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うっわ、マジか!?


「ふぅぅぅ……」



 何とかなった、かな。

 そっとトイレの扉を開けてみる。


 そこには……あの空間は、なかった。


 そして――



「戻って、来た、でいいのか」




 フローリングの通路を通って、リビングに。

 そこには――



「あった……」




 落ちない土の汚れが付いたアニメキャラの抱き枕と。

 そして、俺が飲み干した“エナジードリンク”と“栄養ドリンク”があった。




 


「……なるほど」




[個人ステータス]


 名前:渡会(わたらい) 耀(よう)

 種族:人

 性別:男

 年齢:20歳


 保有ポシブレナジー:5


[アクイジション ステータス]

 AS:1/17


《スペースレンタル:ランクG 3/20》 50%

熱運動(サーマルモーション):ランクF 2/50》 40%



 


 ステータスを見て、なんとなく理解する。

 やはり、あれは普通のモンスターとは違うんだろう。


 そして、今さっき不思議と使えたあの炎。


 あれも一つ目のステータスではなく。

 二つ目のステータスによる能力。


 


《スペースレンタル》を使用すると、どうやら2つ目のステータスに関係する場所に移動、するのかな。

 それと……。




「滅茶苦茶疲れたが、これ、多分ASが関係してるんだろうな」 


 最初15あったけど、今は1。

 それに最大値が増えている。

 使えば増えるスタミナみたいなもんか。




「兎に角、これから出るのは中止だ。これは寝たほうがいいな」




 俺は長時間集中した後のように脳が疲労しているのを感じて即座に決断。

 入口に鍵だけかけて、直ぐに二階に上がる。


 そして全ての窓を閉め、自分の部屋に。

 ドアの前に、本棚を移動させる。

 考えうる限りの、部屋への侵入に対する防衛策だった。

 

 やらないよりまし、その程度の。


 ステータスのおかげか、思ったほど重く感じない。

 ただ、脳の疲労度は消えておらず。

 

 体は元気なはずなのに、何かをしたいと思えない。



「後は……だめだ、寝ないとマズい」


 

 集中力を要することを脳が拒否するように、考えることができない。

 俺はそこから倒れるようにして、ベッドに。



「お休みなさい……」 

 




◇■◇■◇■◇■◇■◇■




「……朝?」



 目が覚めると、特に何かに襲われているということもなく。

 頭もスッキリとしていて、今がどういう状態かが直ぐに把握できた。


 時計:8時11分。



 ドアの前の本棚を移動させ、恐る恐る部屋の外に。

 窓を開けると、空は既に明るく日が出ている。


 これで羽ばたく怪鳥の姿や道路を歩くゾンビを目にしなければ、昨日のことが夢だったと思える。

 そう、“昨日”のこと。




 とすると、この不親切な時計が示す“8時”は俺が寝てから大体5,6時間後の夜ではなく。

 ガッツリしっかり日を跨いだ朝の8時ということになる。




「……爆睡ですな」




 俺は何とも言えない気持ちで階段を降りて行った。





「よっこいしょっと……」


 晩に食べるはずだった半額弁当を、レンジが使えないのでぬるいまま食べ。

 俺は直ぐに外に出ることにした。



 土日の昼間を寝過ごしたくらいのやってしまった感がある。

 その遅れというか使ってしまった時間を取り戻すためには少々早めに出ないとと思ったのだ。

 

 半日以上寝てしまった。

 極度の疲れから仕方ないとはいえ、食料調達はしないといけない。

 



 ステータスを確認すると『AS:17/17』と回復していた。

 やはりスタミナとかMP的要素だったらしい。

   


 リュックを背負い、自転車のカギを取り出しておく。

 徒歩より、少しでも早い自転車に乗っていくことにする。


 最悪何かあれば乗り捨ても可能だし。

 ……まあせいぜい2万の痛手ですわ。



「……何も、いないな」


 気分は盗みに入った後、出ていく時、慎重に外の様子を確かめる泥棒さん。

 誰かが外にいないか、見られてはいけないと気を張る。


 俺の場合、人・生存者ならいいが、モンスターに見つかったらアウトである。

 いや、別に即死亡につながるわけじゃないが、見つからないに越したことはない。



「これもある意味では戦闘だとして【戦闘勘】が働いては……くれないよな」


 何だろう、明確な敵がいないと発動はしないのだろうか。

【戦闘勘】先生は今休暇中らしい。

 俺は外を確認して、大丈夫そうなので、自転車の元へと小走りで向かう。


「よし――行くぞ、燕号!!」


 カッコ良さそうな名前に比して、見た目は完全なママチャリ。

 ……いいんだよ、気分だ気分。


 

 あんまり意味はないが、音を立てないよう。

 しかし力強くペダルを踏みだした。





◇■◇■◇■◇■◇■◇■


「うっわっ、マジか……」


 家を出て自転車を走らせて1分もしないうちに、コンクリートで舗装された道のそこらに。

 死体が転がっていた。


 人の頭が噛み千切られたもの。

 お腹や顔を差されて血を流し絶命したもの。

 そして何か大きな物で殴られたのか、大きく体が凹んだもの。


 

