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うん、退治しよう!!

「はぁ……はぁ……」


 ここ一月で一番運動したというくらいに全力で走り。

 何とか家へと戻ってくることができた。


 

 例え夜道に変質者と遭遇しても、これほど必死になることはないぞ。



「ゾンビは……大丈夫か」



 息が整い次第、2階に駆け上がる。


 外を、とりわけ道路を見渡せる部屋のカーテンを閉める。

 そしてそこからちょっとだけ顔を覗かせて外の様子を窺った。



「……ってか、意外に遅いな」  



 いや、意外も何もないんだが。

 ゾンビはまだ家よりも50mは離れている。

 ゆっくりゆっくり、一歩一歩大地を踏みしめるように歩く姿は、かえって俺の滑稽さを物語っている。





 ……あんなに全速力で逃げなくてもよかったかも。





「――って、いやいや!! 逃げるのは正解だった、うん!!」



 これは俺の雑魚っぷりをフォローしているわけではなく。

 


「……やっぱあれ、ゾンビだわ。だって、あっちに――」



 俺は、ゾンビがゆっくりと歩いているのとは真逆の方へと視線を移す。

 ここからでも視認できるところから、ゾンビの方向へと歩く小人の姿が。



「――ゴブリン、だよな……」



 今日はハロウィンでも、ましてや町内仮装大会の日でもない。

 ……そんな行事そもそもないが。


 その見るからに不健康そうな体色をした小人の姿を、この目が捉えた。


 それが、ゾンビの存在が非現実ではないことを物語っている。


 

 2階から見えるこの地域一帯に目を転じる。


 あちこちから煙が空へと上がっているのが見えた。

 そしてその煙を旋回るようにして、この世界ではお目に掛かれないような大きさの怪鳥が羽ばたいている。


「…………まだゴブリンとかの方が倒せる現実味がある大きさだな、あれは」


 俄かに信じがたいが見えてしまっている物はしょうがないと、頷いた。

 そして視線を戻す。


 

「このままだと、あいつら……」


 接触する。

 その場合、どうなるのだろうか。

 

 ゲームや2次元の世界では、プレイヤーを共通の敵としているためか、共闘して襲い掛かってきたりする。


 今の場合――



「……おおう」



 

 接敵すると、ゴブリンがゾンビに攻撃を仕掛けた。

 手に持っていた棍棒で、ゾンビに一撃を入れる。

 

 最初こそ攻撃は通っていたが、なかなか倒れないゾンビに、遂には白旗を挙げる。

 そして来た道へと引き換えし、撤退した。



「……おいおい、戦闘後も律儀にこっち来んなよ」

 


 ゾンビは、何事もなかったかのように再び行進を始める。

 そしてその方向には――



「……今になって、戸締りちゃんとしたか心配になってきた」



 俺の逃げた方向――即ち爺ちゃん家に向かっているのは明白。

 

 家の玄関入口は引き戸。

 そしてガラス製だ。


 泥棒対策としてはちゃんと監視カメラとかつけてるが――



「ゾンビは、んなこと、気にしないよな……」



 急いで1階に降りる。

 カギはちゃんとしていた。

 

 混乱していながらもきちんと締めていたことに、普段の自分の防犯意識の高さが窺える。

 

 しかし、それだけで満足はできない。

 何か入口に障害物、置いた方がいいのだろうか。



 俺は何か玄関に置くのに手頃なものはないかとリビングへ。

 そしてその途中で気づく。


「そうだ、申し訳ないが、保管してある物とか、どうだろう……」



 貸倉庫として機能している我が家では、色んなもの、それこそ電化製品や机などがかなりある。

 引っ越しが多い単身赴任の人や、何かわけがあって物を預けたい人などが、貸倉庫アプリを介して俺に預けに来るのだ。



 緊急避難的使うことも考えないと。

 とはいえ、一応預かりもの。

 最初は自分の家具類で何とかできないかな……。



「流石に冷蔵庫は重いし一人じゃ――ってうゎっ!?」



 ――ムニュ




 洗面室の鏡に、青いジェル状の奴が、張り付いていた。



「スラ、イムだよな……」



 ――ムンニュ



 ジワリ、ジワリと鏡面を上下する。

 先ほどのゴブリンやゾンビを見た後だと、もうこれがスライムにしか見えない。


「ちょ、ちょっと待ってろ!! そこを動くなよ、絶対だからな!! フリじゃないぞ!!」



 俺は慌てて洗面台からUターン。

 即座に我が家最強の家電を、収納スペースから出す。

 そこに吊るすようにしてあったガムテ―プも引っ掴む。


 

 電気コードを引っ張り、挿入。



 鏡面にはまだ対象が我が物顔で居座っている。





 スイッチ、ON!!




