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7/9

新たな力……



「さて……」


 この段階での自分の強化は一応終わった。

 スーパーへと向かうために、何が足りないかを確認しているのだが。


 蛇口の栓を捻ってみる。



「水はまだちゃんと出るな……電気は――」


 

 先ほど飲んだ水はあまり冷たさを感じさせないものだったので、嫌な予感はする。

 俺は部屋の電気のスイッチをパチッと押してみた。



「……まあ仕方ないか」


 点かない。

 念のため、隣の畳部屋に。

 爺ちゃんの仏壇が置いてある。


 電気は紐がぶら下がっているタイプのもの。


 引っ張ってみるが、やはりつかない。


「電気は期待しない方がいいな……あ、火はどうだ?」


 電池や懐中電灯なども取ってくるリストに加えながら。

 俺はコンロを確認。


 カチッとな。


「……温かいご飯は、しばらく無理そうですね」


 気落ちはしない。

 裕福とはいえない生活を送っていた身としては、冷えたごはんを食べることも決して少なくないのだ。


 

「――まあ、最優先はやっぱり食料だな」


 後は電池とかもあればなおよい。

 今はまだ夕方だからいいが、もうすぐ日が完全に沈んでしまう。


「携帯もダメっぽいしね……」


 こういう場合、一番にかけてきそうな親父から、何の連絡もない。

 っていうか圏外になってるし、俺からもダメそう。

 画面が光ってはくれるが充電も無限ではない。


 夜に探索する可能性も考えて、やはり懐中電灯系や電池は欲しい。

 

「【夜目】みたいなスキルがあれば、いいんだけど……」


 そんなに都合よくはいかないだろう。

 俺は二階から講義に行くときに使うリュックを背負う。

 

 これにできるだけ突っ込んで持って帰ろう。

 ……流石にまだ営業続けてる、なんてことはない、よな?


 

 あんなモンスターが出てくるようになっちゃったんだし。

 未だにレジにて会計のおばちゃんがいる、なんてことはないと思いたい。

 

「……一応財布、持ってっとくか」


 本当に何があるかわからんし。

 もし持ってくだけなのが罪悪感を生むんだったら、該当分のお金を置いとけば多少はマシになるだろうし。


 念のためにと取ってあるヘソクリも机の引き出しから取り出す。

 ……一人暮らしでなんでヘソクリ、とかはいうツッコミは無しだ。


 

「あ、トイレだけ行っとこう……」



 







「ふぅ……」


 よかった、流れてくれた。


 そういえば……。



[個人ステータス]


 名前:渡会(わたらい) 耀(ヨウ)

 種族:人

 性別:男

 年齢:20歳


 保有ポシブレナジー:10


[アクイジション ステータス]

 AS:15/15


《スペースレンタル:ランクG 0/20》






 トイレのドアノブに手を掛けた時に、フッと頭に浮かんできた。


 そういえば、こっちのこと、まだ考えてなかったな。

 そもそも“アクイジション”ってのが何なのか分からんが。


《スペースレンタル:ランクG》これは【スペースレンタル】とは別と考えていいのだろうか。


 うーん。

 とりあえずやってみるか。

 

「――《スペースレンタル》発動!!」


 ――っ!!


 体から体力がグッと持っていかれた気がする!!

 と、いうことは!?







「――うぉ!? な、何だここ!?」


 発動した拍子に、握っていたドアノブが奥に押される。

 すると、そこには家の中のフローリングでできた通路はなかった。


 代わりに俺の目の前には“部屋”とすら表現できるかすら怪しい無機質な場所。

 手を伸ばせばすぐに目の前にあるドアに手が届くほど狭い。

 下は白いタイルのような材質でできている。

 

 

 一歩踏み出して両手を広げると、直ぐに横に手が触れる。

 ……せっま。


 だが一方で、この極狭空間が、ただの場所でないということが何となく肌でわかる。

 何か特別なことに使うんだ、ということが分かる空気が漂っていた。

 


「……これが、《スペースレンタル》の能力?」


 超簡易に図解するなら“トイレ|俺|” という風になる。

 本当なら“トイレ|フローリング通路”となってるんだが。


 発動して、トイレのドアを開けたら超狭い空間があって、また先にドアがある。


 

 うーん。


「これが能力としても、とにかくドアを開けないとこれ、ダメだよな?」



 だって本来出るところに出なかったんだから。

 俺はやらないと始まらない、とそっと目の前にあるドアを開いた。










「――って、何だ、普通に家じゃねえか」



 身構えて損した。

 普通に先ほど想定していたフローリングの通路に出た。

 能力って、トイレと通路の間に一室設けること?

 

 雑魚過ぎない?

 何に使うんだよ。


「ちょっとアホらしくなってしまったな……」



 何が起こるんだと緊張感を持っていたために、一気に拍子抜けだ。

 俺はトイレも済ませたことだし、もう一回何か飲もうと冷蔵庫に。









「――あ、れ?」








 開けた冷蔵庫の中を見て、無視できない矛盾が、俺の思考を停止させた。








「な、んで……あるの?」






 俺はその犯人たちを手に取る。









 その手には――










「飲んだはず、だよなこの“エナジードリンク”と“栄養ドリンク”」

 



 しかも取って置きの二つ。

 エナジードリンクに至っては随分前に買い貯めした期間限定商品。

 もうコンビニでも仕入れされていないものだ。



 そして俺は確かにこの2本を飲んだのだ。





「っ!!」




 俺は何か猛烈に感じた違和感に突き動かされるようにして走った。

 


「――ない!!」

 




 今度は、そこに置いたはずのものが、なかった。

 俺はソファーを確認し、嫌な汗を流しながらも2階へと駆け上がる。




「……な、んで、ここに」



 

 しかも、今度はあるはずのものが、なかった。



「確かに、ついていたはず、なのに……」





 俺は、ソファーに置いたはずの“抱き枕”を、保管部屋で、手に取った。


「オークにのしかかられて、土汚れが、ついていたはず、なんだ」




 俺は信じられない思いで抱き枕を手に取って、呆然としていた。

 なんだ、一体どうなってるんだ。

 ここは、本当に、俺がいた世界か?

