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第1章第3話 ~二人の出会い1~

まずは川か水辺を探そうと行動を開始して早10分。


しばらく歩いて行くと、段々と澄んだと表現できるような匂いを感じるようになり、疑問に思いつつも、気になった私はその匂いの方向へ歩いて行く。


「・・・おお、意外と早く水辺が見つかったな。」


しばらく歩いていくと、水がゆっくりと流れていく小さな川を発見。


自分が感じていた匂いは水の匂いだったのかと驚き、同時に今の自分の肉体はゲームの設定の影響を受けているのではと考える。


後で検証しようと考えつつも、まずは生活環境を整えることを優先する。


アイテムボックスに入っていた『大型テント』を川の近くに展開し設置する。


この大型テントは『キャンプセット』と呼ばれる種類のアイテムで、野外でキャンプを行うために必要な物がセットとして一通り揃っている便利グッズであり、見た目は薄茶色い小さな箱であるが、使用時には大きく広がりキャンプテントへと変形するのである。


ちなみにこのような大型テントは本来であれば十数人用であるのだが、内装を弄って私にとって使いやすいように整えたカスタム品である。


さっそく箱を地面に置き、箱上部の窪んでいる部分を押して離れる。


すると空気を吸い込むようにあっという間に箱が膨らんでいき、最終的にはサーカスとかでよく見られる大型テントの姿へと形成される。


「よし。寝床は確保できたし、次だな。」


テントの設置を行ったことで最低限の生活環境が整えられたと判断した私は、満足気に頷きながら、今度はまだ確認していなかったアバタ―キャラの身体能力等を確認することにする。


まずは基礎ステータスでの能力を調べるために一度自身が装備しているアクセサリー以外の武器と防具類を外していく。


装備を外している理由としては、主武装を身に着けていると必然的にステータスがカンストしてしまうからであり、この世界に来る前の元々の自分の体との比較にならないからである。


「メニューでの操作も可能だけど、自分で脱ぐことも可能か。脱いだものもアイテムボックスに入れることも出来る、と。」


メニュー操作で外すときは自動でアイテムボックスに入るようになっており、自分で脱いだ装備品もアイテムボックスに入れようとすれば入れることが可能と再確認。


ちなみに物の出し入れを行う時は、宙に出来た黒い穴に手を入れ、そこから出し入れを行う感じである。またアイテムボックスの入り口をイメージして手を伸ばすことでも出し入れが出来ることが分かった。

装備品を一度脱いだ後、倉庫に入れてあったステータスに影響しない適当な服と靴を取り出して装備する。



【アバタ―ウェア】:『布の服』

(最初から持っている何の効果もない基本的な服。グラフィックカスタムにて黒いワンピース型となっている。)


【レッグ】:『シルフの靴』

(『STA』の消費を軽減する魔法の靴。纏っている風が足の負担を軽減する。)



「・・・ふむ、こんなものか。」


装備を着替えた後、近くにある木の元に近づいていき、木の幹に片手を伸ばして掴み、手に力を込めてみる。


・・・するとすぐに「バキッ」と音を立てながら簡単に木の幹が抉り取れてしまった。


「マジかぁ。力半端ないなぁ。」


軽く摘まむ感じで力を入れただけでこれである。


全力を出したらどうなるのか恐ろしい想像が出来てしまえる。


今後注意して手加減しないと、むやみやたらと周りにある物を壊すことになるだろう。


その後も軽くジャンプしただけで30mは跳び上がり、小走り程度の間隔で走れば体感で時速100㎞くらい出ているのを確認した。


防御力についてはダメージを与える相手がいないので正確には分からず、試しに走っている時に木々にぶつかってみたり、転がって体を地面に擦りつけたりなどをしたが、全然痛みは感じられなかったし、怪我もしなかった。


