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第3章第16話 ~地下水道の戦い 4~


「それでは私もこれで。」


「ええ。頼みましたよ、マーレイアさん」


「作戦の準備に取り掛かります。」とテントから出ていくギルドマスター秘書のマーレイア。

その凛々しいと呼べる横顔は、出来る女のイメージが強く感じられた。


「ではフェルヌスさん。貴女の今後の行動についての話をしましょうか。」


「ああ、ぜひ頼む。正直、きちんとした説明を貰わないと、どう動けばいいのか分からなくて困ってしまうからな。」


会議に参加していた者達の大半がテントから出て行き、離れて行ったことを確認したモールテスは私に話しかける。

私もまた、いい加減話に流されるばかりは困ると、モールテスへと向き直る。


「それで?遊撃班担当となった私は何をすればいいのか、教えてくれるんだろうな?」


「ええ、もちろんです。」


私の問いかけにモールテスは頷く。


「まず遊撃班についての説明ですが、先程の話に出ていた四つの班組とは別の枠組みに入ります。役割は言葉通りの遊撃であり、最優先目的は地下水道に巣食っている魔物達の殲滅です。」


「・・・それはこの作戦の最終目標じゃなかったか?」


「もちろん最終目的はそうですが、貴女が行う役割は最初から最後まで魔物の殲滅です。」


「・・・・・・んん?」


モールテスの説明が理解できず、首を傾げる。


「他の班の役割を例えにしてみましょう。」


私が説明を理解できていないことに気付いたモールテスは、より詳しい説明を行い始める。


「探索班は地下水道内の探索と安全確認、それから拠点予定地の確認。戦闘班なら魔物の殲滅と拠点防衛。支援班は物資の運送と拠点防衛、地下水道内の清掃といった具合に複数の役割を持っています。・・・ですが、貴女の担当する遊撃班の役割はたった一つだけ。地下水道の魔物の全滅なのです。その過程であればどのような行動を行ったとしても問題にはしません。」


他の班が行う役割を例に出し、その上で簡潔に遊撃班が何をするのかを説明するモールテス。

だが、その内容はあまりにも自由度が高すぎであり、いっそ放置とか見て見ぬ振りとか言われてもおかしくない。


「ちなみに、これは別に放置だとかそう言う事ではありませんので。」


「(・・・心を読まれた!?)」


「このような役割にしたのは、貴女の立場と高い実力から考えた上で決めたことですので、勘違いをしないようにしてくださいね。」


「わ、分かった。」


まるで私の心を読み取ったかのように変な誤解をしないでくださいと念押ししてくるモールテス。

私が大魔王である事を知り、高いステータスを持っていることを知っているからこそ、この役割を任せたのだと言外に言っているのを感じる。


「それで突入のタイミングについてなのですが、これに関してはフェルヌスさんに決めてもらおうと思いまして。」


「私に?」


そこは直接指示を出すと言ったモールテスが決めるのが筋ではないのか。


「疑問に思われるのも当然ですが、遊撃班はあなた一人だけ。つまりは班と言う名の個人なので、態々他の班と話し合う必要はないのですよ。それに、独自行動の権限があるとしても、行使されなければ、それは無用の長物と言えるもの。ですので、それを行使するまでの間はどこかの班の一員として行動してほしいのです。ある程度自由に行動できる班を考えるとすれば探索班か救出班のどちらかが適切でしょう。」


モールテスの説明に納得する。

確かに遊撃班担当は、結局私一人だけである。

たった一人の人間の為に態々話し合うよりも、どこかの班の突入時に混ざってしまえば、さして影響などないのだろう。

その事を理解した私は、どの班の突入時に地下水道へ入るかを考え、そして決めた。


「・・・・・・決めた。私が突入するタイミングは―――――――――」






『大地の剣』のチームリーダー、ガング。

彼は冒険者ギルドに所属しているBランク冒険者である。

二本のショートソードと背中に背負った身の丈程もある大剣を自在に操り、敵を屠る様から『三つ牙のガング』という二つ名でも呼ばれている人物であった。

見た目はどこにでも見かけるような中年のおっさんじみた容姿ではあり、普段は飄々とした態度を周囲に見せている彼であるが、その実仕事に対する態度はひどく真面目で、アフターケアもしっかり行うという、見た目を裏切るような勤勉さを持った男であった。