 

 時間が遡ったのか? いや、それは腕時計を見ればわかる。

 時間は3時過ぎ――つまり、遡ったわけじゃない。

 さっきと時間は変わらず進み続けている。



 じゃあ――











 ――違う、パラレル世界?











 まさか、と思った、そこに――




 ――ブーン




「いっ!?」





 耳障りな音に驚き、慌てて振り返る。

 何か巨大な蜂でも羽ばたいたような、嫌な音。





「え――蚊?」


 



 それは、確かに蚊であった。



 だが――









「……は、はは。……お前、デカ、すぎない?」








 体長50cmはあるのではないか――それほどまでに大きく、目を凝らさずとも視認できる蚊であった。

 だが足や血を吸うための口先の部分は何だかメタリックで、柔軟性はなく、カクカクしている。

 

 通常の蚊ではないことは明らかだった。

 


「モンスター……じゃないのか?」



「ビィィィ!!」  

 


「うっわ!?」


 

 蚊モドキは俺に向けて突っ込んできた。

 

「なっ、く、くんなキモい!!」



 ――口元が、折れやすそう。



【戦闘勘】による囁きが、頭の中にフッと流れた。

 俺は自然に腰だめになる。


 おっ?


 今の、【闘術】か?

 こんな姿勢、今までしたことないのに、スッと体が動いた。

 よし!!


 そして接近しきったところに、軽く攻撃をかわし、右拳を叩き込む。

 木の枝の付け根を狙うように、蚊モドキの口元を殴りつけた。 



 見事にヒットした攻撃が、そこから先を叩き折る。

 ボキっと音がすると、蚊モドキはフラフラと地へと落ちていった。

 蚊取り線香によってパタっと落ちて行くように。



 ……意外に呆気なかったな。



「ふぅ、倒したのか? ――うわっ!!」



 

 蚊モドキは、あのスライムの時と同じく体が変質していく。

 そして、その場に虹色に輝く光が残った。


「……オークの時とは違うな」

 

 オークは死体は残ったままだった。

 素材に変わるでもなければ、特殊な硬貨を落としてくれるわけでもない。

  

「まあ、いいか」


 一先ず疑問は自分の中で封じ、その光に触れる。


 光は体の中に入っていくと、スライムの時以上の熱を伝えた。

 


「……うん、よし」



 一先ずの危機は去ったな。

 俺は下の階へと降りていった。








「――うっわ、全然よしじゃねえぇぇ」



 リビングに、先ほどと同じようなちょっとカッコいいメタリック武装をした蚊モドキが。

 しかも4体。

 

 音がしなかったから普通に降りてきたが、どうやら壁に止まっていたらしい。

 さっきは簡単に倒したが、4体一度にこれらと戦闘はできるなら避けたい。

 

 倒せる方法があるのなら別だが。 





 ――体の中が、瞬間、沸騰するように熱くなる。





「あがっ――」




 その変化に理解が追いつかず、息が詰まった。



 熱は全身を駆け巡った後、脳に集結し、そして収束する。



「ゴハッ……」




「ビビィィィッ――」





 気づかれた!?





 今むせるようにして呼吸した音を拾ったのか、4体の蚊モドキが羽ばたこうとする動作に入る。



「チッ!!」




 俺は未だ開けられたままのドアへと走る。

 トイレへと通じるドアだ。

 明らかにこの原因は先ほど使った《スペースレンタル》だと思った。


 

「ビビィ!!」



 後ろからは4体がぶつかり合うようにして飛び、我先にと俺へと迫ってくる。

 だがそれほど早くはない。


 冷静に考えたいところだが、先ほど俺を襲った熱のせいか。

 頭は、脳は、この状況に対する怒り・困惑で煮たぎっていた。


 そこに――






 ――あいつら、燃やしてしまえ。




 また、フッと考えが脈絡なく頭に浮かぶ。

【戦闘勘】先生!?

 

 いや燃やせって言っても……。

 とは思いつつ。



 何故かそれが“できる”と不思議な確信があった。

 そして確信を得ると、再び体が燃えるような熱を帯びる。


 だが今度のは先ほどよりも不快なものではなく、自信を呼び覚ますような、自分を鼓舞するような、そんな熱だった。




 ――手を、向けろ。そして、願え。





 招き入れるようにして開かれていたトイレのドアに飛び込む。

 

 と、同時に。

 声に導かれるようにして、俺はただ願った。





「――燃えろ!!」




 あたかもそれをジェットエンジンにして前へと突き進むように。

 俺の手から炎が生まれた。

 

 そしてそれが、追ってきていた蚊モドキたちに命中する。

 俺は同時に、ドア、無機質の空間、ドアを一気に通過する。


 

 目の前は便器と壁。

 ぶつかりそうになりながらもなんとかドアノブに手をかけてバタンと閉める。

 その力を利用して止まることができた。


 ドアの向こう側で、炎の直撃を受けた蚊モドキたちが、バタバタッとドアにぶつかる音が聞こえる。


 そしてカチリッ、と何かが切り替わった音がした。


あんまり面白く無いのかな、と思っていたら、またちょっとブックマークが増えてました。

やはり地味に嬉しいです!

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