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3話 ~譲らない彼女~

「はい、これでもう大丈夫ですよ」

山道の途中で怪我をしていた旅人の親子に遭遇し、オルヴィアが傷の消毒と包帯を巻いて治療を施す。

「ありがとうございます。これで今日中に山を越えられます」

「ありがとうお姉ちゃん」

「ありがとー」

「お気を付けてー」

お礼を言う子供たちに手を振って親子の姿が見えなくなるまで見届ける。

笑顔になったオルヴィアが振り向いた先には不貞腐れたソウマが…

「これで17組ですね!困ってる人を助けるのは本当に心が晴れ晴れしますね!」

「…気分がいいところ悪いんだけどさぁ」

日が落ち始め、辺りはすっかり暗くなる。

「夜になる前に山を越える予定だったんだけど」

「困ってる人を見捨てるなんて出来ません!もし私達が助けなかったら彼らは一体どうなってのかおわかりですか!憶測でものを言う形になりますが歩けないまま一晩を過ごし、食べるものがなく空腹のまま動けなくなって行き倒れてしまい他の動物さんのお食事になるかもしれないんですよ!」

「だからってこっちの食料がスッカラカンになるまで分ける必要ないだろ」

二日分の食料をこちらが一切口にする事なく道中の旅人に渡していった…お人好しだのお節介だので済むような問題ではない。

「大丈夫ですよ、この辺りの木々には果物が生る木もありますから」

「…それ3時間前に聞いた」

「近くに生えている草木を煮込んだりすれば一晩ぐらいなら」

「どんな種類かわからないし川はずっと下だぞ」

「……ど、動物さんから分けてもらいましょう!」

「もし肉食しかいなかったらどうするんだよ。肉食べれないんだろ?」

「・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

「どうしろっていうんですかぁ~!」

「お前が何でもかんでもくれてやるからこうなったんだろうがぁ~!」

急に怒鳴られて思わず怒鳴り返す。

「…やめだやめだ。怒ったって解決しねーし腹減るだけだし…そろそろ寝る準備するか」

「そそそ、そうですね…」

完全に日が落ちて月が出始める頃…周囲が完全に闇夜に染まり、徐々に月明かりによって静かに照らされ始める。

薄い毛布を取り出し、羽織って木に寄りかかる。

オルヴィアも背負っていた得物を横に置いてソウマと同じように木に寄りかかる。

「…なぁ、気になってたんだけどそれって斧か?」

「え、それは…き、危険な…もの、です」

「いや見ればわかるよ。ただずっと布巻いたままっていうのが気になってさ。ゴブリンと会った時も、狼と遭遇して襲われそうになった時も、旅人の脚の上に倒れてた丸太をどかす時もずっと使おうともしなかったしさ」

「そ、それは…危険だから…ですよ」

「いや危険だからって…」

「とにかく!これには絶対に触らないでください!とってもすっごく危険なんです!いいですね!ぜっっっっったいに触ったり振り回したりしないようにお願いします!おやすみなさい!」

一方的に切り上げて就寝…

「癇癪持ちかってぐらい叫ぶな… ま、フリって事でお約束」

10分程待った後にこっそりと動き出し、オルヴィアが眠っているのを確認する。

…恐ろしく静かだ。まるで寝息の一つも立てていないかのように眠っている。

(悪いな、俺は興味を持ったら大人しく引き下がれない性質たちなんでね)

斧のような得物を手に取り、月明かりに照らしてまじまじと観察する。

分けられてはいるものの、刃の部分と同じ材質と思われる布が持ち手にも巻かれている。

柄の部分にしてはごつごつとした、まるで整えられていない不自然な感触だ。

一般的な斧でも持ち手から刃の部分まですらりと綺麗な形状を保っているはずなのに、この得物に関しては至る所がごつごつとして不格好である。

はっきり言って美しさがない。 色合いも濁った水色に深い青が所々に線状に伸びているような芸術性の欠片もない。

布を外すとそれこそ素人ですらここまで酷くならないという程にギザギザとした刃、材質の区分けもされていない一体と化している部位…機能性も容易に想像できるほどに…「醜い」という言葉がしっくりくる。

(もしかして自分のセンスが壊滅的なのを悟られたくないからわざと隠してたのか?)

