5話 痛みとアルメリア
お待たせしました。
続きを再開していきます。
それにしても──
「アメリア、なんか雰囲気変わった?」
「…………いえ?」
帰ってきたアメリアの雰囲気に少し違和感を感じたんだけど……気のせいかな?
具体的に違和感を説明できる訳じゃないし気のせいだろう。
それから二時間ほど魔法に関する本を読んで──
「そろそろ帰りましょうか。ノア様の暮らす屋敷の案内もありますしね」
「そうだね、帰ろうか」
「屋敷でのお世話は私にお任せください」
「うん、頼りにしてる」
私にはダリアから仮の家──屋敷が与えられるらしい。
どんな家なんだろう……楽しみだ。
期待に胸を膨らませていた時──
『またおいで。いつでも待ってるよ』
「……?」
「どうしましたか?」
「いや、なんでもないよ……」
確かに頭の中に声が響いた。
今のは……後で考えよう。
取り敢えず、アメリアと共に私は図書館を出る。
〜地点:ノアの屋敷〜
「ここですね」
「…………」
案の定、屋敷はビックスケールだった。
というか何でもかんでもスケールが大きいなぁ……この世界ではこれが当たり前なのかもしれない。
ともかく目の前に聳えるのはガラス張りの豪邸。
勇者とはいえ、まだなんの成果も出していないのにこんな家を貰っていいのだろうか。
それに道中の町並みを見る限り、この世界は元の世界の中世ヨーロッパに近い。よくあるファンタジー作品と同じね。
それを考えると──現代と何ら遜色ないガラスは、相当に価値のあるものだと思われる。
「さ、中をご案内します。行きましょう」
「う、うん」
そうして案内された私の家は外見から予想できる通りのものだった。
天蓋付のベッド、滅茶苦茶大きい浴槽……キリがないからこの辺で止めるけど、最終的にスローライフがしたい私にとってこの家は理想に近い。
世話はアメリアがしてくれるし、これ以上ない環境だ。
……勇者の使命がなければ。
それに──
「ノア様、この三ヶ月は戦闘訓練だけでなく仲間集めの時間も兼ねております。まあノア様が『仲間を集めるのが面倒』であればダリアの精鋭を。『仲間が必要ない』のであれはノア様一人でも。結果的に魔王を退治出来れば国としては問題無いです。まあ今の話でわかると思いますが、この家はノア様の家と言うより勇者様御一行の家という扱いになっております。一人で暮らしたいのであればそれでも良いですが、複数人で生活する事も何ら問題はないです。後、魔王を倒した後はこの家を勇者様御一行に贈呈するそうです。一応伝えておきますね」
要は魔王を倒せれば仲間は幾らいてもいいけど、その分この家に人が増える。
最終的にこの家でスローライフする事を考えるとあまり人は多くない方がいいけど、仲間が少ないと魔王を倒し辛くなると。
うーーん……魔物の強さが分からないからなんとも言えないけど、個人的には四、五人辺りが気楽そうで良いかな。
「めぼしい所は全てご案内しましたので、ノア様の部屋へご案内しますね」
先行して地下へ続く階段を下りるアメリア。
「さ、行きますよ」
地下に私の部屋があるの……?
疑問思いつつも、取り敢えずついていくことにする
──思えば、この時強引にでも逃げ出していれば良かった。
「ここです」
何故か後ろに数歩下がるアメリア。
「え、でも」
「ここです」
地下は狭い一本道になっていて、奥に部屋が一つあるだけだ。
その部屋を私の部屋だというアメリア。
仮に私の部屋が地下にあるのだとしよう。でも──
──その部屋の扉が鉄で出来ていているのは明らかにおかしい。
よく考えれば主人の部屋が地下にある豪邸なんて聞いたことがないし、地下室は監禁するのにもってこいな場所。
「っ!」
もう二回も騙し殺されているのに疑わなかった私が馬鹿だった。
アメリアの考えを悟った私は、危険を承知で降りてきた階段へと走る。
奥にいる私が階段へ向かうにはアメリアの横を通らないといけないけど、ここで止まっていてもあの部屋に入れられるだけだ。
なら──一か八か、逃げられる可能性に賭けてみる。
「今のノア様は【レベル:1】。それが勇者だとしても──」
大して助走も取らずに走ったせいでスピードは出ていない。
冷静に対処されれば間違いなく終わりだ。だけど私を襲ったのはアメリアの冷静な対処じゃなく──
「私からは逃げられませんよ。【ウィークポイント:手】」
「……? っ!」
何かの魔法を唱えたみたいだけどよく聞こえなかった。
でも──取り敢えず私には効果が出ていない。
ならこのまま突っ切る!
