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それは、小学校に上がって二度目の転校だった。父親の仕事の都合だから仕方がない。悠は慣れない道を歩きながら思う。今度の学校では転校しなければいいと。仲のいい友達ができても、すぐに別れてしまうのは嫌だから。
「やーい。泣き虫」
「泣き虫子虫、挟んで捨てろ」
どこかで泣き声が聞こえる。そして、それをはやし立てる笑い声と。どこの学校にもこう言いうやつはいるもんだ。悠はため息をついた。憂鬱な気分になる。辺りを見回せば、公園の片隅に数人の男の子に囲まれ泣く女の子の姿があった。悠は背負っていたランドセルを放り投げる。
「いってぇ」
そして、その男の子の一人に飛び蹴りを食らわせたのだった。
「こいつ、やったな」
男の子たちの標的が悠に向く。それは、新しいクラスでも大柄な子だった。小柄な悠とは対照的だ。それでも、悠は怯むことなく男の子たちに立ち向かう。悠は負けん気の強い子だった。
母親があわてて、学校へ行くと、悠は担任の教師と数人の男の子とそれから、その母親たち、そして、一人の女の子と一緒に会議室にいた。
「悠、なんでこんなことしたの?」
悠も男の子たちも傷だらけだ。
「私、悪くないもん。あいつらが実子ちゃんをいじめてたのが悪いんだもん」
「別にいじめてねぇもん」
「嘘。実子ちゃん泣かしていたじゃん」
担任の教師も、男の子たちの母親も困った顔をしている。どうやらずっとこの調子らしい。
「悠、謝りなさい。喧嘩したらどんな理由でも、どっちもが悪いのよ」
「健太も謝るのよ。女の子に手を上げちゃ駄目でしょ」
悠の母親の言葉に、他の子の母親も口々に自分の子どもに謝るよう促す。
「……ごめんなさい」
「……こっちこそ、ごめん」
母親には勝てない子どもたちは渋々謝罪の言葉を口にした。
「うちの悠がすみません」
「こちらこそ。お宅のお嬢さんに怪我をさせてしまってすみません」
母親たちも頭を下げる。子どもたちは不貞腐れたままだった。