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1話 殺されました







 私──空舟焔(そらふねほむら)は、スキあらば『異世界に転生して、気ままに暮らしたい』と考える、アニメが大好きなだけの普通に()()()()JKだ。


 いつでも異世界転生したいと願っている割に、身体が弱い事を除けば私は相当恵まれている。

 ……まあ、だからこそ異世界転生を願っている訳だけど。


 役者、書道八段……キリがないからこの辺にしておくけど、私は厳しい親の元で産まれて色々と叩き込まれた。

 幸い、私は『超記憶症候群(ハイパーサイメシア)』──見たもの聞いたものを全て暗記してしまう病気を患っている。

 この病気(才能)? のおかげで、それらを覚えるのにさして苦労はしなかった。


 でもまあ──色々出来る分、他人からの期待も大きかった。

 期待に応えられないと勝手に失望され、応えたら応えたで嫉妬を買って妬まれる。もううんざりだ。

 この前なんて友達だと思っていた同世代の役者にナイフで殺されかけた。

 こういうのは()()()だし、体が弱いからという理由で個人的に柔道を習っていた。

 そのおかげかたまたま三回とも無傷で済んだけど、次がそう上手く行くとは限らないし、何より怖いものは怖い。


 色々言ったけど、要は──


『こんな面倒な世界嫌だ。誰にも邪魔されず気ままに暮らしたい!』


 という事。

 まあそんなこんなで、私は異世界転生を望んでいる。




 〜地点:時紬(ときつむぎ)高等学校 図書館〜 




 私の通う学校──時紬高等学校の図書館は滅茶苦茶大きい。

 百万もの蔵書があり、ジャンル問わずあらゆる本が置いてある。

 私は本が好きだ。

 知識を得られるし、いくら読んでも本は襲ってこない。

 時紬に入学した理由もこの巨大な図書館があったからだ。


「今日は何を読もうかな……」


 授業も終わり、今日は役者の仕事も無い。

 家に帰っても親に色々言われるだけだし、今日は夜までここで読み(ふけ)るつもりだ。


「これと……これと……あとこれも」


 いくつかの本を、特に見境なく手に取っていく。

 その適当に手に取った本の中、一つ変な本がある。

 黒一色だし、出版社も作者も書いてない。貸出用のバーコードすら付いていない。

 タイトルは──


「『予言の書:勇者』……まさかね」


 ラノベなんかでは、こういう変な本を開いて異世界に転生する展開がよくある。

 ……一応本を開いてみる。


 ………………

 …………

 ……


「そりゃあ何も起きないよね……」


 なんだか馬鹿らしくなった。

 でも気になるし、取り敢えずこの本を読んでみる。


「なに、これ……」


 本にはたった三文字、こう書かれているだけだ。


天野遙(あまのはるか)


 天野遙──私の幼馴染だ。

 どうして遙の名前が……彼女なら異世界転生出来たとか? ……そんな訳無いか。


「どっちにしろ、私に異世界転生は出来そうに無いね」


 まあでも、この本は色々と不審な点が多い。

 貸出用のバーコードは無いけど、借りられそうなら家で少し調べてみよう。

 そんな時──


「あ、焔ちゃんやっぱりここにいた。暇な時はいっつも図書館にいるよね……」

「遙?」


 タイミングが良過ぎるし、さっきの本と何か関係があるかもしれない。


「ほら、前に言ってたクッキー作ってきたよ!」

「やった、楽しみにしてた」


 遙の最近の趣味がお菓子作りらしく、試作品の試食をお願いされていた。


「じゃあ外行こうか。ちょっと待ってて、本借りてくる」


 当然図書館は飲食禁止。

 今日読む予定だった本は借りて、遙と一緒に外に出る。




 〜地点:時紬高等学校 屋上〜




 時紬の屋上は毎日開放されていて、なおかつ広く整備されている割に人が少ない。

 大人数が嫌いな私のお気に入りの場所だ。


「さ、食べて食べて! 感想もちょーだいね!」


 早速屋上の端を陣取って、遙のクッキーを試食する。

 バニラがほんのり香り、サクサク食感のクッキーの美味しさを引き立てていてとても美味しい。


「これ、ホントに美味し……………………?」


 何か身体に違和感を感じる。

 感想を言うために口を動かそうとしたけど、上手く口が動かない。


 ──それだけじゃない。

 世界がぐにゃりと歪み、私の頭が床に叩きつけられる。


「【テトロドトキシン】焔ちゃんならこれで分かるよね?」

「……!?」


 その言葉で、私は遙のやった事と考えを全て悟った。

 あーあ、遙だけは信じてたのにな……


【テトロドトキシン】

 フグに含まれる経口毒で、青酸カリの800倍以上の毒性を持つ猛毒。

 当然一般人が入手出来るモノじゃないけど、遙の家はフグ専門店を営んでいる。

 遙がこの毒を入手するのは難しい事では無いと思う。

 本来なら口に入れてすぐに症状は出ないだろうけど、それはあくまで少量での話。

 クッキーにどれくらいの毒が入っていたかは分からないし、身体が弱いと毒が回るのも早いのかもしれない。


 ──どちらにせよ、テトロドトキシンは致死性の毒。

 正しい対処をすれば生きられるかもしれないけど、(裏切り者)しか居ない今の屋上でそれを期待するのは無駄でしかない。


「もう動けなさそうだね。じゃあ、また明日ね!」


 そう言って、遙は何処かに行ってしまった。


 現実に飽き飽きしていた私だけど、いざ死ぬとなると中々感慨深いものがある。

 太陽が沈み、空が藍に染まっていく。

 私の意識も藍の空と共に沈んでいった。











 〜地点:??????〜











「……は?」


 気が付くと、私は直立していた。

 あれ? 遙に毒を盛られて倒れたはず……それに、周りの景色が屋上とは全く違う。


「勇者ノア=フレイよ、よくぞ招集に応じてくれた」

「え……マジで異世界転生しちゃった……?」


 まだ確定的な事は言えないけど、これ転生?

 生前黒だった髪の色も白に変わってるし、何より身体が軽い。

 戸惑いが隠せないけど、取り敢えず『私は転生した』という仮説を立てておこう。

 こちらの世界での私の名前はノア=フレイ。

 ……元の世界(?)の名前と共通点も多いし、覚えやすくて助かった。


『知らない場所に来たら、何よりも状況確認を優先する事』

 これは生前、サバイバルが趣味だった祖父が教えてくれた事。

 早速その教えを実践する。


 正面にいる王冠を冠ったおっさ……おじさんはこの国の王様かな?

 他にも物や兵士の格好等、いろんな視点から推測してみる。

 考えた結果──アニメなんかでよく出てくる謁見の間に近い気がする。


「早速だが勇者ノアよ。本題に入っても良いか?」

「は、はい!」


 さて、私はこの世界についての知識が全くない。ここでの話はこの世界の情報を得るチャンスだ。

 聞き流しても記憶していると思うけど、一応しっかり聞いておこう。

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