と、2m程ある大き目の得物であるにも関わらず片手で軽々と持ち上げている事に気が付く。

まるで重量がない…斧以前に武器としての重量で言えば小型のナイフにさえ劣る。

「こんなに軽いって…武器として機能するのか?」

大型の武器は重量による恩恵が最大の特徴だ。

軽すぎると勢いがつかず、ちょっとでも切れ味が鈍ければ簡単に止まってしまう。

重すぎて持ち上げられなければ意味はないが、ある程度の重量があれば勢いがついて多少切れ味が鈍くても帳消しに出来るぐらいにはなる。

「なぁーんだ、てっきり怪力なんじゃねーかって思ったけどこんなに軽いなら別に苦でもないよな」

はははっと笑いながら斧を軽く振り回す…と、近くの木がレーザー光線で切られたように音もなく斜め一閃され、大きな音を立てて地面に倒れた。

何が起こったのか理解する間もなく、呆気に取られたソウマの手から落ちた斧が深々と地面に突き刺さる。

まるでウォーターカッターで切断するように地面がパックリと割れ、ギザギザとした刃が土に汚れる事無く減り込んでいく。

「わわわっと!」

慌てて持ち上げて外した布を巻きつけ、恐る恐るオルヴィアの方へ振り向く。

静寂とした空間に響き渡る地響きと衝撃に対して微動だにしていない…

(あ、あぶね~…な、なんだよこれ…無茶苦茶危険じゃないか…!)