アメリアの脇を通り抜けようとしたところで──
手を握られた。
それだけ、それだけなのに──
「いぎぎき゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛ぃ!?!?」
その手に途轍もない痛みが流れ込む。
思わず声にならない叫びが漏れ出す。
「痛いですよね。本来ならこんな事をするつもりは無かったんですが、ノア様の精神を叩き折るにはこれが一番良いかと思いまして」
「ァァァァァァアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
イ゛イィィィ!?」
私の手を握るアメリアの手に更に力がこもる。
身体がガクガク震え、涙が止まらない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「ノア様、申し訳ございません。あなたの存在は【間違っていた】のです」
「な、ん……」
『何の事』
そう言おうとしたけど、あまりの痛みに漏れた涙と嗚咽が止まらず上手く言葉にできない。
「でも、その【間違い】は国の不手際。ノア様に一切の非はございません。だから先に謝らせていただきました。ですが国の機密を知ってしまった以上、ノア様を生かしておく訳にはいきません。ですが──」
アメリアが私の手を離す。
でも逃げる気力はほとんど残ってない。
「それではあまりにもノア様が不憫です。ですので情報を漏らさないよう監禁する事をダリア上層部がお決めになりました。安心してください。食事は勿論、健康的な生活は保証します。もっとも、心が健康的かは保証できかねますが」
「う、ぁぁ……」
「ほらノア様、部屋に入りますよ」
再び握られる手。
……逃げたらまたあの痛みに襲われる。
脅しだと分かっていても、身体が恐怖を思い出して自然と扉へと歩を進めてしまう。
開かれる鉄の扉。
「さ、どうぞ」
部屋に入る以外の道が私には無い。
痛みに慣れていない私にとって、あの痛みは私から冷静な判断力を奪うには十分なものだった。
鉄の扉が閉じ、施錠音が地下に響く。
「さて、ノア様にプレゼントです」
僅かな隙間から投げ入れられたのはしっかりと研がれたナイフ。
「疲れたらお使いください。では」
そう言ってアメリアは何処かに行ってしまう。
それと同時に、私の手に残っていた痛みが綺麗さっぱり無くなった。
……そういえば一時的に体の一部に弱点を付与する【ウィークポイント】という拷問用の魔法がある事を図書館で読んだ。
魔法の継続時間が終わると痛みは消え、その魔法によって増加された傷もほとんど治るのだとか。
「もう少し抵抗していれば……」
いろいろとやる気も失せてきた。
もうナイフを心臓に突き立てて死ぬ?
でも私は死んでも死にきれない。
どうせループする。
なら……
「次の世界の為に、少しでも情報が欲しい
所」
そう呟いたところで──
「ノア、様?」
「ん?」
部屋の奥から声が聞こえた。
そこにいたのは私と同じ年位の可愛い女の子。
髪は鮮やかな金。
別にそれは珍しくないけど──耳が尖っている。
ファンタジー作品とかによく出てくるエルフの特徴をそのまんま形にしたような子だ。
「誰?」
「私はアルメリア=ラヴァンドラ。私を見てノア様の中に沢山疑問産まれたと思います。全て説明しますので、どうぞそこにお座りください」
そう言って向かいのソファを指差すアルメリア。
……思ったより整備されてる……ベットとトイレくらいしかないと思っていたからビックリ。
「まずは私の事を説明しますね」