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第2章第2話 ~冒険者ギルド~

そして私達二人は冒険者ギルドにたどり着いた。


目の前には三階建ての木造とレンガを使って組み立てられた大きな建物が建っていた。


扉の斜め上には、剣と盾と杖が重ねられた看板が掛けられているのが確認できる。


「この建物がこの世界の、・・・そしてこの町の冒険者ギルドか・・・・・・」


ゲームであった『カオスゲート・サーガ』の冒険者ギルドとは違う。


現実に存在し、この世界で組織として運営されている場所だ。


数多くの若者たちの憧れの職業であり、それと同じくらい数多くの力なき者を淘汰する世界でもある。


私は隣にいる少年――――先ほどの門での出来事からショックを受けたままだったが、ある程度正気に戻った――――アルクが陥っていた境遇を思い返し、ギルドに登録する際も警戒する必要があると考えつつ冒険者ギルドの扉へと向かう。


扉を開けた先には広々とした空間。


入って右側には受付テーブルが存在し、左側には多くのテーブルや椅子、そして正面にはクエストボードと思われる色々な依頼書が貼られた大きな木のボードが掛けられており、その脇にある通路の先には二階へ上がる階段が見えていた。


冒険者ギルドの内装はほとんど想像していた通りのモノであったのだが、ちょっと予想していた光景と違う部分もあった。


「・・・・・・誰もいない?」


建物内部には誰一人としていなかった。


周りを見渡しても武装した荒くれ共とか飲んだくれ共はいない。


クエストボードらしき物辺りを見ても、その前には依頼を確認する人もいない。


さらには受付所を見るも、受付を行うお姉さんとか強面のおっさんとかもいない。


「・・・・・・あれぇ?」


こういう時は良くライトノベルにあるようなテンプレ的な展開があるのでは、と半ば期待していたのだが、現実は予想の斜め上を言っていた。


依頼を受けているはずの冒険者はともかく受付にすら人がいないとは予想外過ぎた。


誰一人いないことを疑問に思いつつ中に入っていき、そこで受付に呼び鈴があるのに気付いた。


呼べば誰か来るかもしれないと試しにチリンッ、と音を鳴らしてみた。


「・・・はい。」


と受付所の奥の部屋から声が聞こえた。


少しして奥の部屋から一人の人物がやって来た。


「ようこそ、冒険者ギルドへ。本日はどのようなご用件ですかな?」


現れた人物は執事服をビシッと着こなし、左の片目にモノクルを付けた初老の男性であった。


冒険者ギルドには似合わないような人物の登場に少し面喰いつつも「冒険者登録に来たのだが」と話す。


「おや、新規登録者様でしたか。歓迎しますよ。ようこそいらっしゃいました」


歓迎するように右手を前に左手を後ろに回し、軽く会釈する男性。


その動作は『カオスゲート・サーガ』で行われていた敬礼の動作の一つであった。


この世界では挨拶に使われているのかもと思い、私もそれに習って同じような動作を行うと、彼はなぜか驚いた表情を見せたがすぐに優しそうな笑顔に戻った。


私はその事に少し気になりはしたが、そんなことは後から調べれば分かるだろうと先に要件を話すことにする。


「私の冒険者のカードとこの少年の冒険者見習いのカードを発行してほしいのだが」


「承りました。それではこの契約書に記載をお願いします」


受付の男性が一枚の紙を差し出してくる。


紙には文字が書かれており、それぞれローマ字で書かれていた。


『カオスゲート・サーガ』では世界共通文字として日本語読みのローマ字表記が一般的とされており、一部では日本語や英語表記の文字が使われているという設定であった。


おそらく目の前にあるこれも同じようなものなのだろう。


内容は名前と種族、得意としている武器、持っているスキルについてなどであった。


「・・・書けないようであれば代筆しますが?」


「いや、大丈夫だ」


私は契約書に『フェルヌス』と名前を書き、種族は自身の種族が混血であることを考慮して、似たような容貌の獣武族の一つである戦虎族にする。


アルクの分の契約書も書き、名前と種族を記入する。


記入した契約書を男性へと渡す。


「はい、ありがとうございます」と男性は受け取り、受付の後ろの棚に置いてある細長い口の開いた箱に入れる。


「それでは、今度はこの水晶に手を当てて頂けますか?」


続いて男性は、棚から台座に水晶玉がくっ付いているような形の道具を取り出して受付テーブルに置く。


「これは魔力波長を計測するための道具です。これで計測した波長をギルドカードに登録することで個人用のカードが出来上がります。こうしなければ赤の他人がカードを使用できてしまう、なんてことも起きてしまうので」