よくある王道RPGに登場する最強武器か何かかと思える程におぞましい凶器にすっかり萎縮してしまい、これ以上大事を引き起こさないために早々に眠りにつくことにした。


…そして夜が明け、

「ソウマさ~~~~~~~~~ん!!!」

朝一から鼓膜を破る程の大声が響き渡った…

「ふぇあっ!?なんだなんだ!?」

沈んでいた意識を急に引き上げられ差し込む朝日に眩みながらも大慌てで立ち上がる。

「昨日の夜、布をほどいたでしょう!?あれ程触ったり振り回さないように言ったのに!」

横に寝かせてある斧?を指差してわなわなと震わせている。

「い、いや触ってないけど」

「嘘はつかないでください!布の巻き方が違ってるし木が倒れてるじゃないですか!」

「お、俺がやったって証拠があるのかよ!」

「木が倒れる程の衝撃を聞いてソウマさんがぼけーっとしてたんですか!?どうせ軽くて不格好だから振り回して大丈夫だろうぐらいの気持ちでいたんでしょう!?」

なんともまぁドンピシャに言い当ててくるのは実は全部見ていたのではないのかと思える。

「ご、ゴブリンとかがやったんじゃないのか?俺その時用を足しててここにいなかったから…」

「他の子の所為にしないでください!」

「…ごめんなさい」

あまりの剣幕につい謝ってしまう。

まるで隠し事を全て見透かされているような気分だ。

「いいですね!絶対に触らないようにしてください!」

昨日まで見せなかった怒涛の説教を終え、斧を横に寝かせたまま布を巻き直す。

巻き終わると斧を背負って目的の場所の方角を確かめて歩き出す。

「で、でもさぁ、木が倒れた衝撃で他の動物とか近寄ってこなかったから安全は確保できたって事じゃないか」

「そこは大丈夫です!」

ぶっきらぼうにきっぱりと言い切ってぷんすかしながらソウマと距離を置いて先へ進んでいく。

「いやなんで大丈夫なんだよ。そもそも野宿で二人とも寝静まったら普通盗賊とかが…」

「大丈夫と言ったら大丈夫なんです!」

余程頭にきているのかこちらの話を聞こうとしない。

ソウマの人生経験上こういう相手は自然と冷めるまで放っておいた方がいいという答えが出た。

体感1時間ほど歩いたか…昨日は旅人によく出くわしたが今日は未だにそういった気配がない。

オルヴィアも落ち着いたのか、ソウマの隣に並ぶように歩いている。

「・・・・・・・・」

「…静かですねぇ」

「あぁ…そうだな」

「…先程は怒鳴ってごめんなさい。本当に危険なものなんです…何かあったらと思うと…心配で…」

「あーうん、悪かったよ。あんなに切れるなんて思わなかったし」

「……本当に悪いと思ってますか?」

「謝ってるだろしつこいな」

「むぅ~…」

頬を膨らませて不満を訴える。

ソウマ自身が過去に幾度となく同じような説教やら訴えを聞き続けたので正直飽き飽きしている。そのため適当に返事をして聞き流す。

「そういえば俺って武器持ってないよな」

あの竜人からは外見と身体能力の変化ぐらいで、伝説の武器防具とか勇者や魔王が扱うような魔剣とか惑星最強の魔法などは一切ない。

「もっと一振りで山一つ薙ぎ払える剣の一本ぐらいあってもいいんじゃないかって思うんだけどなぁ~」

「そんな危ないもの持ってどうするつもりなんですか?」

「そりゃ迫りくる魔物や悪党をバッタバッタと…」

「いけませんよそんな事!争いごとは可能な限り避けるべきです!」

「昨日ゴブリンに演説したようにか?」

「説得です!」

「たまたま相手にされなかったから良かったけどなぁ、もし向こうに話が通じなかったらどうするんだよ。ゾンビとか洗脳されてたりとか」

「ゾンビは死者への冒涜ですよ。そのような方々は早々に元の場所へ送り返すことが慈悲なのです。…仮に生前の意思が残っている状態ならまた別の方法を考えますが」

「…お前冒涜とか慈悲とか積極的に訴えるタイプか?」

「相手に押し付けるようなことは極力避けますが、もう少し平和的解決を望むべきだと思います。確かに冒涜という考え方は一種の孤立したものですが、何もかも暴力によって解決してはいけないという自制心を保つために必要なものであって…」

昨日と同じように延々と語り始める。

流石に聞いていられないので足早に歩を進める。

「凶器も元々は護身のため、或いは作物収穫の負担を軽減するものの延長線上で誕生したものであり、相手を殺傷するという目的は本来原始的生活を維持するべくして行う狩りの対象を殺傷する必要のない相手に乗り換えてしまったことが問題で…」

しかしこう何も起こらないとこちらとしても退屈だ。せめてドラゴンの一匹でも出てきてくれないものか…

「ソウマさん、聞いてるんですか!?」

「あーはいはい聞いてますよー」

「むーっ、その言い方は聞いてないじゃないですかー!」

「聞いてるってー」

そんなやり取りを繰り返しながら山を越えてようやく人が通る様に舗装された道が見えてきた。

「近道をするはずが余計に時間がかかった気がする」

「途中で困った人達を助けられたから問題ありません」

「へーへーそうですか…ん?」

何やら小さな地響きが近づいて来る。目を閉じて耳を澄ますと複数の足音…騎馬隊かと思ったが蹄や蹄鉄とは違う。

振動の速さから牛のような動物が出せるような速度ではない。

馬と同等かそれ以上の大きさ…鋭い足音…目を開いてやってくる方向を見る。

「俺達が本来通ってくるはずの道から来るな」

近道のために山を登ることを選んだために遭遇しなかったか、時間をかけたために鉢合わせすることになったか…いずれにしても統率性からして野生の動物や魔物、旅人というわけでもなさそうだ。

「あれは…竜騎兵ですね」

(竜騎兵…いいね、ますます異世界って感じじゃん)

森の中に隠れようとせずに堂々と未知の真ん中に立つ。

オルヴィアも止める気がないのかソウマの横に来る。

「てっきり止めるかと思ったんだけど」

「騎兵隊ともなれば話が通じるはずです」

「…通じればいいけどな」

統率の取れた動きで絵に描いたラプトルのような生物が馬のように人を乗せて猛スピードでやってくる。

視界に映るだけで10頭…鞍と手綱を付け、騎手は軽装の鎧と紋章が彫られた剣を腰に差し、腕にはボウガンを装着した籠手を身に付けている。

騎兵隊は道の真ん中を遮るように立つ二人の前で停止する。

「貴様ら、我らをヴェンテイン帝国の騎兵隊と知っての事か!」

「ヴェンテイン帝国…!」

(おおっと、いきなり敵の主力部隊っぽいのが出てくるとはな。こいつはライバル登場の予感だ)

脈絡がないかもしれないが物語の主人公には好敵手ライバルが付き物…と思っている。

相手が各地から人々を奴隷にするために侵略や略奪を繰り返しているヴェンテイン帝国と知り、表情がやや険しくなるオルヴィア。

ソウマも最初にこちらに来た時よりも強くなったとはいえ、相手は武装と竜騎を連れた十人の兵士だ。

竜騎に乗り慣れているような手練れが弱いはずはない。

果たして二人だけでどこまでいけるのか…

「何事だ」

後ろから低めな声が聞こえると他の竜騎よりも大きめの竜騎に跨った男が二人の前に現れる。

他の兵士と違って重厚な鎧を身に付けている金髪の男。

「はっ!こちらの二人が我々の行く手を遮っております!如何なる処分を下しましょうか!」

「・・・・・ふーむ。そちらの美しい人、名を聞かせていただいてもよろしいかな」

「えっ」

いきなり何を仕掛けてくるかと思いきやナンパか?

