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第2章第5話 ~少年の修行2~


修行を初めた日から今日で一週間が経過した。


僕は初日の日から継続して、フェルヌスから出される修行に積極的に取り組んでいた。


午前中の『突き落す愚者の腕輪』を着けながらのトレーニングは、初日の頃より少し増えて、今では腕立て伏せやランニングだけでなく、屈伸や反復横跳びといったものを行い、またその後に体を柔らかくするための柔軟運動を行うようになっていた。


昼休憩を取った後の午後には、冒険者ギルドにて様々な雑用依頼を受けることもしていた。


手紙や荷物の配達、民家の屋根の修理、公共トイレの掃除など、フェルヌスと二人で一緒にクエストを受けて熟していた。


彼女と一緒にクエストを行っているのは、修行を受けている僕がその過程で体調面で異常をきたさないか確認するためと、ここ最近の誘拐事件対策として常に目に見える位置にいる為だった。


・・・・・・正直心配し過ぎではないかとも思って一人で大丈夫だと言ったこともあるのだが、その時のフェルヌスはもの凄く怖い目で僕を見ながら「大丈夫だと?」と恐ろしく感じるほどの低い声で話してきたので、恐怖のあまりその言葉を撤回するしかなかった。


始めの数日は一日一つの雑用依頼を終えた後は、フェルヌスに背負われて宿屋に戻って休むということを繰り返していたが、段々と体力がついてきた頃には何とか一人で宿屋に帰ることが出来るようになっていた。


そして僕の体力がついてきたということで、フェルヌスから修行を次の段階へと進めるという話が出た。


「今君は日々の修行と『突き落す愚者の腕輪』の効果を受けて身体面が急速に成長してきている。その為今日から色々な型の練習を行っていく。」


彼女はそう言いながら『アイテムボックス』と彼女が読んでいる黒い穴から木で出来た剣を取り出す。


「まずはこの木剣を使っての素振りを行う。目標は午前中の内にこれを千回振れるようになることだ。」


フェルヌスはそう言いながら僕に剣を使った素振りの見本を見せた。

縦、横、斜め、突きと彼女が剣振っていく。


その様はとても美しく、いっそ神々しいという表現が正しく感じるようなそんな光景に見えた。


一通り剣を振って見せた後、今度は僕に基本となる剣の振り方を教えてくれた。


「まずは上からまっすぐに剣を斬り降ろすことから覚えるんだ。振り上げて一歩進むと同時に剣を振りおろし、また振り上げて一歩下がると同時に振り下ろすという動作をしていくように。」


フェルヌスは「他の型はこれが千回出来るようになってからだ」と話して僕に木剣を渡してくる。


それを受け取った僕は、見せてもらった剣の振り方を真似しつつ素振りをしていく。


「ふっ!・・・ふっ!・・・ふっ!」


「うん、その調子。型が崩れてきたら指摘するからね」


「はい!・・・ふっ!・・・ふっ!」


フェルヌスは今まで行ってきたトレーニングのメニューを百回だけに限定し、剣の素振りを集中して行っていくと話す。


そうして午前中の修行風景に新しい日課が追加された。


さらに変わったのはそれだけでなく、午後の冒険者ギルドでの依頼を受ける時にも変化があった。


「今日から依頼を受ける時は1人で行ってもらう。以前であれば依頼を終えた後に体力切れで倒れていたが、今ではそんなことは無くなってきたからね。・・・・・・それとこれを首に掛けるように」


彼女はアイテムボックスから二つの首飾りを取り出した。


それは黄色い鈴の形をした物と緑の葉の形をした物がそれぞれ付いていた。


「この葉っぱの形をした物は『安らぎの首飾り』と言って装備している者にリジェネの効果を与える。こっちの鈴が付いた物は『呼び鈴の首飾り』と言って装備している者に危機が訪れた時に鈴に封じ込められた存在が助けるという効果を持っている。」