男性の説明を聞いて、生体認証によるセキュリティロックの魔力版ようなものかと理解するが、隣にいるアルクはよく分かっていない様子で頭上に疑問符が見えてしまうほど困惑していた。


私は苦笑しつつ男性に聞く。


「すまないが、魔力波長について説明してもらっていいだろうか?」


男性は私がした質問の意味を隣にいる少年の様子を見て分かったようで、彼もまた苦笑しながら説明を行う。


「魔力波長と言うのは大抵の生物が持っている魔力の波のことです。1人1人特徴や個性があって、全く同じ波長をした人物はいません。だからカードに登録されている波長とは別の波長の人がカードを使ったとしても、カードに持ち主だと認識されず、使うことが出来ないのです」


その説明でアルクは理解できたのか、なんとなく納得したという風に頷く。


「それでは水晶玉に手を置いてください」と男性が促したので、私、アルクの順番で水晶玉に手を置く。


手を置くと水晶玉の中心部分が緑色に少し光り、その後ゆっくりと消えて行った。


それから契約書を入れた箱の方から「チンッ」という音が聞こえる。


「お待たせしました。これでギルドカードは完成です」


男性は先程契約書を入れた箱とは別の、その隣にあるレバーの取っ手が付いた箱を開き、そこから取り出したカードをそれぞれ渡してきた。


ギルドカードの色はそれぞれ違い、私のカードは銅色の柄で中央の覧に名前と種族が書かれてある。


アルクのカードは中央の覧は同じだが黄色の柄をしている。


「これでお二人は冒険者と冒険者見習いとなりました。お嬢さんはFランクから、少年はGランクから始まります」


ギルドカードを渡した男性はランクについての説明を始める。


ランクは一番上のSSランクから一番下のGランクまで存在している。


このランクは依頼達成数や功績などによって上げていくことが可能であり、ランクが上がっていくごとに依頼内容も難しくなっていくが、その分報酬も上がっていくとのこと。


基本的にはFランクから始めるのだが、生活のために12歳以下の子供も登録しに来るので、そういう子たちは12歳になるまではGランクとして登録して街中の依頼をしてもらうことになっている。


登録時にはカードは無料だが、紛失したり、壊したりして無くしたことによる再度の発行の際には銀貨10枚掛かること。


依頼は達成することで報酬を受け取ることが出来るが、依頼失敗での撤退か途中でキャンセルするとなった場合には違約金を払うことになるから注意。違約金は依頼のランクによっても変わるとのこと。


ランクごとに依頼達成ノルマと言うものがあり、これを熟さないとギルドから強制脱退されるとのことで、現状のフェルヌスのFランクでは1ヵ月の内に5つの依頼を達成しないと脱退させられるとのこと。


Gランクはあくまで12歳以下のための救済措置であるため強制脱退は無いが、1週間以内にギルドに来ない場合は登録を抹消するため、再度の登録が必要になるとのこと。


依頼は基本的には自分たちで決めることが出来るが、それ以外にも強制依頼や指名依頼と言うのが存在している。


強制依頼はギルド側からの依頼であり、都市防衛やギルド員との協力、罰則のために発生するもの。


指名依頼は依頼者が依頼を受けてもらう冒険者を指名することが出来る。これは指名されていると言うだけで強制力はないから、依頼内容次第では拒否することも可能とのこと。


受けられる依頼のランクは現在のランクに適したものを受けるのが普通であるが、現在のランクから上のモノは1ランク上まで、下のモノは2ランク下までのランクの依頼も受けることが出来る。


男性の説明に、こういう話ってどこも似たり寄ったりなんだなぁと私は感心していたが、横で一緒に話を聞いていたアルクがまるで初めて聞きましたというような表情をしているのに気付く。


