事の発端はいつも両親
オッス、オラ社会人!
…うん、出だしは最悪だね、知ってる知ってる。
まぁそんな事はさておいて、俺は今、太陽燦々照り付ける7月の下旬という、外回りの社畜には地獄すら生温い季節に、何故かオーストラリアにいます。妹と。
成り行きをかいつまんで説明すると、
1.社会人一年目の俺氏、慣れないながらも懸命に仕事に励む
2.突然妹から電話が。俺がいるのは何階にある部署だと聞かれ、素直に答える。この時、何故そんな事聞くんだろうと若干の疑問が浮かぶも、仕事ほっぽって考えに耽るワケにもいかず再開。
3.数分後、妹職場に現る。何故か妹の後ろには立派な体格の男性が複数人付属されている。俺氏、恐怖に打ち震えだす。
4.北の大地のすずむしさんリスペクトと言わんばかりに、俺氏を担ぎ上げる男性達。俺氏『こらぁ拉致ですよ!』と咄嗟に言うも、ミスターならぬシスターは聞く耳持たず。上司、妹に何と説明されたかは知らないが、俺氏に向かって笑顔で『土産はブーメランで頼むよ~』と抜かしおる。
5.目隠しをされ空港へ。ロビーにて行先発表、海外の為パスポート持ってねぇし残念だわ~と安堵するも、小癪にも俺のパスポートと最近作ったであろう自分のパスポートを取り出しマンメンミ! あぁもう逃げられない!
6.オーストラリア到着、謎の部族が黒魔術の儀式を行なったという噂のある辺境集落へと移動。
そして今です。感想としては、とにかく今寒いって事カナ! 妹からは韓国製のベルサーチのジャケットと銀色のハイカットシューズ、通称『雪面の飛魚』を支給してもらったけど、そんなもんでどうにかなる寒さじゃねぇんだよなぁ…。
「…なぁ睦月、どうして俺はクーラーの効いた夏のオフィスから、自然の冷凍庫たる冬のオーストラリアに連れて来られたんだろうな? 俺じゃなかったら割と拉致案件だよコレ」
会社に乗り込んで担ぎ上げて目隠しして海外。字面だけなら案件どころか拉致です。
あ、ちなみに睦月は妹の名前。11月生まれです。どういう事なんでしょうね? そして今その謎の儀式跡とやらで何やら分厚い辞書みたいなの取り出してうんうん唸ってます。
「そして葉月、オフィスにお前が来てなかったから何となく安心してたらまさかの空港待機とか、これはもう逃れられぬカルマなんやなって諦めさせられたぞ」
葉月っていうのは睦月の双子の妹で、睦月が起こす様々な問題が大丈夫かを俺が判断する上で重要な人物。双子なので当然同じく11月生まれ、親の顔が見てみたいです。去年まで見てましたけど。
何故葉月が重要かと言えば、片割れの睦月がこうやって突然ことを起こすのはこれが最初じゃないから。
去年のちょうど今頃、両親はいつも通りに俺達を祖父に預けて『新婚旅行』と称したイチャラブ旅行に行ったんだけど、今までは長くても2週間だった旅行期間を過ぎても帰ってこなかった。両方の祖父祖母がありったけの人脈を使って四方八方情報を探し尽しても、そして不思議な事に『日本各地の空港』のどこにも居た形跡が無かったそうな。
つまり、どこに向かったのかすら全く分からないという状況。そしてその頃から、睦月が母親から教わっていたというか教えられていた『黒魔術』にどっぷりご執心なられあそばれる。この時睦月18歳、大学合格が決まっていたのに辞退し、俺を引っ張りまわす黒魔術の旅の始まりであった。
そして俺が大学の講義中であろうがお構いなしに現れ、北に黒魔術に詳しいという怪しい人あらば、行って魔術署とやらを授かり、南に遥か古代の魔術跡があると聞けば、行って子細調べ尽しノートを埋め尽くし、雨の日も(俺が)風邪の日も雪の日も日本中何故か俺を引っ張りまわしてくれやがったんだけど、基本的にはその際には葉月は家で夕飯を作って待っていた。というか基本的には日帰りだった。
だからこそ、オフィスに葉月が来てないからせいぜい国内旅行だろうと高を括ってたのはある。でも今回は屈強な男性陣を引き連れてという予想外が付属してたから、もう何が起こるのか分からなさ過ぎて恐怖以外の感情が生まれなかったワケでもある。
そしてトドメが、空港で目隠しを外された瞬間、目の前にいた葉月。膝から崩れ落ちるってこういう事かと実感させられた。
「……私はある程度事前に聞かせられてた。だから私もパスポート作ってた。準備も万端。……むふん」
イチャラブしてねぇでさっさと出て来いよクソ親父オラァン!