そんな彼がこのライファの町へ来たのは、ここ最近いくつもの大きな事件に見舞われているライファの町を調査するように、とある組織から依頼されたからだ。

悪魔崇拝者たちによる悪魔召喚。

貴族連合のライファ領襲撃。

そのような、本来であれば大事になるような事件が連続して起こっている事態に、そしてそれらの事件がとある人物の手によって早期に解決されたことに、詳細を知りたがったその組織は、ガング達へ秘密裏に依頼を出したのである。

その為、彼と彼が率いる『大地の剣』に出された依頼内容は、ライファの町での事件の詳細を確認することと、その事件を解決した『フェルヌス』なる人物の詳細な情報を入手し、報告することだった。

ガング達がライファの町に来た当初、始めはこの町で起こった二つの事件の事を調べ始めた。

そして情報を集めた結果、事前の情報の通りに、二つの事件に彼の人物が関わっていたことを知った。

悪魔召喚事件では、悪魔崇拝者達が首謀者であり、約半年以上前から度々発生していた行方不明事件は彼らが引き起こしていたこと。

そしてそんな彼等と、彼等が召喚した悪魔を倒したのがフェルヌスという獣武種の女性であったこと。

解決することになった発端は、彼女の弟子である少年がこの事件に関わったかららしく、その少年を助ける為に戦い、結果として事件を解決したのだという。

貴族連合の襲撃事件も事の発端となったのはフェルヌスという女性であり、貴族達が彼女に交際(とは名ばかりの貴族としての権力を背景にした強要)を申し込んだ際に、彼女に素気無く断られたことが始まりであったと言う。

そして、断られたことに激高した貴族達がそれぞれ私兵を派遣し、徒党を組んでライファの町へと進軍したのだというのだ。

たった一人の女相手に軍勢で攻め入って来るとか、ついでに町も攻め滅ぼそうとしていたとか、正直言って頭がおかしいと言わざるを得ないと感じた。

しかもその町がある領地を統治していたのは襲撃した貴族達よりも爵位が高く、国の重鎮として名高いライファ伯爵家だった筈なのに、宣戦布告もせずに問答無用で滅ぼそうとするとか、最早呆れすら通り越してしまう程だ。