アルクの様子から「(元いた所では説明されなかったんだな)」なんとなく察しつつ、男性に話しかける。


「すまないけど。ちょっと確認したいことがあるのだが、いいだろうか?・・・アルク。門番に見せたあのカードをこの人にも見せて」


「え?う、うん・・・」


私はアルクへ門番に見せていたカードを見せるように言う。


アルクは私の言葉に戸惑う様子を見せていたが、鞄の中に入れていたエプーアの町にいた頃に使っていたカードを取り出して男性に渡す。


「実はこの少年なのだが、元々住んでいた町の冒険者ギルドに所属していて依頼を受けていたようなんだ。・・・だがそこで使われていたカードがどうも正規の物ではないらしく、この町に入る時に門番に指摘されて気付いたんだ」


男性にアルクが持っていたカードについての説明を行う。


男性はその説明を聞きつつ、受け取ったカードを確認してその表情を顰める。


「・・・・・・なんですかこれは。こんなのギルドカードではない。・・・カード自体は本物なのに、書かれている内容はでたらめな落書き。・・・これはもうギルドカードではなく、唯のゴミ同然の代物ではないですか!?」


出来そこないの玩具を見ているような目をしつつ受け取ったカードもどきを見る男性。


その様子からは呆れつつも怒っているように感じられる。


アルクはそれを聞いて、「・・・ああやっぱり」と悲しそうに、信じられないというように落胆した声を漏らす。


「この少年は冒険者ギルドでそれをギルドカードだと渡され、当時5歳の時から依頼を受けていたと話している。その受けてきた依頼の中には町の外に出ての薬草採取やモンスター討伐なんてモノもあったらしい」


以前アルクが受けていた依頼内容の一部を話すと、それを聞いた男性は「・・・本当でしょうか」とアルクに確認する。


アルクは男性の問いに本当だというように頷く。


それが事実であると知った男性は、唸り声を上げつつ険しい表情になった。


「この件に関しては私に任せて頂けますでしょうか。もしこれが事実であれば、冒険者ギルド全体の問題になります。こちらでも調査を行いますが、しっかりとした事実確認が取れるまで、貴女方から話しを広めるのは控えて頂けますでしょうか」


男性は顰めていた表情を緩め、申し訳なさそうに私達に頭を下げる。


特に被害者であるアルクに対してはより深く頭を下げる程であった。


「・・・分かった。では確認を終えたら私達にも教えて頂いてもいいだろうか?私はともかく、この少年は当事者なので知る権利があるだろうから。」


「承りました。調査内容は貴女方にもお教えいたします。」


「アルクもそれでいいか?」


「う、うん・・・」


アルクが戸惑いながらも頷くと男性はホッとしたように表情を緩ませる。


それからアルクの前に移動し、彼に目線を合わせるように片膝を着いてしゃがむ。


「それでは君のいた町の名前を教えて頂けますか?」


「え、えっと。此処から三つほど町を挟んだエプーアという町です」


「・・・・・・エプーア。あの領地に存在する町ですか。ご協力ありがとうございます。・・・そして申し訳ありません。別の町とはいえ、冒険者ギルドが君に行った非道は許されざることです。故にしっかりと調査し、真実を暴き出した後に、再び謝罪を行いたいと思います」