フェルヌスの説明はよく分からない部分もあったけれども、この二つが自分に役立つ物だというのは理解できた。


以降僕はこの二つの首飾りを首に掛けて、依頼を受けていった。


また、今まで雑用依頼を一日一回受けていたのだが、フェルヌスから体力がついて余裕が出てきたら依頼を一つずつ増やすようにと言われた。


体力作りという理由もあるが、主目的としては色々な仕事を経験して成長していく為なのだそうだ。


フェルヌスの言うとおりに依頼を受けていて、段々と余裕が出てきた頃に一つずつ受ける依頼を増やしていった。


そうして一週間が経った頃には、初めに教わった上から振り下ろすという剣の型を千回行えるようになっていき、それだけでなく残りの横斬り、斜め斬り、突きといった剣の型の素振りも各千回ずつ行えるようになり、今では午前中の内に全ての剣の型を千回ずつ振れるようになっていた。


さらに午後に受けていた依頼の数も今では日に三つ、一つ一つが早く終わればさらに受ける依頼を増やしていき、時には一日に四つか五つを熟すようにもなっていた。


「ただいま~。シャーラさん依頼達成しました」


「はい。お帰りなさい。アルク君。」


今日も今日とて依頼を達成し、サインを貰った依頼発注書を受付で待っていたシャーラさんへと渡す。


「ペットの犬の散歩。果物屋での店番。家財店での木工部品の作成。合計で二シル四十五デルとなります」


「ありがとうございます!」


シャーラさんから依頼達成報酬を受け取ると鞄の中へと仕舞う。



「本当にアルク君はすごいわねぇ。まだ小さいのに一日でこんなに依頼を受けられるなんて。フェルヌスさんの課している修行でそういうことをしているんだっけ?」


「はい。体力作りもそうですけど、どちらかというといろいろな仕事を経験させることが目的だそうです。」


「そっか。・・・・・・初めは君みたいな小さい子がこんなにたくさん依頼を受けて大丈夫かなと思っていたんだけど、今ではそれが過去の思い出だよ」


「あはははは・・・・・・」


僕は乾いた笑い声を出す。


シャーラさんは初めフェルヌスに、修行方針でとはいえ僕に一日に複数の依頼を受けさせることに文句を言っていたのだが、僕が実際にそれを熟していくようになると、驚きと呆れの状態となって何も言えなくなってしまったのだという。


ちなみに現在僕と話をしているシャーラさんは、本来であればここ最近ではなりを潜めている誘拐事件の調査員だったそうなのだが、ギルドマスターであるモールテスさんにお願いして冒険者ギルドの受付に戻してもらったのだという。


現状では受付業務を行っているギルド職員はシャーラさんだけの状態で、必然的に僕たちは彼女と顔を会わせ、世間話をするような関係になっていた。


「しっかし、君にそんなことをさせるフェルヌスさんも凄いわよ。この前なんてゴブリン、グレーウルフ、スライムの討伐依頼を行いながら薬草、毒草の採取依頼まで熟したんだから」


「あははは・・・・・・。」


「本音を言えば滞っている依頼を消化してもらえるのはありがたいとは思っているけどね」


「師弟揃ってとんでもない」と苦笑するシャーラさんに対して乾いた笑いを返すことしか出来ない。


僕が一人で依頼を受けるようになってから別行動をするようになったフェルヌスはというと、彼女は今まで僕と一緒に受けていた雑用仕事の依頼ではなく、町の外に出ての依頼を受けるようになっていた。


彼女は今のランクであるFランク相当の薬草採取や下位種の魔物の討伐などの依頼を複数受け、その日の内に達成して帰ってくるということをしていた。


時には十の依頼を同時に達成なんてこともしているのだという。


同じようなことをしている僕にはそれがとんでもなく凄いことで、異常なことだということは分かっていたのだが、あの初めて会った森の中での一件を思い返せば不思議でもなんでもなかった。


「あははははは・・・・・・。それはそれとしてシャーラさん。今度はこれを受けます。」


「・・・・・・てっ、さっき依頼を達成したのにまた受けるの!?どんだけやるつもりなのよ!」


「今日は後これ一つやってお終いにしますよ」


僕が新しい依頼書を出すと、呆れながらも受け取って依頼発注書を渡してくれるシャーラさん。


僕はそれを受け取ると再び冒険者ギルドを出てクエスト達成の為に頑張るのであった。






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