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第2章第1話 ~ライファの町~


始まりの森の奥深くから抜け出し、草原の中を通る道を歩いていた私とアルクの二人。


私達はあれから数日して、ようやっとライファと思われる町に辿り着いていた。


「・・・・・・あれがライファの町か」


「多分そうだと思うよ。色々な町や村の間にある中間地点。一種の交易都市となっている町と聞いていたけど、・・・・・・思っていたよりだいぶ大きいね。」


二人の目の前には高さ三十m近くある壁が存在していた。


おそらくは都市防衛の為の防壁なのだろうと思われる。


その壁の合間には門が設置されているのが見え、その門の前では何台もの馬車や人が並んでいる様子も見える。



「とりあえず、あそこに列が出来ているようだから並ぼうか。どうやら町に入るための順番待ちらしいし」


「うん」


私達は門の前で並んでいる列の最後尾に並ぶ。


時間が経つにつれて少しずつ列が進んでいき、並んでからしばらくしてようやく私達の番となった。


「はい、次の人~。・・・身分証を見せてもらえるか?」


門番の男性は身分証を提示するように求める。


「(・・・やはり身分証が必要なのか。こういった話はよくライトノベルなどで出ていた話だが、それが現実となって体験するとなると、実際には困ってしまうものだな・・・・・・)」


フェルヌスはどうするべきかと考えていた。


この異世界へは自分の意志で来た訳ではないし、何よりこの世界の事を詳しく知っている訳ではない。


町ごとのシステムなどは、現状ではある程度の事は推測することは出来るが、所詮そうなのではないかという妄想に近い考え。


ここは適当に事実をぼかしつつ交渉で何とかするしかないと私は考え、行動に移そうとした。


だが私がその口を開こうとするより先に、隣にいたアルクが懐から何かを取り出した。


「はい。冒険者カードです」


アルクが門番に一枚の薄い板状の物を見せる。


私はそんなものを持っていたのかと驚きつつも、冒険者として活動しているのだから何らかの身分証明が出来るものを持っていても可笑しくはないだろうと納得し、門番の反応を見る。


・・・だが、門番の男性はアルクの見せたカードを確認して訝しんでいる様子が見られていた。


そして彼はアルクにこう言った。


「それが・・・冒険者カードだって?そんな落書きを書いたようなものが冒険者カードな訳ないだろう。冒険者に憧れて真似事をするのは微笑ましいが、それは身分証にはならないぞ」


門番は苦笑しながら、微笑ましそうにアルクを見ながら言う。


それを聞いたアルクは困惑していた。


「・・・・・・え!?そ、そんなはずはないです!だって僕は冒険者として活動していた5年間これをずっと使っていたんですよ!」


「そんなバカな!」と門番に詰め寄るアルクだが、それに対して門番は困ったような顔をしてアルクに問い掛ける。


「坊主、お前今何歳だ?」


「え?10歳ですけど。・・・じゃなくて、どうして駄目なんですか!?」


今更歳なんて聞くよりも、どうして自分の持っていたカードが使えないのかとさらに門番に詰め寄るアルクであったが、それに対して門番は「あのなぁ坊主」と諭すようにアルクに話しかける。


「10歳程度で冒険者になれるわけがないだろう。冒険者として登録できるのは12歳からと冒険者ギルドの規則で決められているんだ。だからそれ以下の年齢の子供が冒険者になれるわけがないんだ」


「・・・・・・え?・・・それじゃあ、今まで僕が冒険者カードだと思っていたこのカードは一体・・・・・・?」

アルクは門番の話を聞いて固まってしまった。


「だ、だって・・・僕は冒険者になった時に、ギルドマスターにこのカードを渡されて、・・・・・・それからずっと、・・・ずっと・・・・・・」


私ははアルクと門番の話を聞いて、なんとなくアルクの悲惨な境遇と状況が見えてきたような気がした。


そしてこんな幼子を最低最悪の環境に陥らせやがったクソ野郎の考えも段々読めてきていた。


しかし、今はそれに腸を煮え繰り返している場合ではないので一時横に置いておき、衝撃の真実に固まってしまったアルクの代わりに門番に話し掛ける。


「すみません。ちょっとよろしいでしょうか」


「・・・うん?」


「実はこの少年は私が旅をしている最中に助けた子なのです。私は旅人でいろいろな国を渡り歩いているのですが、道に迷いって森の中を彷徨っているところで偶然彼を見つけたのです」


