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5話 現実

目の前で起こった出来事に呆然として立ち尽くしていると


「相手が魔法を発動する前に斬ればいい。ただそれだけだ」


サリエルはそう言うが、それは簡単に出来ることではない。魔法の向上効果なしで、魔法を使って能力を向上させた相手に挑むなど、ナイフで銃を持った相手に立ち向かうようなものだ。

それにこの世界の魔法は、よくある詠唱なんてものは必要ない。魔力操作が上手ければほぼロスタイムがなく魔法を発動させることが出来る。使い慣れた魔法ならば尚更だ。使おうと思ったその瞬間に発動できる。言ってみれば、弾丸を装填した銃を抜くことなく、前動作なしにいきなり相手を撃てるようなものだ。


「そんなのありえませんよ!」

「私はできる」


むちゃくちゃである。こんな存在ありえない。そう思いながらも僕は、自分が心の中で喜んでいることに気づいた。

そうだ。魔法が使えなくても魔物は倒せるんだ!僕はまだ冒険者になれる!一度忘れようとした夢を再び見ることができるかもしれないのだ


「僕を弟子にしてく「断る」


言い終わる前に断られてしまった。


「いや、弟子にっ「嫌だ」

「そこをなんとか」

「無理だ」

「何でもしますから!」

「結構だ」


手強い。サリエルは頑なに僕の願いを聞いてくれない。


「どうしてダメなんですか?」

「お前はその歳でそこらの冒険者を軽く上回る程の魔力容量を持っている。私のような道を歩むより普通の魔法を使う戦い方の冒険者になった方がアレンのためになる」


それを聞いて僕は心が苦しくなる。


「……ぇません」

「なんだって?」

「僕は魔法が使えません!」


サリエルはそれを聞いて自分をからかっていると思ったのか、少し力を込めてこちらを睨む。それだけで僕は昨日のウォーウルフと向き合った以上の恐怖を感じるが目をそらさずじっとサリエルの目を見る。

そして、どうやら本当だと信じてくれたのか目から力が抜けていく。


「……本当に使えないのか?」

「使えないといってもほぼ大差ないくらいには使えません」


まだ疑い半分なのか目の前で魔法を発動させる


「じゃあ、見ててください。ファイヤーボール!」


ポッと音がして手のひらにポケットライターの火ほどの大きさの火が現れる。

それを見てサリエルも納得したのか


「わかった。魔法が使えないことは信じよう」

「じゃあ、弟子に「だがそれとこれとは関係ない」


また言い終わる前に断られる。


「えっ……」

「第一に私が君を弟子にするメリットがない」


それを聞いて何も反論出来ない。


「そして二つ目に私は私が教わったやり方でしか、教えることは出来ない。私が剣を教わったのは君よりもいくつも歳が上の時だ。だからこそ厳しい訓練にも耐えることが出来たし、教えを理解出来た。君は今いくつだ?」

「…4歳です」

「4歳か。それならまだ体は出来上がっていないし、今から剣の特訓を始めたらそう遠くないうちに君を潰してしまう」


僕は何も反論出来ない。サリエルが言うことは最もであり、4歳で剣を習おうとしている自分のほうが常識を弁えていないのだ。


「それでも…僕には魔物と戦う術が欲しい。あの時のように目の前で母さんを失わないだけの術が欲しい。その術を知る人が今目の前にいるのに、その機会を今何もせずに見過ごしたらきっと僕は一生僕を憎み続ける」

「……」


サリエルは何も言わずただぼくをじっと見つめる。そして


「わかった。でも弟子にする前に君の街を見に行かないといけない。話はそれからだ」

「…ッ」


それをしなければいけないことはわかっていた。だが街の状況を確かめてしまえば現実が容赦なく襲ってくる。街は壊滅してしまったかもしれないという想像が現実となってしまうかもしれない。しかし、確認をしなければ心のどこかで父さんと母さんはまだ生きているという妄想を続けることが出来るのだ。サリエルはそんな心情を知って僕に言葉を投げかけてくる。


「アレン。君は今、前に進もうとしている。しかし、このまま修行を始めて力を手に入れても、どこか心の中でありもしない希望にすがってしまう。それは危険なんだ。君は賢い。4歳とは思えないほどに。だから君もわかっているんだろう?このままにしてはおけないってことは」


僕は何も言えない。そう、両親がどうなったかは必ず確かめなければならないのだ。それがたとえ悲惨な結果になっていると想像がついても。それを確かめなければ前には進めない。


「わかりました。僕は一度自分の街をこの目で確かめたいです」

「うん、いい子だ」


そう言うサリエルはとても暖かく、まるで母親が子供を見守るような目で僕を見つめていた。








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