その間僅か0.2秒ッ! これが貧乏くじのフラグ実行速度であるッッ!
俺の拉致がどうやら綿密に立てられた計画の上に成り立っていたという、妹からというか誰からも聞きたくはなかった情報をゲットしたところで、誰よりも張り切っていた睦月さんがてっこてっことこちらへと戻ってきた。
「ふむむ、ボクなりに解析してみたところ、たぶんココが今までで一番怪しいと思うんだ」
「怪しい? …まぁ毎年毎年どこかしらの海外土産持ってきてたし、海外って線が一番妥当だと思ってはいたんだけどな俺は」
「…今年はお父さんがやけに京都の伏見稲荷に興味を持ってるようだった。あと清水寺に向かう道で日本刀買いたいってお母さんが言ってた…」
あぁ…だからやたらめったら最初の辺りは京都に連れていかれてたのか。行く度に模造刀が増えるからそれが欲しいのかとばかり思ってたわ。
まぁ俺個人としては、千枚漬けとか豆腐肉まんとか抹茶ソフトとか食文化豊かな街を周れた上に、中学以来の京都名所観光も出来て喜ばしい事だったけども。
……両親の心配? あぁ、親父が死ぬ時は母さんが全力で嫌いって言った時だと本人が自負していたし、そもそもあの二人、現代人にあるまじきレベルでサバイバルレベルが高すぎるからなぁ…
想像してごらん? 湖畔にキャンプに来て肝心のテントを忘れた!って結構なピンチに一切臆する事無く、近くに生えてた結構な樹齢の巨木の中程に『ツリーハウス』を『3時間程度』で拵える上に、完成後に俺らがそこでのんびりしてたら、いつの間にか親父がイノシシ一狩りしてるんだぜ?
あとさ、指パッチンの摩擦で枯れ木と枯草に火を付けれる母親なんて、多分全国の母親集めてもうちの母さんだけなんじゃないかなって。おっとりとした声で『昔は本気出せば柏手でプラズマ発生させられたんだけどねぇ』って言われたらどう反応するのが正解だったのか未だに分からないよ俺は。『へぇ~そうなんだぁ…』って愛想笑いした当時小学6年生の俺を褒めてやりたい。そして大きくなってアニメを見てて思ったんだ、もしかしたら母さんは柏手で空気を圧縮してプラズマを…ってさ。その可能性を瞬時に捨てた俺の判断は多分間違ってないと信じたい。
だから死んでない……というか死ななそう。
「……兄ちゃん? いきなり上向いてどうしたの?」
おっと、物思いに耽り過ぎてたらしい。気づいたら両サイドの袖を二人にクイクイ引っ張られてた。
「いやーいなくなってから1年経つけど、親父達ってどうやっても死ななそうだなと思って」
「……だから睦月は探している」
「まぁそうなんだろうけど」
この二人も両親が普通にどこかしらで生きてると信じてるから、睦月は全国各地を探すし葉月は俺らも含めて帰ってくるのを待ってるんだろうけど……
「こうやって探しに行く度に、何故か俺が三途の川に片足突っ込みそうになってるってのも分かってほしいところではある」
…京都では何故か千本鳥居から抜け出せない状況に陥りかけたり、長崎では軍艦島に訪れた瞬間に近くの建物が倒壊して巻き込まれそうになり、北海道では雪まつりで展示されていた…サイクロンアームジェット…なんちゃらとかいう作品が俺めがけて倒れてきたリ、群馬ではちょっとした林道を歩いてたら手製の槍が飛んできたリ、福岡では何かが転がってきたと思ったらピンが抜かれた手榴弾だったり…
割と俺の方が、生きていられてるのが不思議な体験をしてきている。
ちなみに睦月はその悉くを回避している。影分身とかちいさくなるとか使ってんですかね?
「……ん? なんか足元が光って―」
ほれ見た事か。どうせ何か起こるだろうと思ってたけど、まさか地面が方陣みたいに光るとかいう想像の斜め上をスラローム飛行するレベルの事が起こってんじゃねぇか!
あとそこの魔術バカ、目をキラキラさせて俺の袖を引っ張るんじゃない。兄ちゃんの袖は筋トレ用のゴムチューブじゃないんです。
…葉月さんも真似して……違う!? これは……野球のチューブトレーニングってバカ。
あぁもう空気も展開も俺の袖もダルンダルンじゃないですかーやだー(涙声)