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第12話「協力と選択:第1ゲーム(5)」


「高智はそれでいいのよ。協力してもらったのは私の方。むしろ助けになってあげられなくて悪かったと思ってるわ」


 あれ、俺いつの間にか何かやっちゃいました?

 いや、これはマジで。

 心の底から何かした記憶がない。


「正直――相鮫君が皆の解答用紙を集めた時点でこうなることは予想できてた」

「答えがまとまらないってこと?」

「そう。今回のテスト問題はすごく難しかったから、最も多く皆との答えが噛み合ってる人を集めてもしょうがない。だけど、もしその予想が外れたら――そのために高智に協力を呼び掛けたのよ。一応、なんともならずに済んだけどね」


 もう少し時間があったら展開は変わっていたのかもしれないわ、と風見は言う。


「で、風見は誰が一番現代文が解ける人間なのか、分かってるんでしょ?」


 少し揺らいてはいたものの、彼女は一匹狼を貫いていた。

 それに値する根拠がそこに在るということだろう。


「高智、まず一つ間違えてるわよ。この問題で答えるべきは、現代文が解ける人間じゃなくて、最も高得点を取った人間なの」

「……どういうこと?」

「言葉通り。現代文が解ける人間と得点が取れる人間は違う。少なからず相関関係にはあるとは思うけれど、多分先生の意図は――そうね、『行間を読む』ことじゃないかしら」


 風見が何を言っているのか理解できなくて、俺は若干フリーズする。

 今一度意味を噛み締めてみても、よく分からない。


「少し語弊があるかもしれないけれど、この問題を解ける人間――つまり、行間を読める人のあぶり出しが必要だったの。それが終わったから、私は抜けたわ」

「その、行間を読める人って?」

「今回のテスト問題は難しかったわ。だから答えは当然割れる。だけど、このテストを解き切れて、自分が正解だと確信している人はどういう行動を取るか――って話よ」


 もし、自分がこの問題を解き切れたら――。

 俺だったら、回答を見せることに反対するだろう。

 だけど、相鮫はそれを未然に防いでいた。

 防ぐことは出来なかったが、少なくともそれがタブーであるような空気を創り出していた。


「誰かがああいうことを言い出すのは分かっていたわ。というか、皆始めはそう思うでしょうね。他の人と比べないとこのゲームは始まらないもの」

「風見だけ参加してなかったけどな……」

「それにも一応、理由はあるんだけどね。後で話すわ」


 だが、あの時は俺も誰かが答えをまとめようと言い出すのを待っていた。

 総取りを考えていようがなかろうが、結局必要な工程であることには間違いない。


「だけど、もし自分が完全に正解しているということを理解して――その難易度を正確に把握していたらどう? 例えば――他のクラスメイトは大体間違えているだろうな、って思えたとしたら?」

「どうも何もなくない? 出来ることはないだろ……」

「なんも考えてないのね……。正解者は少なければ少ないほどいいのよ。だったら、自分の回答を隠すか間違った答えに誘導するかのどっちかでしょ」


 間違った答えに誘導する。

 正解者は少なければ少ないほどいい。

 クラス一丸となって正解を導こう、という空気の中、それを実行していた人がいると風見は言う。


「自分は自信がない、と言って――何らかの根拠を求めようとした。皆が皆自分の答えは正しいと思い込んで答えを提出しているのよ。それがクラスの集合意識で後押しされればなおのこといい――」


 だから、平均値を使ったのよと風見は言う。

 難度の高い問題があったとして、ほとんどの人は答えられない。

 だから、クラス内でそれぞれの問題に多数決を使ってしまうと平均的な点数の回答になってしまう。


 方法として間違っているのは簡単に分かる話だが、自分の答えとの近似が多くあればあるほど、その答えは正しく見えてしまう――。

 なぜなら、自分の答えにクラス全体が後押ししてきたようなものだから。

 いわば、数の暴力だ。


「だけど、本当の正解を知っているなら、そこに騙されない。むしろ騙しに行く――つまり、誘導したのよ。自分は自信がないなんて大口叩いてね。そしてクラスメイトを錯覚させたの」


 そんなわけないじゃない、と風見は相鮫に対して毒を吐く。

 相鮫は確かに底知れない空気感を身に纏っていた。

 卓越したコミュニケーション能力を使って、今後もクラスの中心に居座ることは確かだろう。

 

 だけど――俺の知っている風見は違う。

 勝利に執着はするものの、一般的な女の子だ。

 それだけに、早めにランクアップしないとクラスでの居場所がなくなってしまいそうで不安だ。


「現代文は得意な人は? とあぶり出したのもそう。あの状態で手を上げられる人なんて、いないから。いたらそれこそ主導権が握られてしまうわ。

 ――一番点数の高い人は、相鮫よ」



「皆さんの採点が終わりました。お疲れ様でした」


 帰りのホームルームで、先生が教室に入るなり終了宣言をした。

 だが、風見と話し終えたタイミングで俺の中ではとっくにゲームは終わっていた。

 なるほどな、という気持ちが半分。

 悔しい、という気持ちが半分。


 だが、相鮫の行動の全てが氷解したお陰で思い残すところは何もない。

 今回は残念だったが、純粋に風見を祝福しようと思う。


『今回のゲーム、勝者は1-F-3、うち2名でス』


 AIサリーが久々に顔を出して、結果を報告する。

 2名――その少なさに、クラス中が騒めきだす。

 だが、20人しかいない教室における2人だ、予想するには容易い数である。


 だが――その予想は、予想通りだが予想を外していた。


『勝者は――高智リュウ、東園サキ。各1万Kが振り込まれまス』


 誰でもない――このゲームの勝者は、俺だった。


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