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第5話「初めてのゲームと天秤に乗せられたモノ:チュートリアル」


「お前と、戦いたくなんて無かったんだけどな……」

「別に、Fランク同士で戦うメリットがないわけじゃないのよ。喧嘩ごとが起きた時に、簡単に成敗できるでしょ? 要は、簡易裁判なのよ」

「そんなの司法が滅茶苦茶だ!」


 ここは自治区でもなんでもなくただの一学校。

 そんな治外法権が許されてたまるか!


「このAIデバイス、通報(110番)通じないのよ」

「見つからなきゃ犯罪じゃない、と。そんな思考を持った奴が学校経営していいはずないだろ!」

「国を動かしてる人だってきっと同じ考えよ」

「お前は何者なんだよ」


 だが、一応倫理観は正常だ。


「私はただの一生徒よ。だからこそ、このゲームの効力がどこまで効くのか、を試したいの」

「……なるほどな」


 無茶な要求に対する効力はどこまで存在するのか――そもそも効力がどうやって強制されるのか、俺はまだ知らない。

 約束は破るものだ、とは無法者がよく言うが、勝負の結果が破られてしまったらそもそもこのシステムが成り立たない。

 ならば、何らかの方法で約束を履行するための施策があると考えて間違いないだろう。


「乗った、ただ俺は負ける気はないぞ」

「そう、でも私も同じよ」

「運勝負、とかは言わないよな?」

「当然。そうね――じゃあ、今日お互いに起こったことを予想しましょう。その予想が当たれば勝ち、外せば負けの三本先取でどう?」


 そんなものがゲームとして成り立つのか? と疑問に思ったが、そこでようやく俺は彼女の実験の意味を理解する。

 どこまでをゲームとするか。

 それを同時に確かめているのだ。


「サリー、ゲームレディー」


 その声に、俺と風見のデバイスが起動する。

 いつものポンコツAIとは違う、別のOSが起動したかのような挙動に少し面食らった。

 たった一声、それだけでデバイスがオレンジ一色に染まり、場の空気も同時に引き締まった。


『対戦者:風見ツキVs高智リュウ』


 デバイスに入っているAIがゲームの審判を執り行うらしい。

 対戦の履歴が残る、というのは勝ち星をどうやって把握するかの段階で分かっていたことだ。

 問題はこれから。


 さっき話し合ったゲーム内容を風見はもう一度サリーに向かって呟く。

・今日互いに起こったことを予想し、発言する。

・正解した場合、1ポイント。

・3ポイント先取した方の勝ち。

 概要はこれだけだ。

 ターン制でもなく、ただの実験のような戦い。


『何を掛けまス?』

「そうね……私が勝ったら、高智にはこの家を出て行ってもらうわ」

「そんなの受けられるかよ」


『では――高智サマは?』

「――これ、双方合意しないとゲームスタートしないんじゃないの?」

「さぁ? 私にも分からないわ」

「っていうか、お前、初めからそう言う魂胆だったんだな」


 考えてみれば当然だ。

 Fランク同士で戦っても、ランクアップするというメリットは存在しない。

 だけど、一人で住むところが欲しい、というだけなら手っ取り早く達成できる、かもしれない。


 そっちがその気なら……こっちも乗ってやろうじゃないか。


「俺が勝ったら、風見には退学してもらう」

「お前っ!」

「そう言う戦いをしようってことじゃないのか?」

『両者の合意形成、開始までの猶予、20秒――』


 なるほど。

 互いが互いの掛け金を皿に乗せた段階で、合意が形成されたと判断されるわけだ。

 逆に言うと、そこまではゲームを始められないということ。

 だが、その一方で俺がゲームを降りようとしても降りることは出来なかった。


「チッ――こうなったら、本気で勝つわ。多少なら高智の好きにさせてあげようと思ってたんだけどね」

「好きなところで生きろってか、それはこっちのセリフだ」

「このコミュ障!」

『2、1、開始――』


 ずっとカウントダウンを続けていたサリーが、ついに開始の鐘を鳴らす。

 20秒の猶予以前にも、ヒントはあった。

 ――そう、お互いにヒントは出し合っている。


 断言しよう、これはゲームなんかじゃない。

 どれだけ相手のことを知っているか、それの再確認だ。

 8日間という短い日数の中で、風見の行動パターンをどれだけ理解しているか、それだけだ。


「一つ目、風見は今日友達ができた」

「ん、ああ――そういう感じで行くのね」


 先手を切って言ってみた。

 言ってみたはいい。

 さて、どうやってこれは判定されるのか。


『――正解。高智、1ポイント』

「うしっ!」

「ちょっと待て! なんでお前が正解かどうかを決めるんだよ!」


 風見はサリーに向かって話しかける。だが、サリーのモードはいつもと違うのか、話しかけられても答えはない。


「私がそれに正解不正解を答えるんじゃないの?」

「それじゃ嘘吐き放題だろ。それも確認したかったことの一つじゃないのか?」

「……いやまぁそうなんだけどさ。だとしても、そこまで私のことが把握されてるとは思わないじゃん、普通さ……」


 風見の言うことももっともだ。

 だが、それは逆に言えば俺たちは常に監視されているということを示している。

 つまり、約束を破った場合、どこに居てもバレるということでは――


「一つ目、高智はトイレに行った」

『正解、風見、1ポイント』

「ちょっとそれアリなのかよ!」


 それがありならもはやこの勝負――


「二つ目、高智は立った。三つ目、高智は座った」

『風見、3ポイント――勝者は風見サマでス』

「こんなの、ゲームでもなんでもないじゃんか……」


 このゲームを始める前に、俺が思った言葉はそのまま宙を漂った。


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