貴族達が行うとした所業は貴族階級の者が行うような事ではなく、そこらに湧き出る盗賊とかがやる襲撃と略奪行為そのものである。

もしこれが成功していたら、その貴族達は国家への反逆者として国の全土から討伐隊が派遣され、彼等が統治している領地ごと殲滅されることとなっていただろう。

だが、結局その馬鹿貴族達は自分達が言い寄ろうとしていた相手であるフェルヌスの手によって成敗されたようであった。

何でも、沙汰を下したのはライファ領の領主であるライファ伯爵であったが、その沙汰を下す前に彼らを潰したのが彼女であるというのが、ガング達が聞いた話であった。

その話自体は噂話の域を出ないものであったが、事件に関わっていた者達は彼女が潰したのだという確信を持っていた。

そしてガングは、これまで様々な情報を集めた際に、度々話に出てきていたフェルヌスという人物に興味が湧いてきた。

話を聞くだけでも、その実力は名のある英雄達と同等クラスはあるのではないかとガングは考えた。

今回の事件に関わったのも、事件解決の為に件の人物も参加する可能性があったからだ。

その予想通り、会議場となるテントの中で彼女と対面したガングは彼女を観察し、そして納得した。


「ジェスター。お前は気付いたか?」


「ええ、私も感じられました。」


会議場となっていたテントから出てきたガングとジェスターは、そこから遠く離れて設置していた自分達のテントの中で話し合っていた。

話の内容はもちろん件の人物であるフェルヌスについてであった。

彼女の容姿は確かに獣武種。

それも戦虎族のモノに見えていた。だが、その身に粗雑ながら隠されていた見知った気配を感じ取ったガングは、彼女が獣武種ではないことを理解した。

その気配とは、ドロドロとした泥のような粘着質な、覗きこもうとすれば引きずり込まれそうな底なし沼を思わせる類のものであった。

そんな気配を発する存在は、ガングはたった一つしか知らなかった。


「おそらくだが、あの女は魔族だ。あんな気配を放つ存在を、俺は奴ら以外に知らないからな。」


「私も同じ意見です。まさか、街中に魔族が潜伏しているなんて・・・・・・」


フェルヌスという女から感じられたその気配は、魔族特有のものであり、その気配は周囲へと放った際に実力の弱いものや精神面が脆い者等は、瞬く間に昇天してしまうという効果を持っていた。

しかも、魔族には力の強いものが正義という思想が一般的であり、それゆえに傲慢な者が多く、気配を抑える事を普通はしない。

気配を隠すのは何かしらの企みがある時か、力の弱い日陰者のような魔族が行う行為であった。


「それにしても、彼女の気配の隠し方が妙に粗雑であったことが気になりますね。」


ジェスターは、先程の会議場で見たフェルヌスの事を思い返しながら、そう呟く。

彼女から感じられる魔族特有の気配は、確かにある程度隠されていたようであるが、勘の鋭い者や、実際に魔族に会った者からすれば、すぐに気付かれてしまう程度の粗雑さであった。

隠し方が下手なのか、それともワザとそうしているのかと悩むジェスター。


「そう難しく考える必要はないだろうよ。さっきの会議の状況を見れば、あの女がどういう事をしているのかは一目瞭然だ。」


会議の終了間際の時にガングが行ったモールテスへの質問。

あの質問は、フェルヌスがどういう立ち位置にいるのかを調べるためと、どのような行動を取るのか確かめるためであった。

そして、その答えである独自行動の許可が出され、且つギルドマスターであるモールテスの直接指示が出されることになっていると知った彼は一つの考えが思い浮かんだ。


「おそらくだが、あの女。ギルドマスターであるモールテスを【呪魔法】か【隷属魔法】なんかで操っている可能性がある。」


ここ最近のライファの町での騒動を思い返し、何とも都合が良すぎるとガングは思っていた。

そも、過去に起こった悪魔召喚事件や貴族連合の襲撃事件など、フェルヌスがライファにやって来た頃から連続して引き起こされている。

その為、あの女魔族が事前に裏で何かしらの準備を行い、支度が整ったからこそライファの町にやって来たのではないかと考えた。

貴族連合が結成された原因となったのはフェルヌスであったし、その事から考えれば、悪魔召喚事件の時も裏であの女が手を加えていた可能性がある。

今回の事件もフェルヌスの手によって引き起こされたのではないかと考えたガングはジェスターに指示を出す。


「ジェスター。メンバーの中で斥候能力の高い奴を選んで、あのフェルヌスという女魔族を見張らせろ。あの女が不審な行動を取り始めた時には、俺達に知らせるように伝えておいてくれ。もちろん危険を感じたら逃げるようにと言うことも忘れずにな。」


