仲間
主人公は男ですが、予定では二章まで登場しません。
無限に続く砂漠地帯に、咆哮が響き渡る。
それは、意義もなく、理性もなく、ただ弱肉本能に従い生あるものを襲う獣。
嗚呼、強弱もそれぞれだが、心臓を穿てば、全ての生き物同様命を絶てると言うのに、
皮肉にも悲壮にも、人間はその獣によって、大半が撃滅されてしまった。
それは弱者を襲うと言う本能に駆られ、思うがままに人間を駆逐したのだろう。
嗚呼、悲しかな、人間はこんなにも強いと言うのに・・・。
「魔獣、そっち行ったよ!」
砂漠の砂を巻き上げながら、5人の少女達が、武器を所持して声を張り上げた。
『ギャァァォォ』
少女たちの追う先には、とても鋭利な尻尾に、直径1メートルにもなる二本の鋏を所持した、サソリのような獣が権勢をしている。
「・・・りょーかい」
そして、激しい攻防のさなか、五人の中、一人の少女が軽い合図を付くと、ターゲットの死角からダガーを振り上げた。
目にも止まらない超スピード、通り過ぎ間に一閃。
『ズドォォォン』と、巨体の魔獣の尻尾が切断される。
魔獣は本能により苦悶を上げ、苦しみ紛れに鋏を振り回した。
「ナイス、ビリア、・・・レスイ!」
「分かってる!セヤァァッァ!!!!」
そして彼女たちのリーダー格の少女が、後ろに待機する策略者が指示を出すのとほぼ同時期、青く光る『聖剣』を勢いよく振り上げ、ターゲットの胴体を、知里尻に切断した。
魔獣の全身から血が噴き出し、周囲に血の雨を創る。
「秘儀、満身刹那・・・なんてね」
そしてレスイと呼ばれた少女は、魔獣を細かに切断する際奪略しておいた、手のひらサイズの魔石を、仲間たちの方へ放り投げて、笑顔を浮かべた。
「討伐完了・・・流石レイス」
「ですわね、流石わたくしたちのリーダー」
そしてそれぞれ絶賛の声をあげながら、魔獣の死骸付近に、少女たちは集合する。
仲間に絶賛され、褒め称えられたレイスは、ドヤ顔を創り、鼻息を荒くして胸を張った。
「ふっふーん!」
清々しく、とても愛らしい笑顔。
しかし、少し遅れて近づいてきた少女は、持っていた杖を魔法で消滅させて、歓喜とは別に、曖昧な顔をした。
「うん、いや、倒すことはいいんだけどねぇ、・・・これ、もっとマシな倒し方出来なかったの?」
灰色の髪を揺らし、死骸に目を向ける。
全身くまなく切断され、原型は見る影も残ってない。硬質な鋏部位でさえ、粉々に切断されている。
全くと言うように鼻根を押さえ、「はぁ~」ため息を吐いた。
「そうだよぉ、これじゃあ回収済みの魔石と、ビーちゃんの切り落とした尻尾以外使い物にならないじゃん。こいつの素材、加工したら結構強い武器になりそうだったのにさぁ」
「ご、ごめんね、リュフォー、ナーヤ」
鼻を高くしたレイスだが、仲間から的確な感想と叱責を受け、少し歯切れが悪くなる。
「まぁ、毎度のことだから諦めたけどね・・・、さて、一応魔獣の死骸は回収しておきましょ、胴体の部位なら調理次第では食べられるから」
「え~、こいつ食べるの?こいつ体内に猛毒があるって話だよ、調理次第では下手しい死ぬよ?リューやん調理できるの?」
「リュフォーが言うなら大丈夫、それに貴重な食糧、一遍たりとも無駄には出来ない」
このグロテスクな物体を見て、褐色肌の少女は、引きつった表情で嫌厭するが、
ビリアと言う小柄な少女はそれを軽く流し、リュフォーと言う少女の指示に盲従した。
否応なく言わせないそのビリア態度に、褐色肌の少女ナーヤは一度大きなため息を溢すが、渋々な態度で仕方なく、ナーヤも死体の回収作業に移った。
「そうですわ、ね。・・・それにこの前ナーヤさんが食糧庫の監視をさぼったせいで、ほとんど盗まれてしまい、貯蔵がないことですし」
「ッう・・・ご、ごめんてシャウ姉。ついうっかり・・・」
更に追加で指摘されたナーヤは、痛いところを突かれ少し口ごもる。
「貴方のうっかりは幾度目ですか」
「あはは・・・嫌でも別に・・・」
「はいはいそこまで、取り敢えず回収してアジトに戻ろ、言い合いはそれから」
ナーヤとシャウラが言い合いを始めようとしたので、レイスは手を叩いて仲裁し、制止させた。
「そ、そうですわね」
「だねぇ」
そう言うと、二人とも素直に従い、魔獣の回収作業に移ってくれる。
レイスはそんな二人を見て、いや、そんな遠慮のないやり取りをする仲間達を見て、とても穏やかな気持ちが込み上げて来た。
小柄でいつも無表情のビリア。
お姉さんらしく、誰よりも秀麗なシャウラ。
いつもみんなをまとめ、引っ張ってくれるリュフォー。
活発で皆に元気を振りまくナーヤ。
皆大好きで、とても大切な仲間。
こんな無常で、残酷な世界だけど、仲間たちと一緒なら、これからも生きて行ける。