結論として、この体はゲーム時のそれと同じ身体能力をもっているということが分かった。


【カオスゲート・オンライン】はゲームでこそあったが、ファンタジー設定の中で極限までリアルを追求していて、物理法則などはほぼ現実と同じ設定であった。


故に身体能力が上がればそれに伴ってプレイヤー達は現実ではありえないと言われるような超人的なアクションも取れるようになっていた。


おそらくはその法則が今も生きているのだろうと考えられる。


大体の身体能力の確認を終え、今度は各種戦闘スキルを使用できるのかの確認を行う。


これが使えるかどうかで、戦闘の幅が変わるのである。


『スキル』とは、『カオスゲート・オンライン』では戦闘・生産活動、イベント攻略に欠かすことが出来ない能力であり、技能のことを指す。


上限はLV10であり、極めれば各種動作や能力でさえLV1の頃とは雲泥の差と呼べるほどになる。


大別して4種類の枠があり、『武具スキル』、『魔導スキル』、『技能スキル』、『特殊スキル』が存在している。


『武具スキル』はその名の通り各種武具に関係したスキルを覚え、様々な武具や道具を用いてスタミナを消費して発動する『戦技』と呼ばれる技を習得できる。戦技はメニューから選択することでも発動できるが、特定モーションを行ったり、宣言することで発動させることも可能。


『魔導スキル』は攻撃、回復、補助の魔法関係のスキルを覚え、『ファイアーボール』などの『魔技』と呼ばれる攻撃魔法を習得できる。こちらもメニュー選択以外からの発動が可能だが、戦技のようなモーション発動ではなく使用する魔技に対応した詠唱を行うことで発動させるため、戦闘などの為に詠唱内容を覚えておく必要がある。


『技能スキル』は鍛冶や料理などの生産系から『武具スキル』『魔導スキル』の分類に入らないスキルまで覚え、『特技』と呼ばれる多種多様な技を習得する。スキル内容によってそれぞれモーションと詠唱が存在し、またその二つを行わなければ発動しない特技も存在する。


最後の『特殊スキル』は今まで説明してきた3種類のスキルとは異なり、所謂称号や功績などにより与えられるスキルであり、それによって覚えられる戦技・魔技・特技がいくつも存在するが、その『特殊スキル』でなければ覚えることが出来ないものばかりであり、一つ覚えているだけでプレイヤーからは羨望の的となる。


「まずは素手のスキルを試してみようかな。」


各種スキルのことを思い出しながら、最初は基本スキルと呼ばれる一番初めに覚える技を試してみようと動く。


足幅を前後に軽く開いて体を安定させた後、再び近くに生えている木の一本を的にして戦技を放つ。


言葉にして宣言することも可能なのだが、【無詠唱】のスキルを使って口に出さずに発動させる。


「・・・ふぅっ!」――《パワーブロー》――


戦技を発動させ、目の前にある一本の木に拳を当てる。


拳があった直後、結果として背後にあった数十本の木々もまとめて吹き飛ばしてしまった。


「・・・・・・うわぁ。」


《パワーブロー》とはゲーム開始時から初めから覚えている『徒手空拳』の戦技で、その名の通り対象に向けて力強く拳を振り抜く技である。


自身のステータスとカンストしていた『徒手空拳』のLVから考えて、威力はあるだろうと予想していたが、正直此処まで被害が出るとは予想以上であった。


こうなると魔技を使用する際も怖いものがあるのだが、試さないわけにはいかないので、こちらも最初の頃に覚えることが出来る攻撃系魔技を発動させる。


「『炎よ。弾となりて、我が敵を撃て』――《ファイアーボール》――」


試しなので詠唱も行ってみて魔技を発動してみる。


発動すると自分の斜め頭上に直径2メートル級の赤い炎の球が現れ、先ほど戦技にて荒れ地となってしまった大地へと当たる。


その途端大きな地響きと巨大な火柱が昇る光景を目にする。


「・・・・・・・」


その光景を目にして、「・・・これ、やばい奴じゃん。」と思わず呆然とする。


これは考えなしに上位の戦技魔技を使おうものなら、広範囲環境破壊兵器となってしまう。


出力調整が出来るようであれば、それを行って丁度良い威力のそれにしていく必要もあるだろう。


「・・・・・・ん?」


そうやって今後のことについて考察していると、「ゴゴゴォン!」と突然何か大きなものが落ちる音が聞こえてくる。


「あそこからか・・・。」


音の出所に振り向いて辺りを見回すと、今自分がいるところから見える大きな崖の方向から聞こえたと分かった。


私が使ったスキルによって発生した地響きの影響を受けたのだろうかと考え、思わず私は先程の発生音が気になってしまった。


また頭の中に何かが「あの先へ向かった方が良い。」と囁いてくるような感覚もしており、どうするか少し考えて、音のした崖へと移動することを決断する。


ついでに向かった先で出現するモンスターがいれば、この世界での種類と強さを把握するための試金石になるかもしれないと考え、もしいたら自分の能力確認のための相手に丁度いいのではとも考えて走り出す。


