ストーリーは進まない
「おめでとうございます! あなた達は生きながらにして数兆分の一の確率を見事に引き当て、こうして転移というファンタジー感丸出しな権利を得る事が出来ました! ホントにめでたい! これで私のノルマも達せゲフンゲフン」
「よかろう、世界で一番大嫌いな親父から嫌々受け継いだ、どこの史料にも一切記載されていない謎極まりないオール一撃必殺の武術の粋を嫌と言う程その身に刻むがいい…!」
Q.寒いオーストラリアから一転、アニメやらマンガやらで見るようなあからさまな天国みたいなところに来たかと思えば、目の前でこれまたあからさまに女神のような恰好をした美女がニッコニコしながらさっきの口上を述べてきた時の俺の心情を述べよ。(10点)
A.神様だろうと推測を立て、チェーンソーを取り出そうとするも所持しておらず断念。やむなく使いどころさんが一切無かった秘蔵中の秘蔵を繰り出し女神らしき存在を肉片にしようと試みたくなる程プッツン寸前。
「ぷぷぷのぷー! 私は神様ですから、たかがいちヒト程度の攻撃では傷一つ負う事はあr」
「そうかそうか、お前の中では髪の毛は身体の一部に含まれないという解釈でいいな? ロングヘアーが見事なボブカットになったぞ。…次は内臓に今のをぶち込んでやるゾ~」
謎の親父流徒手空拳一の型、『なんかこう人質を貫通して後ろの敵を消し飛ばす恐ろしく速い手刀』
…ネーミングは親父の言ったまんまだ。俺は悪くねぇ。
どういう技なのかと言えば、もう技名のまんま。色々気になって武術の文献とか調べてみたけど、『気』と呼ばれるものを遠くに当てる遠当てのようで、とはいえ味方というか人ひとりすり抜けてる辺り某なんちゃらオブなんちゃらのよく叫ぶ主人公が使ってた斬撃の原理を用いてるような…という、結局よく分からないけど会得したという不思議技その一。
ちなみに、『一の型』と呼ぶだけあって不思議技はまだまだ沢山ある上に、何故か会得出来ているというかいつの間にか覚えていたというか。そして、『オール一撃必殺』の名に恥じない程の恐ろしい破壊力を秘めていて、幼心に『僕は将来世界的な大悪党集団と戦う運命なのだろうか』と恐怖を覚えたのは正しいと思うんだ、うん。
…そんだけ恐ろしい技はホイホイ覚えられるのに、何故俺の体育の成績は全部オール平均ぐらいだったのだろうか。いや、足だけ速かった。スタミナは平均。
「…ぎゃー! 天界で二番目か三番目に綺麗だと専らの評判の私のロングでサラサラなストレートヘアーが! どうしてくれるんですかー! ここまで伸ばすのにどれだけ時間g」
「いいからさっさと事情を説明しろよ。お前が説明を先延ばしにすればするほど、俺はお前の髪の毛をどんどん短くするぞ? 最後は何厘まで刈れるか楽しみだなぁ俺は」
ボブカットがショートカットに変わるのに時間は要らんかったなぁ。髪は女の命なんて言うけど、別に切られたからって寿命が縮むワケじゃないんだから、俺は命削るより髪を削る。
なになに…なんて鬼畜で極悪なんだ、って?
美人ってさぁ、髪型に左右されないから美人って言うんだと思うぞ。ショートもボブも似合っててクソ程腹が立つ。目の前の俺を見てみろよ、普通極まりないだろオラァ!
「この度は天文学的な確率を捉え、天界にお越しくださって誠にありがとうございます。拙くはありますが、わたくしめが状況に於いて説明をさせていただきますのでこれ以上髪を短くするのは本当にやめていただけるとありがたく存じます」
「…兄ちゃん、相当テンパってるんじゃない…?」
「…ボクもそう思う、けど…どうしようもないよね」
妹達よ、ようやく喋ったか。