 ――グゥィィィィイン




 吸引力の変わらない唯一つの掃除機でない日本製でも、ブニュ、ブニュニュとキモイ音を立てながら、どんどん吸い取っていく。



「フフフッ、見たか!! 文明の利器の力を!!」



 全て吸い尽くし、鏡に俺の陰湿そうな顔が全て映し出された。

 俺はなおもスイッチを入れたままにし、ガムテープを何度も引っ張って切る。


 そして切ったテープを、丸型の吸入口にどんどん張り付けていく。

 途中、そのテープ自体も吸い取ろうと掃除機は機能し続けるが気にしない。


 そして、出口を塞ぐようにして、全て張り終える。



「フ、フフ……」



 俺はそれを見届けて、ようやくスイッチを切る。


 人類の宿敵であるカサカサ素早いGやハチを見かけたら、俺はよくこの戦法を使う。


 後は一先ず、ここに閉じ込めておこう。



「溶かされる……なんてこともないな」


 

 マンガなどの中には、衣服や繊維だけを溶かすというけしからんタイプもいたりするからな。

 少し警戒したが、スライムはそのままゴミの集積部分にて収まっていた。


 そして――



「うっわ!? 溶けやがった!?」

 


 それは、掃除機、という意味ではなく。





「……スライム自身が、溶けんのか」




 

 まるで最初からその場にはいなかったかのように。

 その掃除機のゴミ集め容器に滲むようにして、消えてしまった。





 ――瞬間、視界がブレた。








 ――いや、世界がブレた。






 ――カチッ





 ――何かが、はまる音がした。




 



〈スライム を 倒しました〉


 うぉっ!?

 び、ビックリした!!

 

 いきなり頭の中に響く感じ、ほんとやめろよ!

 マジビビるから。


〈特殊な討伐方法 による討伐を確認。獲得経験値上昇〉


 何か知らんが、我が家で代々伝わる虫嵌め殺しがよかったっぽい。



 ――ピロリロリン♪


 何とも軽快な音が流れた。

 ……若干イラっとしかねないが、まあいい。




 ――ザッ、ザザッ




 突如、場違いというか、先ほどとは噛み合っていないような音が流れる。

 古いテレビ画面に砂嵐が流れるような音。

 何か、ゲームがバグったのか、おかしくなってしまったかのように。


 ……ゲームのような世界になってしまったのに、その世界がバグるって、何だかとても違和感があった。 

 

 


〈Lvup!! Lv.1→Lv.2 に上昇〉


 おおう、スライム一匹殺しただけで何かレベルアップした。


 本当、何かゲームみたいになっちゃったのね、現実世界。


〈スラ―<ザザッ>―イムを、特殊方法―<ザザッ>―により撃破〉



 また、聞こえてくる声は、ところどころにノイズが入ったようにして聞こえ辛くなる。

 水に触れて壊れたロボットのアナウンスみたいだ。

 ……何かが、おかしい。


〈獲得ポシ―<ザザッ>―ブレナジー上昇〉


 ……ん?

 何だって?

 

 難聴系主人公にでもなったような聞き返しだが、勿論、もう一度言ってくれるわけもなく。



「――ん?」



 先ほど、スライムが勝手に駆除された掃除機の中に、何か光るものがあった。

 それは液体とも固体とも、そして気体とも区別がつかない何か、強い力を感じる――そんな光だった。

 虹色に輝き、見ている者を惹きつける。



「何だろ……スライムの素材、にしてはレアものっぽ過ぎるような気も……」



 俺は掃除機の部品を取り外していく。

 そして、外気に晒されたその光に、手を伸ばした。


「――お、おお!?」



 光は、俺の中に入ってきた。

 体の中から、熱が沸き上がってくる。

 

 そして、何でもできるような気分になると……。









「……特に、それ以外なんもない、と」



 具体的に何かできるようになったという実感はない。

 ……何だったんだ。 



 俺は仕方なく、別のことを考え、気分転換する。


 さっきの声で、何かレベルが上がったらしい。


 レベルという概念があるのなら、ステータスももしかしたらあるかもしれない。

 俺は少しワクワクしながらも――

 


「――ステータス、オープン!!」



 …。



「――出でよ、ステータス!!」



 ……。



「――我の声に答えよ、ステータス!!」



 …………。



「お願いします、出てきてくださいステータスさん!! この通り!!」



 出なさ過ぎて、もう額を地に擦り付ける土下座寸でのところで――



 ――ブォン




 おお、出た!!

 ってか今ので出んの!?


 卑屈な懇願が効いたの!?

 それとも土下座!? 皆ステータス出すときこれしないといけないの!?