「…オルヴィア…と申します」

呆気に取られる事なく警戒したまま名前を伝える。

「見た目に違わぬ美しい響きだ…して、貴殿は?」

「ソウマだ」

「勇ましさを秘めている良い名だ…それで何故我々を遮るのか?」

「おいおい兵隊さん、相手に名乗らせといて自分は名乗らねーのか?」

「き、貴様!隊長殿になんたる無礼を…!」

「…これは失礼した。私はフレイグ・ドーザ・ロッツェル。先祖代々ヴェンテイン帝国に仕える有所正しき騎士の名家である」

「あなた方帝国兵が各地で人々を帝国の奴隷にするために村や街を襲っているという話を聞いています。即刻そのような行為をやめていただきたいのです!」

間髪入れずに帝国の所業に対して物申すオルヴィア。

ソウマに怒鳴っていた時の剣幕とは別の圧を感じる…まるで暴虐的行為そのものを恨んでいるかのような…

「・・・・・・?そのような所業を…我々が?」

「既に被害に遭われた方々を救出し、その都度帝国兵と交戦した事もあります」

「この女!帝国がそのような所業をしているとでも…!」

「待て。…オルヴィア殿、そなたの申している事が嘘だとは思えない。しかし我々は遠征から戻り、帝国へと帰還している最中なのだ。それでも途中でそんな出来事が起こっているという話は一つも耳にしていない」

「・・・・・・・そうですか」

先程の剣幕が静まり、少し落ち込んだ様子で視線を背ける。

「嘘じゃないだろうな?」

「我が名誉あるロッツェル家の誇りに懸けて嘘は言っていないと約束する。…そろそろ道を開けてほしい。送り届けねばならぬ人がいるのだ」

「あ、ごめんなさい」

まだ動くつもりのないソウマに対し、すっかり毒の抜けたオルヴィアがソウマを引っ張ってフレイグの前から退く。

「貴殿達が我々に不快感を抱いているのは理解した。しかし我々も一枚岩ではないのだ…もしそのような悪行が事実であるなら、私が陛下に直接お伝え致そう」

敵意を全く感じさせないまま竜騎を走らせ、猛スピードでこの場から立ち去っていく。

他の騎兵隊もフレイグに遅れまいと竜騎を走らせる…その中で明らかに他の兵士とは違う、灰色のローブに身を包んだ人物がソウマを流し見る。

「―――!」

只者ではない気配に武者震いする… まるで待ちに待った強敵が自分へ因縁を持つきっかけのような…そんな予感が…

「……あの人」

と、ソウマとは違う反応をするオルヴィアもそのローブの人物を見つめて呟く。

「…知ってるのか?」

「いえ、ただ…あの人の周りに魔術師とは違うものが見えました」

「魔術師とは違うもの?」

そもそも魔術師自体に出会ったことがないから何とも言えないのだが…

「…恐らく星精術せいせいじゅつです」

星精術せいせいじゅつ?」

「…今はまだはっきりとわかりませんが、かなり複雑な系列の術なので整理し終えたらお話しします」

「出来ればわかりやすく頼むよ」

帝国兵が通っていった道と同じ方向へ進む。地図通りならこの先確か港町だったはずだが… しばらくして海が見え始める。

「ようやく着きましたね」

「何事もなけりゃ昨日の時点で到着するはずだったんだけどなぁー」

「何事もなかったじゃないですか」

白いレンガで建てられた住居が日の光に照らされて輝いているように見える。

港町ともなれば漁業が盛んで交易も行われて…?

