろうか?

 けれど哀しいかな、透菜は周りに話を満足に合わせられる程、要領の良い子ではなかった。空気の読めないズレた発言をしたり、しなくても良いお節介をして結局周りから疎まれたり……。

 少なくとも学校に透菜の居場所など、何処にも有りはしなかった……。


 学校の授業が終わると、帰宅部の透菜は足早に校舎を後にして家路に就く。

 電車に乗って数駅程通り過ぎた後、下車してホームを出ると、彼女は唯一安らげる場所―――即ち自宅へと歩を進める。

 だが……。


 「ただいま~……」

 「あ、帰ったの?」


 家に帰った事を告げる透菜に対し、母は「お帰り」とも言わずに素気無くそう返すだけ。

 腹を痛めて生んだ子供に対してあるまじき、肉親の情味も感じない物言いだった。


 (何時もそうだ……お母さんは何時もわたしの事……)


 娘の事など、まるで眼中に無いと言わんばかりの母の態度。

 だがそれも当然だろう。

 透菜は学校のテストの成績は何時も中の下か下の上。追試こそ受けた事は無い物の、何時も赤点ギリギリ……。

 かと言ってスポーツだってそれ程得意でも無い。

 親が求めるレヴェルの能力など、彼女には備わっていなかった。

 そんな自分では親から失望され、冷遇されても無理も無い。 

 親からの塩対応はもう、ウンザリする程何度も味わって来たのに、やっぱり慣れない……。

 溜め息交じりに靴を脱ぎ、2階の私室へと階段を上って向かおうとすると……。


 「ただいま!」

 「あら、貴也!お帰りなさい!今日国語のテスト返されたんでしょ?何点だった?」

 「へっへ~ん♪92点だったよ!」


 帰って来たのは自分より5歳年下の弟だった。

 弟は自分と違って成績は優秀で、バスケでも大会で優勝する程の腕の持ち主。

 おまけに要領も良いし、世渡り上手で賢い……。

 母だけでなく、この場に仕事でいない父からの期待も厚い。

 自分と違って弟が優遇される世界のこの在り様に、透菜はもう何度目かの憤りと悔しさを覚える。


 (どうして弟ばっかりあんななの……?どうしてわたしじゃないの……!?)


 考えても考えても答えなど出ない。

 だが気付けば透菜は母のいるリビングに踵を返し、抗議の声を上げていた……。


 「良い加減にしてよ!何で何っ時も貴也のばっかりテストの成績聞いてわたしのは聞かないの!?わたしだって今日、中間返されたんだよ!?」


 すると母は先程の喜色の表情から一転し、ゴミか何かを見る様な蔑んだ眼差しでこう返した。


 「どうせあんたの成績なんて、赤点ギリギリの酷いモンでしょ?そんなんわざわざ見るまでも無いわ」

 「つーか姉ちゃん、今俺が話してる時に割って入って母ちゃん不快にさせんなよ。ホント空気読めねーよな……」

 「~~~~~~~~~~ッ!!」


 憤懣やる方無いやり切れない気持ちと共に、透菜はそれ以上何も言わず、黙って2階の自室に上がって行った。

 鞄を置いて靴下を脱いで裸足になると、そのままベッドの上に横になりながら透菜は自分の中の胸糞な想いを静かに噛み締めていた……。

 その後、19時頃に父が帰って来て食卓を囲うも、楽しそうに話す両親と弟の輪の中に自分だけ入って行けない。

 因みに父も父で、何をやらせても平均かそれをちょっと下回る程度の透菜の学力や身体能力を見限ってか、「卒業したら適当なとこに就職して出て行け」と言い放つ始末。

 透菜はそうやってずっと、小学校高学年に上がった頃から優秀な弟と比較されてぞんざいに扱われて生きて来たのである。


 さっさと夕飯を食べ終えて食器を流しに運ぶと、逃げる様に針の筵でしかない食堂から自室に飛び込む。

 

 「もう嫌……自分の人生何でこんなになったんだろ?何処で間違えたんだろ……?」


 再びベッドで横になりながら、持たざる者として生まれた己の不幸を透菜は只々嘆くばかりであった……。

 だが、透菜は気付かなかった。

 そんな自分の事を少し離れた場所から、謎の青い影が見つめている事を―――。

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