 流石にそれは無いだろうと冷静に考え直し、先ほどの一連の動きを考察する。

 

 あれかな、両手を万歳のポーズから急に振り下ろした動作をしたが。

 もしかしたら手・腕の動きも、呼ぶ声に何かしら連動させないといけないのかも。



 


 宙に浮くタブレット画面のように出現したステータス。

 半透明になっており、そこを通して床が見えるようになっていた。



[個人ステータス]


 名前:渡会(わたらい) 耀(よう)

 種族:人

 性別:男

 職業:商人Lv.1

 年齢:20歳



 Lv.1→Lv.2

 HP:24→25

 MP:0

 STR(力):11

 DFE(頑丈さ):1

 INT(賢さ):18→19(+1) 

 AGI(敏捷):14

 DEX(器用さ):15→16(+1)

 LUK(運):8

  

AP(アビリティポイント):3→6

 



[スキルステータス]

 SJP(スキル・ジョブポイント):2



 1~4:【スペースレンタル Lv.1】

→5――(+)




[個人ステータス]


 名前:渡会(わたらい) 耀(よう)

 種族:人

 性別:男

 年齢:20歳


 保有ポシブレナジー:10


[アクイジション ステータス]

 AS:15/15


《スペースレンタル:ランクG 0/20》





 あっれぇぇ!?

 俺何か職業“商人”になっとる!?

 こういうのって、最初はジョブなしで、自分の好きなジョブ選んで育成していくもんじゃないの!?

 

 ちょっとクソ過ぎない、この仕様!!

 ってかスキルも何か勝手に取られてる!?


 これキャラ育成オートモードなの!? 

 俺は勝手に育成されちゃうの!?

 

“ねえ、プロデューサー、俺のこと、勝手にプロデュースしちゃってよ!!”ってか!?

 やかましいわ!!

 

 

 そこはもういいっすわ!! 

 開き直るっすわ!!




 でもさ、俺“DFE(頑丈さ):1”って紙装甲過ぎない!?

  

 ストレス耐性がない現代の若者かよ!?

 いやそうだけども!!


 痛いのは嫌なので、頑丈さに極振りしたいと思いますが全く無理そうでした!!



 やべえよ、全然強そうに見えない……。

 何かモンスターが現れてサバイバらないといけないってのに。

 

 

 このステータス、俺、真っ先にリタイアしそうじゃん。

 人生という名の理不尽な上司から速攻で肩叩きくらいそうじゃん。



 スキルの左にある『1~4』とか、あるいは『5:――』ってのは、あれか。

 スロット、ってことかな?

 そう考えると、【スペースレンタル】4つも場所取ってるぞ。

 

 お前、スペースレンタルする癖に、自分を使うためのスペースは滅茶苦茶取ってるのか。

 このままだと、俺、後一つしかスキルをセットできないことになる。


 これ、取り外し……できるよな?

 俺はそっと、恐る恐る【スペースレンタル】に人差し指を持っていく。

 

 そしてタップしてそこからスキルの外へと持っていく動作をしてみる。



「おお、よかった。外れる――あれ?」

 

 一度、きちんと外す動作を完了し、ストックに戻るようにして【スペースレンタル】が移動した。

 しかし、よく見ると、またスキルの装備欄に戻っていて――


『×:このスキルは装備後、取り外し不可です』


 ……。

 は、はは。

 ま、まさか。

 そんなはず――





『×:このスキルは装備後、取り外し不可です』


 いや。



『×:このスキルは装備後、取り外し不可です』


 

   そんな。

 


『×:このスキルは装備後、取り外し不可です』



     嘘、だろう?



『×:このスキルは装備後、取り外し不可です』



 クソがっ!?

 お前、勝手に装備されといて外れねぇスキルとか!!

 ふざけんなよおい!!

  

 俺この後残りスロット1つでどうやって戦っていくんだよ!?


 しかもジョブ商人だぞ!?

 

 何なんこれ。

 ステータス画面翻訳したら『死ね』って言われてるようなもんだぞ!?


 最悪。

 マジ最悪。


 ……はあ。

 愚痴っててもしょうがない。

 

 切り替えよう。

 人の悪いところじゃなく、良いところを見つけて褒めてあげようって爺ちゃんも言ってたし。




 ――ってか、あれ?

 なんでステータス二つあんの?

 よくわからん。


 アクイジション……ってなに?

 それはわからんけど、でもその下にあんのは《スペースレンタル:ランクG 0/20》。

 どっちもスペースレンタルかよ……。


 Lv.1とランクGはどう違うのだろう。


 ……考え込んでもしょうがない。

 とりあえず、使ってみるか。

 ……発動の仕方って叫ぶパターンでいいのかな。







「発動!!【スペースレンタル】」

 





 ――目の前には、ステータス画面とは別の、もう一つの画面が出現した。


ちょびっと情報:文字数が意外に多く感じるが、ステータス画面やスキルの文字数そのものの占める部分が結構多い。

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