「……静かだな」

「静かですね…」

嵐とは正反対とも言えるほどの快晴。

海に怪物でも出ているのかと思えば民家の扉も開けっ放し…しかも中には人っ子一人いない。

「大移動でもあったのか、ヴェンテイン帝国が襲撃したのか…」

「移動するには家具も食糧も置きっぱなしは不自然です。襲撃された割にはあまりにも綺麗過ぎます…」

先程の帝国兵の足跡が続いている…彼らは竜騎を降りて同じように街に人がいないか散策したらしい。いないと判断したのか船を一隻に乗り込んで早々に去ったようだ。

「帝国兵も探したっていうなら本当に誰もいないのか。このまま船を持ち出すってのも泥棒っぽいしなぁ…船の動かし方もマスターしとけばよかった…」

「私も船は操縦出来ませんし…それにこうまで蛻の殻になっているのも不自然すぎますね。何か事情をご存知の方を探しましょう」

「現在進行形で探してるよ」

どこぞの勇者よろしく家の中を荒らすという行為も流石に実際にやるとなると気が引ける…やったらやったでまたオルヴィアに怒鳴られそうだし。

と、そんな二人にふらふらとした足取りで近づいてくる人の姿が。

「誰だ!?」

目の隈がくっきりと浮かんで疲労困憊の老人が現れる。

「…この街の人間か?」

「分かりませんがどう見ても普通ではありません、大丈夫ですか!?」

オルヴィアが駆け寄ると老人が倒れこむ。

「…あ…アンタら…た、助けてくれ…街のみんなを…取り戻してくれ…」

「取り戻す?」

「どういう意味なんですか?街の人は何処へ?」

「…うぅ…」

「目の隈がやばいけどちゃんと眠ってるのか?」

眠るという言葉を聞いた途端カッと目を見開いてソウマに訴えかける。

「だ、ダメじゃ!眠ってはならん!あやつに…あの『悪夢の魔女』に操られちまう!」

「悪夢の魔女…?」

眠ることを恐れているため、横にさせながら事情を聴くことにする。

「悪夢の魔女とは何なんでしょう…」

「悪夢の魔女は…2週間前に近くの森の中に城を立てて…眠りについた者を次々と攫い…奴隷にしているんじゃ…そして若者の血肉を喰らい…日に日に力を強めておる…」

「成程な、爺さんは魔女に操られるから眠れないってわけか。どれぐらい寝てないんだ?」

「……今日で1週間になる…若い頃はこの程度平気じゃったが…歳も歳じゃ…もう動くことも耐える事も出来なくなってきおったわ…」

「ソウマさん、これは見過ごせませんよ。私達でこの問題を解決しなければ、この付近だけでなくもっと被害が拡大してしまいます」

「そうだな、このままだとここで立ち往生…最悪俺達も魔女に操られるかもしれないしな。爺さん、魔女のいる城の場所って詳しくわかるか?」

「…こ、この近辺の…森の…な…か…の……」

体力が限界に達したのか意識が沈み眠りにつく…と同時にゆらりと体が起き上がって虚ろなまま街から離れようとする。

「あ、おじいさん!」

「待て」

老人を連れ戻そうとするオルヴィアを引き留める。

「どうして止めるんですか!?」

「眠ってすぐ動くって事は魔女の操る力は相当のはずだ。爺さんはこのまま魔女の城に向かうかもしれない。時間は掛かるけどじいさんの後を付いて行った方が確実に魔女の城がわかるってもんだろ」

「成程、ソウマさん冴えてますね!」

我ながら良いアイデアを出せたと感心しつつも老人の後を付ける。

ノロノロとした足取りだが森の中といっても多くの足跡が一つの方向を目指している事がわかる。

どうやら眠りについた者は最初に城まで誘導され、そこから本格的に操られる手筈のようだ。

「…無事に魔女を説得出来るでしょうか」

「…は?」

「何とかして争いを避けて魔女を説得して、操っている人達を開放してもらえるようにお願いできないかと…」

「いや無理だろ。人肉喰うような奴に話し合いなんて出来るわけな…」

「ゴブリンさんだって人の肉を食べますけど平和的解決が出来るって証明したじゃないですか!」

「あれは話を聞いてたんじゃなくて延々と喋ってるお前に呆れて立ち去っただけだって言ってるじゃねーか!」

「平和的解決が通用しない相手なんて全ての生き物から見ても一部を除いていませんよ!」

「じゃーその一部って何なんだよ!?」

「・・・・・・!」

ベラベラと怒鳴っていたかと思えば急に黙りこむ。

「……なんだよ」

「…忘れてください」

不貞腐れたわけでもなく何やら嫌な事を突かれたように顔を背ける。

「…さっきも言ったけど、本当にやべー奴は自分の事しか考えねぇ。自己中なんてもんじゃねーぞ」

自分の人生経験から得た情報に過ぎないが、恐らく人外の怪物にも当て嵌まるだろう。

「平和的解決が出来るなら当然そうするべきだ。でもそうやって一貫しようとして殺されて、それでも相手が変わろうとしなかったらどうすんだよ」

「・・・・・・・」

「変えたいなら生き残んなきゃ意味ねーぞ」

「…そう、ですね…でも…」

「……最初に話が通じるかどうかを試すぐらいはいいけどな」

「ごめんなさい。我儘を言って…」

「気にすんなよ。一緒に旅してる相手が落ち込んでたらこっちも嫌だからな。思いっきりぶつかれる相手がいないと張り合いもねーし」

分かり易くやれやれと言った感じで伝えるとオルヴィアの表情も少し明るくなる。

「…ソウマさん」

持ち直すと同時に二人が足を止め、少し低い立地に聳える城に到着する。

  続く

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