男性はアルクに対して真剣な表情を見せながらそう言った。


その瞳は力強くまっすぐに感じられ、嘘を言っているようには見えなかった。


アルクはその力強い瞳を見て、信じられる人なのかなと信じ始めていたが、私は半信半疑の気持ちが強かった。


自身の身内が行ったことである。不正を暴くよりも隠蔽して、「初めからそんなことは無かった」ということにする可能性もないわけではなかったからだ。


しかし、それを態々口に出すつもりはなかった。


事態の進退がどうなるかは目の前の男性の対応次第。


まずは彼がどのように動くのか確認し、その結果に応じて適切かつ自身にとって最適解の行動をすればいいだけの話でもあるからだ。


「それでは今回の件、よろしく頼む。私達はこれから宿を探しに向かうので、これで・・・」


「ええ、承知いたしました。・・・ああそれと、宿であればここから右に行った先にある十字路をさらに右に曲がれば宿屋街がありますよ」


「情報感謝する。アルク、行くよ」


「う、うん。えっと、失礼しました。」


ペコリとアルクがお辞儀をするのを見届けた後、二人で冒険者ギルドを出る。


「身分証相当の物は手に入れたし、次は寝る場所を確保するよ。あの人が教えてくれた宿屋がある通りに行こうか」


「・・・・・・うん」


意気消沈したまま頷くアルク。


それを見て仕方がないかとフェルヌスは苦笑しつつ、彼と手を繋ぎながら一緒に歩いていくのであった。


----------------------------------


少年と少女が冒険者ギルドから背を向けて出ていく。

その二人を見ながら男性は呟いた。


「・・・・・・行きましたか。まったく、生きた心地がしませんでしたね。下手な対応をしていたらこの町だけでなく、他の町も滅ぼされていたかもしれません」


男性――――――モールテスは心底披露したような深いため息を吐き出した。


彼の名は『モールテス・バリソン』。元Sランク冒険者であり、今は引退して冒険者ギルドのギルドマスターの役職に務めている。


そんな彼が何故、態々受付職員として出て来たのかというと、純粋に人手不足であった為である。


現在とある事件の調査に、冒険者だけではなく冒険者ギルドの職員も総出で乗り出している最中であったのだ。


そのため丁度フェルヌス達が来たのは、ギルドマスターであるためギルドを離れることが出来ないモールテスしかいないという時であったのである。


彼は初め、彼女たちを見た時は不思議に思った。


少女の方は歴戦の猛者と呼べるほどの実力が見受けられる一方、少年の方は戦う力のないボロボロの防具を着けた子供であった。


不思議に思いはしたが、元々戦闘を生業としていた者として、そしてギルドマスターとして彼女たちの実力を測るべきだと考え、自身の左目に掛けているモノクル型のアイテムである『鑑定のモノクル』を使用した。


・・・・・・そして、彼女たちのステータスを確認して、何故使用してしまったのかと後悔した。


もし数分前に戻れるのであれば必死になって過去の自分を止めようとしていたであろう。



種族名:【■■■】

名前:【ティキグニア・フェルヌス・クディア】

性別:女性

称号:大魔王

年齢:25歳

『HP』:■■■■■/■■■■■   『MP』:■■■■■/■■■■■

『STA』:■■■■■/■■■■■

『STR』:■■■■■   『VIT』:■■■■■

『AGI』:■■■■■   『INT』:■■■■■

『MND』:■■■■■   『DEX』:■■■■■

『LUK』:■■■■■



種族名:【人間(ヒュー)(マン)

名前:【アルク・●●●●●】

性別:男性

年齢:10歳

称号:●●●●

『HP』:17/17   『MP』:8/8

『STA』:96/96

『STR』:14   『VIT』:23

『AGI』:51   『INT』:11

『MND』:10   『DEX』:35

『LUK』:5000(-5000)



少年の名前や称号が丸く塗りつぶされているのは、何かしらの事情によってその部分が剥奪されてしまった結果に起きる現象である。


この様子を見れば故郷が滅んだか、住んでいることが出来なくなったかだと思われる。


・・・・・・だが、それよりも特大級に危険だと思われるのはもう一人の少女の方である。


四角く塗りつぶされているのはステータスが隠蔽されていることを意味しているのだが、そんなことが気にならない――――否、気にする必要性が無いほど驚異的なものであった。