「・・・ほう?」


「彼は農村の出で、家族のために薬草を採取している時に魔物に追いかけられ、崖下から落ちたそうなのです。それを私が助けて家に帰そうと考えましたが、目的地の場所が崖を上った先でして、そのまま上るのは危ないと判断して、遠回りになりますが一先ず近くの町に向かうことに決めたのです」


「・・・なるほど」


門番へ真実と嘘を織り交ぜた話を語る。


アルクはいきなりの話に「・・・え!?」と驚き、門番も「ありえる話だ」と納得し始めている様子であった。


「・・・そして申し訳ありませんが、今の私達は身分証も無くしてしまった状態なのです。その場合にはどうすればこの町に入れるのでしょうか。」


私の話を聞いた門番は納得したような表情になる。


「・・・・・・旅人であれば何かの拍子に身分証を無くしてしまったとしても可笑しな話ではない。それから坊主。お前も苦労してきたんだなぁ。・・・家族のためにか、泣ける話だなぁ」


遂には感動したように目元を潤ませながら何度も頷く門番。


その様子に、「(感動的な話に弱い人なのかな)」と私は戸惑いと呆れの感情を抱く。


アルクはというと私が唐突にでっち上げた身の上話に余計頭が混乱している様子で、まともな言葉すら発することが出来ず、口をパクパクと動かすだけの状態になっていた。


門番は目元を擦った後、私達二人にそれぞれ赤い文字が掛かれた木の板を渡す。


木の板には『仮身分証』と書かれていた。


「これを持っていれば町の中に3日間は滞在できるようになる。その間に町役場か冒険者ギルドで身分証を発行してもらえれば問題ない」


門番は私達に『仮身分証』についての説明を行った。

私はそれに対して「ありがとうございます」とお礼を言い、それから一つ気になっていたことを門番に質問する。


「・・・あの、最後にお聞きしたいのですが。本当に10歳の子供が冒険者になることは出来ないのでしょうか?」


「・・・・・・さっきも言ったが、12歳以下は冒険者になることはできない。一応登録は出来るが冒険者見習いとしてであり、正式な冒険者としては登録されない。それに冒険者見習いでは町の中での依頼しか受注できないことになっている。

そもそもこの制度も、孤児も含めた子供たちが依頼を受ける時に危険に晒されないようにする為の措置で、討伐依頼や採取依頼なんかを受けさせるなんてのはまず許可されないし、もしそんなことしたらギルド退会どころか犯罪者として扱われるようになる。」


門番の男性は苦笑しつつそう応える。


それを聞いたアルクは、「・・・・・・それじゃあ自分のやって来たことは一体なんだったんだ」と完全にフリーズ。


この場での聞くべきことを聞いた私は、そんな状態になってしまったアルクの手を引きながら、「ご親切にありがとうございました」と門番に再びお礼を言って町の中へと入っていったのであった。


「さあ、ライファの町に到着したぞ。まずは身分証作りの為に冒険者ギルドへ向かおう」


「・・・・・・・・・・・・」


アイファの町へ入った後、まずは冒険者ギルドへと向かうことにした。


まずは自分達の身分証を作成する必要があると考える。


最低限アルクの身の安全を考えるのならば、街中の方が魔物が蔓延る外に比べてその危険度は下がるからである。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


そして私に手を引かれていたアルクだが、彼はいまだに上の空な様子でブツブツと死んだ魚のような目をしながら何事かを呟いている様子であった。


そんなアルクの様子を見ながら、まあしょうがないのかもしれないと、あえてスルーすることにした。


今までずっと自分は冒険者なのだと信じていたのに、まさか実際には正式な冒険者ではなく自称。


しかも持っている冒険者カードも玩具同然の代物だと分かってしまったからである。


「(まあそれも実際に冒険者ギルドへ行って確かめないと分からないしね。・・・・・・もしここの冒険者ギルドがエプーアの町の連中がアルクにしていたようなことをするのであれば、・・・・・・・・・)」


そうあってほしくないと願いつつも、内心ではその時の事を考え、アルクと握っていない方の手をゴキリッ、と鳴らすのであった。






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