迷っても大丈夫なように一応木に切り傷を付けながら走り始め、5分もしないうちに目の前に急斜面の岩壁が見えてきた。


不用意に崖近くへ出て行かず、その手前にある草むらに身を隠す。


現状では付近の情報が少なすぎるし、もしも想定以上の強さを持つモンスターがいたら命の危険がある。


さすがにまだ何も分かっていない状況で死にたくはない。


「ん~、今の私の身体能力だったらこれくらい問題なく登れるかな?とりあえずは音の発生源を確認しないと・・・」


周囲を確認するが生物らしき存在は確認されず、目の前にあるのはおそらく崖上から落ちてきたであろう岩の塊や土くれしか見当たらない。


慎重になりつつも岩壁に近づいて行き、それに沿って歩きながら観察する。


「・・・うぉわ!?」


そうして上を見ながら歩いていると不意に何かに足が引っかかって転んでしまう。


「あ痛たた・・・!何なんだ、もう。いったい何・・・が、・・・・・・えっ?」


体を起こしつつ振り返り、転んだ原因を確認して私は絶句した。


そこには片腕片足が変な風に曲がり、胴体に木の枝が刺さっている体中血だらけの状態で倒れた子供を見つけたからだ。


「・・・え?は、ちょ、ちょっと待って・・・!?何でぇ!?」


こんな森の中で大怪我をしている子供を見つけて思わず混乱するが、すぐに近づいて状態を確認する。


「うわ、右腕と左足が捻じれるように折れてる。出血が多いのは木の枝が刺さっている部分と体中の小さな切り傷からの大量出血か。」


背中側に飛び出ている木の枝を切って短くしてからゆっくりと仰向けにし、子供の体を確認する。


まず見受けられる大きな怪我は骨折と木の枝が貫通している腹部。変な風に曲がっている片側の手足もそうだが、反対の方の手足も折れている。


後は小さな切り傷のみであるが出血量が致死量のそれに近く危険な状態である。しかし荒い呼吸はしていても止まってはいないので生きているのが確認できる。


「このまま見殺しにするのも悪いし、何よりこの子を助ければ何か情報が得られるかも。・・・あとアイテム効果の実験もしたいし」


善意と下心半分の考えで子供を助けることを決め、同時に手持ちの回復アイテムの効果確認に丁度いいとも考え、アイテムボックスからゲームでは回復薬として使われていたポーションを取り出す。


調べていた時と同じように宙に穴が出来るイメージをしつつ腕を伸ばすと、黒い穴のようなものに腕が入っていく。


物を掴んだ感覚を得てそのまま腕を引く。その手には緑色の液体が入ったガラス瓶―――回復ポーションが握られていた。


腹部に刺さっている木の枝を途中で折らないように気を付けて抜き取りすぐさまポーションを子供に飲ませようと思ったが、少年の意識が戻っていないため、下手に飲ませようとすると逆に誤嚥して窒息してしまうと判断。


緊急措置であり人命救助のためと判断して、一度自分の口にポーションを含んだ後、少年に口移しでポーションを無理やり飲ませる。


「うおぅ・・・、凄っ!ていうかグロ!?」


子供の喉が飲み込む動作を確認して触れていた口を放すと、回復ポーションの効果はすぐに発揮され、子供の体は治っていく。


まるで逆再生されるような感じで負っていた傷が治り、折れていた腕が元に戻っていく様は、思わずホラー映画のそれを思い起こしてしまい、驚きと恐怖を感じてしまった。


戦慄しつつも治っていく様子を見ていき、1分もしないうちに肉体の再生が終わり、少年の体は完全に治った。


「呼吸も安定し始めた。山場は超えたかな」


少年の体が治ったことに思わずホッと息を漏らす。


「色々と情報を聞きたいところだけど眠っているし、治ったばっかり。それにこの子の血の匂いで何時モンスターとか野生動物が襲ってくるか分からないから、一度キャンプに戻るべきだろうね」


私は子供を横抱きにして抱きかかえると、テントを設置してある川辺へと子供の体に負担がかからないように注意しつつ走って向かう。


始めに走ってきた時より走る速さはゆっくりであったが、それでも10分も経たずにテントへと到着する。


「よし、到着!それじゃあ、この子を寝かせに行きますか」


私はそう言いながら、腕に抱いた子供と共にテントの中へと入って行った。





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