隠蔽されているとはいえ、その値が五桁の表示。


標準的な冒険者で三桁。上位ランクにもなれば四桁ある者もいるが、五桁なんてありえない数値の人物は存在しない。


冒険者以外―――――国に仕える騎士とか兵士、物語などで語られる英雄でも五桁の数値を持つ者は記録上存在していなかった。


それが隠蔽してあるとはいえ、自分の目の前に存在しているのだから驚愕するしかない。


だが、驚くべきポイントは他にも存在している。


彼女の持ち得ている『大魔王』という称号である。


魔王ではなく大魔王という、『アンリミト』という世界の歴史において所謂伝説級に有名な称号を持っていたのである。


・・・・・・どうせならそっちも隠蔽してほしかったというのが、モールテスの偽りない本心であった。


『大魔王』。


魔王を超えた魔王。ありとあらゆる王を従える絶望と恐怖の化身。


場所によっては神々と同等の存在とまで呼ばれ、畏れられている伝説の存在。


大魔王が現れる時、それは彼の存在によって世界が支配されるか滅ぼされるか。


そのどちらかが確定する時なのだと古代の歴史書に記載されている程と言えば、どれだけ驚異的か理解は出来なくても納得はできるだろう。


その大魔王様が、今自分の目の前にいるという事実は、とても現実味が無くて、まるで夢でも見ているのではと現実逃避をしてしまいたくなる。


・・・・・・しかし、現実は非情であった。


なんと、目の前にいる大魔王様は冒険者ギルドに登録をしに来たというではないか。


この世界を滅ぼしに来ましたと言ってくれる方がまだ理解できるその内容に、思わず目を見開いて硬直してしまったが、すぐに正気に戻ってお辞儀をする。


それは貴族社会で、目上の立場の人物を敬う時に行う最上敬礼であった。


これは主に王族か教会のトップなどに対して行う敬礼の一つである。

・・・・・・だがしかし!そこで自分は対応を間違えたのかもしれなかった。


なんと、大魔王様である少女が、自身の行った敬礼に対して同じ動作の敬礼を返してきたのである。


つまりそれは、自身を目上の存在として扱うという意味を表す。

大魔王様に敬われるなんて畏れ多い。というよりも恐怖しか湧き上がらない。


何とか自らの感情が表に出ないように笑顔を保って表情を取り繕う。


その後契約書を渡し、特に問題なく冒険者登録が完了した。


・・・・・・種族隠蔽しているのに戦虎族とか嘘だろうと思ったりしたが、突っ込みはしない。


そしてそれでようやく終わりかと思いきや、大魔王様が聞きたいことがあると言い出した。


今度はなんだ。何か悪巧みの相談か!?それともこれから町を滅ぼすという宣言か!?


内心では恐々としていたが、彼女から出てきた意外な話に拍子抜けした。


・・・そして怒りが湧いてきた。


ギルドカードの偽造?少女の隣にいる少年が五年間それを使用しており、さらに十二歳以下の子供に町の外での依頼を受けさせていた?何だそれは!!


冒険者ギルドを運営する上で、大前提として行ってはならない犯罪行為が行われていた。


しかも証拠となるギルドカードもどきと被害者本人も存在するという事実。


この話が表に出回れば、「冒険者ギルドは不正を平然と行う組織」などと非難され、これまで築いてきた信用が一気に崩れ落ちかねない。


なにより、この件について目の前の大魔王様が酷くご立腹であった。


無表情を装おうとしていたが、その瞳を見れば怒りと憎悪に溢れているのが丸分かりである。


対応を間違えれば、すぐさまこの町が火の海になりかねない程と感じられるほどであった。


・・・・・・だが現在の状態では、不正の証拠が存在するとしても事実確認を行えていない以上、問題行動として冒険者ギルドが対応を行うことが出来ないのが痛い。


調査を行い、その結果として不正が事実だと明確に判明した場合は謝罪を行うと、半ば話を誤魔化す形での説明をすると、大魔王様は一応は納得された様子でその瞳の中の憎悪も落ち着いていった。


最悪の結末は免れたとホッと一息を入れつつ、被害者である少年に、もう一度今出来る最大限の謝罪を行う。


どうもこの少年は大魔王様の加護下にあるようなので、彼に真摯に対応すれば大魔王様にも好印象を与えられると考えたからだ。


少年は戸惑いながらも頷いた様子を見せる。


それは年相応の反応で微笑ましく、思わず和んでしまったのは、先程までの極限状態に陥っていた反動だろうか。


そして今、大魔王様は自分達が泊まれる宿を探すと話し、自分が宿屋のある通りのある場所を教えると、礼を返して少年と共に冒険者ギルドを出て行ったのである。


「・・・・・・本当に、どうにか滅亡の危機は去りました。」


これまでの回想を終えて、深々とため息を吐き出すモールテス。


そして大魔王様に目を付けられ、さらには冒険者ギルドの信用問題になることをしでかした、エプーアの冒険者ギルドに絶対報復してやるという思いも段々湧き上がってきた。


「・・・うちのギルドに、あんな未来ある若者たちを食い物にしている下種野郎がいるとは。よくもまあやるものですねぇ。・・・今に見ていろよ、下種野郎。ギルドの信用を落としたんだ。穏便に済ませるつもりなんてネェゾ・・・!!」


・・・それはギルドマスターとしての矜持もあったのだろうが、無意識に大魔王様に詰問されるという理不尽に対する八つ当たりの気持ちもだいぶ混ざっていた。








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