「今までと、そして今回の事件を、彼女が本当に裏で手を引いていたと分かったらどうするんです?」


ジェスターからの問いに、分かっているだろうとガングは笑みを浮かべる。


「・・・決まっている。その時は、この手であの女を、その企み諸共ぶっ潰してやるだけだ・・・!」


彼がジェスターに見せたその笑顔は、まるで血肉を求める飢えた肉食獣のような獰猛な笑みのようであった。






ライファの町の東門前。

ここでは現在もうすぐ開始される地下水道への突入作戦へ向けて、私兵団の団員達が準備を行っていた。


「おい、荷車への物資の詰め込みを急げぇ!もうすぐ作戦開始時刻だぞ!」


「ルートの確認はしているか?通っていく手順は分かっているな?」


「戦闘班は地下水道入り口にて待機だぞぉ!支援班は巻き上げ機の巻き上げを頼む!」


「おい、お前武具の留め具が緩んでるぞ。」


「え?・・・げっ!?本当だ。教えてくれてありがとうな!」


「しっかりしろよ。死にたいのか?」


今回の為に集まった冒険者達と私兵団の面々は着実に突入の為の準備を進めていた。


「・・・・・・・・・」


その中で、無言で武器の状態確認を行っているのは、私兵団の総指揮を任され、そして今はライファの町の東門からの突入の指揮を行うことになったバーンズライドであった。

彼は先程の会議場での事を思い返していた。

あの場所に集っていた者達は、学者であるヴァルハルムを除き、持っている力の大小こそあれど、一人一人が一騎当千の実力を持った者達ばかりが揃っていた。

特に目を引いたのは三人の人物。

一人は元Sランクの冒険者であり、現ギルドマスターを務めているモールテス。

冒険者を引退し、全盛期を過ぎてしまったとしても、体の動きから時折滲み出てくる強者の雰囲気が感じられ、未だに現役として活躍できると思えるのは、さすが元Sランクだと感嘆した。

二人目は『大地の剣』のリーダーであるガング。

副リーダーであるジェスターもまた相当な実力者だと感じられるのだが、その上司であるガングから感じられる強者の雰囲気はそれを遥かに上回っていると思える程であった。

戦っている姿こそ見たことはないが、これまで聞かれてきた数々の活躍は誇張された噂などではないことは間違いないだろう。

ただ立っているだけの姿であっても、そこから見た印象は、まるで舌なめずりをしている猛獣という風に感じられた。

そして最後の三人目だが、会議にてたった一人遊撃班担当を任されたフェルヌスという女性。

Bランク冒険者という身分でありながら、ギルドマスターのモールテスから厚く信頼されているようであり、その事から彼女の実力はBランクの枠には収まらない傑物なのだろうと思われる。

・・・・・・だが、私には彼女の実力の程が分からなかった。

強いことはまず間違いはない。

だが、それがどれほどの強さなのか測ることが出来なかったのだ。

彼女から感じられる雰囲気は町や村などにどこにでもいる普通の女性のそれでありながら、どこか包み込まれるような圧倒されるような気配が感じられ、それだけでなく、深入りしすぎれば深淵の底へと一気に引きずり込まれてしまうのではという恐怖感すらも感じられた。

会議の最中、一度頭の中で彼女と戦うことを想像してみたのだが、唯の一度も勝てるという確信は得られなかった。

それどころかまともな戦いになどならずに、全ての戦闘で、たった一撃でやられてしまうという想像しか思い浮かべなかった。

見た目の容姿こそ十代前半の様に見えるのだが、感じられた雰囲気から、おそらく彼女はこの場に集まっている全ての実力者達を片手間で圧倒することが出来るほどの実力を持っているのだろうと思われる。

今回はそれが味方として動いてくれることに、自らが信仰する火と戦の神へ感謝したいほどである。

正直、敵として相対した時には、恥を掻こうが、醜聞に塗れようが、生き残る為に無様に奔走する自分の姿が目に浮かんでしまった。


「―――――――メデイク団長!地下水道への突入の準備が整いました!」


現実となって欲しくはない嫌な想像を思い浮かべていた時、作戦の為の準備が整ったとの報告が自分の側近から聞かされた。

頭をブンブンと横に振って、先程の想像を頭の中から飛ばして意識を切り替える。


「分かった。全員地下水道の入り口前に揃っているな。」


「はっ!何時でも突入できる状態です。」


バーンズライドの問いに頷く側近。


「宜しい。それでは私達も行くとしよう。開始時刻になり次第、我々は突入を開始するぞ!」


「はっ!私もお供いたします。団長!」


「うむ。それでは行くぞ!」


バーンズライドは自身に付き従う部下と共に歩き出す。

これから自分達が挑み、激戦を繰り広げるであろう戦場へと。





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