 反対に、モンスター達の死骸は一切見当たらない。

 どちらが狩る側で、どちらが狩られる側かは一目瞭然。




 モンスター達が出現したこと、そしてそれらが人を蹂躙したという紛れもない証拠だった。



「うぅぅ、先に弁当食った後で良かった」


 何も食べないでいたら、絶対食欲無くしてた。

 これからも動かないといけない以上、食べないと元気でないからな。



「できるだけ見ないようにしよう……」


 そう決めて燕号を進めることに集中する。









「おおう……やっぱり簡単には、行かないよね」


 ……残念ながら燕号とはここでお別れのようだ。

 漕ぎ出しておそらく2分かそこら。


 見上げるとスーパーの大きな看板が見えたところで。



「クソっ、ゴブってんじゃねえよ……」


 マジ邪魔なんだけど。

 店の前でたむろするゴブリンども。

 5・6匹はいる。


 ……あ、1匹また店内から出てきた、合流してる。


 ただ、ゴブリンを目にしたことで、昨日のあの蚊モドキとの違いを明確に認識する。

 あれとゴブリンは完全に異質な存在だということが肌で感じ取れた。





 奴らが集まって何やら話し込んでいるところが、中高生のヤンキーが粋がっている姿とダブる。

 変な造語を自分内で呟きつつ、俺はその場で自転車を降りる。


 そして素早く塀に立てかけて移動。



「……ぉぉ!!」



 ――人だ!!

 数人の人が、俺とは逆方向から様子を窺っているのが見えた。

 何人かがチラチラと塀から顔を覗かせている。

 ゴブリン達は井戸端会議か何かに夢中で気づいていない。




 あれは……。


「高校生か……近くのとこかな」   


 確かあんな制服をここいらで見たことがあったような、なかったような。

 6人組……か。

 多分男子が2人に女子が4人。


 ……ケッ、羨ましいご身分で。



 数は大体ゴブリン達と同じくらい。

 ……戦うのだろうか。



「丁度いい。俺以外の人がどんな感じで戦うか、この目でしっかりと見させてもらおう」


 謎の強者感という名の噛ませ臭を出しながら、俺はしっかりと息を潜めて、塀の傍から様子を窺う。

 男子が2人いるし、彼らが前衛で壁役をして、他の4人のうち、2人は遊撃、残りが後衛、とかかな。

 

 いや、完全に想像だけど。

 

「おっ、とうとう行く気か……さあ、どうでる?」


 もしくは俺の予想とは反対に、あの男子が後衛かもしれない。

 そうだったとしても、貴重な他者の戦闘場面だ。

 

 ちゃんと見て……――って!?





 

「――行け、ノロ美!! 普段から役に立ちたいって言ってたよね?」


「――いつも可愛い子ぶって男子に媚び売ってるんでしょ? 今度は私達の役に立ってきな」


「――良かったじゃん、あんたの可愛い顔とその無駄な胸の脂肪で、アイツら引きつけといてよ」


「キャッ――」





 ――3人の少女が、1人の気弱そうな少女の背を、思いっきり押した。

 押された少女は堪らず滑るようにして前のめりに転がる。



 こけた拍子に音がした。

 そしてゴブリン達が――






「――ギィシィィ?」





 

 その転んだ少女の姿を認識した。


 

 


 ――完全な(おとり)戦法である。


 



 バッ、バカかアイツら!?

 


「あっ、あっ――っ!!」



 少女はゴブリン達と目が会い、一瞬息をのんで硬直した。

 だがすぐにハッとして立ち上がる。


 そしてよろけながらも駆けだした。

 ゴブリン達も一瞬仲間達の間でどうするかの意思疎通が取れず、固まる。

 だが、直ぐに少女を追うため駆けてきた。








 ――こちら側に。



「ふざっけんなよマジで!?」



 少女がゴブリンに追いかけられたのを確認して、他の5人がスーパーの中へと入っていくのが横目に映った。

 マジで何なのあいつら!?

 

 お宅の高校どういう教育してんの!?

 ってかマジ女子って陰湿!!

 

 俺の高校時代も人のこと言えないどす黒いところを垣間見てきたけど!!

 最近の若者マジヤバい!!



 普通ゴブリンの前に生贄みたいに出すかね!?

 少女をチラッと見た限りでは可愛らしい顔をしていたが、それが返って彼女らの反感を買っていじめられてたのだろうか。

 

 俺も確かにオークでやったように、モンスター相手には、性的に興奮するような容姿が注意を引くかも、と考えるのは分からなくはない。

 だが、俺のはあくまで抱き枕カバーだ。


 あいつ等、ガチの人間、しかも多分同じ学校でクラスメイトか、そんなんを差し出しやがった!!

 そして挙句、その生贄に捧げられた少女はこっち側に走ってくる始末。



「マジであいつら覚えてろよ、次あったら絶対許さねえぞ!?」


 ガチよりのガチである。

 略してガチガチである。

 

 やだ卑猥!!


 ってんなバカやってる場合じゃないんだよ!!


 つい先月に成人したとかそんなの知らん!!

 大人には大人の役割があるのだ!!

 

 やってはいけないことをした奴らにはそれ相応の報いがあるということを教えてやる、立派な役割である。



「こ、来ないでください!!」


 少女は必死に体を動かして追ってくるゴブリンから距離を取ろうとする。






 いや、それ俺のセリフだから!?


 こっち来ないで!!



 俺が大人の役割を担えるのなら、それはこの危機を乗り越えることができた時だろう。

 

 

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