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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
2.幼馴染み(美少女)
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 私が顔を洗って着替え、登校の支度を終えるのとほぼ同時に、幼馴染みが朝食を運んできた。トースト、ベーコンエッグ、サラダ、オレンジジュースがローテーブルに並べられる。

 トーストはきれいに焼き色がつき、ベーコンエッグの卵はとろとろの半熟、サラダは彩りよく盛りつけられ、そしてオレンジジュースはなんと搾り立てだ。

 幼馴染みは料理がそこそこ上手だ。美少女かつ料理スキルも持っているとは、世の中の格差が腹立たしい。まあ、不本意ながら毎日手料理を振る舞われる羽目になっている以上、劇物を出されるよりはずっとましではあるけど。

 幼馴染みとはいうものの、知り合ったのはなんとわずか一週間前だ。そんなことになった原因は、例の女の子の話の続きにある。


 女の子が言った「二ヶ月後」というのは、彼女の相棒がこの世界に戻ってくる予定の話らしかった。

「どうも厄介事に巻き込まれてしまったらしくてな。諸々片付けて戻ってくるにはそれくらいかかりそうだとのことだ」

「……その、世界間をつなぐっていうのは、あなたにはできないの?」

 この美人に満ちた世紀末な世界で二ヶ月待つとか、できれば勘弁してほしい。私の髪型がモヒカンになって火炎放射器を探し始めるのも時間の問題だ。

 でもそんな私のささやかな望みを、女の子は一刀両断した。

「私はそういう力仕事担当ではないのでな」

 世界をつなぐのは力仕事なのか。具体的にどうするのか見当もつかないけど、彼女がそう言うのならそうなのかもしれない。

 でも今は担当とか担当じゃないとか、そういう話をしてる場合じゃないのだ。私が汚物を消毒し始める前にどうにかしてくれないと。


「……そこを何とかしてもらえない?」

 諦めきれずに食い下がると、女の子のこめかみがぴくっとした。

「しつこい」

「うぐっ」

 直後、側頭部に衝撃を受けて、ノーガードだった私は勢いよく横倒しになった。ベッドの上で助かった。

「いった……っていうか、あれ? 今誰に叩かれたの?」

 部屋には私と女の子しかいないけれど、女の子は私の正面のローテーブルにあぐらをかいたまま動いていない。確かに横から衝撃を感じたのに、そっちの方向には誰もいなかった。そういえば、少し前にも同じようなことがあったような気がする。

「私だ」

 女の子に偉そうに宣言されて、私は沈黙する。疑いの目で見ると、彼女は半目で見つめ返してきた。

「何だ、その目は」

「いや、それは物理的に無理じゃないかと」

「物理ではないから無理ではない」

「……物理じゃないなら何なの」

「神通力だ」

 当然のように言われた。

「……あっそ」

 この話はやめよう、争いからは何も生まれない。


「それじゃ、私は二ヶ月待ってればいいの?」

「まあ、基本的にはそうだな。ただ、いくつか守ってもらわねばならぬ規則もあるが……さて、そろそろ来る頃か」

 女の子が玄関の方を向いてそう呟くのにかぶせるようにして、ドアノブが回される音がした。がちゃがちゃと荒っぽい音にビビる。

「え、何? 誰?」

「なんだ、お前、鍵などかけたのか」

「……かけた、かも」

 はっきりとは覚えていないけど、外で数多の美女を見てから帰ってきたとき、無意識に鍵をかけたかもしれない。

 戸締まりは女の一人暮らしの基本だ。私のようなブスでもどちらかと言えば女なので、玄関のドアを閉めると同時に鍵をかける動作は、もう体に染み付いている。

「用心深いことだな。こちらの世界のお前は鍵などかけたことがなかったが」

 何気ない口調で言われて耳を疑う。

「……そうなの?」

 というか、こっちの世界の私って何だ。聞き直そうとしたけれど、女の子に睨まれた。

「早く開けんか、やかましい」


 確かにうるさい。さっきからドアノブをがちゃがちゃする音とドアを叩く音が交互に続いている。

「……私が開けるの?」

 実を言うと、来客の応対は苦手だ。どれくらい苦手かというと、宅配業者に会いたくないからネット通販が使えないくらい苦手だ。

 代わりに出てくれないかな、とかすかな希望を込めて女の子を見るけれど、ぴしゃりとはねつけられた。

「当たり前だ、お前の客だろうが」

「いや、知らないって」

 心当たりは全くない。そもそも私はこの世界に知り合いすらいないのだ。この状況で私を訪ねてくる客といえばセールスか勧誘、そうでなければ強盗くらいしか思いつかない。

「いいから出ろ」

 あどけない顔に不似合いな鋭い視線で促され、私は渋々重い腰を上げて玄関に向かった。


「今開けまーす」

 がちゃがちゃと回され続けるドアノブに及び腰になりつつ、一応声をかけてみる。……静かになった。そのまま帰ってくれないかなーと様子をうかがってみる。

「ひいっ」

 再び激しくドアノブが動き出して、思わず小さく悲鳴を上げてしまった。

「さっさと開けんか!」

 後ろから罵声が飛んできた。前門の来客、後門の怒れる幼女。追いつめられた私は、意を決して鍵を開けた。そしてノブをひねる……までもなく、ばーんと向こうからドアが開けられる。


「なんで鍵とかかけてんの!? ……って、あれ?」

 飛び込んできたのはものすごい美少女だった。ショートカットの髪は瑞々しく輝き、すらりとした体型からは活発な印象を受ける。

 あまりにも美少女すぎて後光が差している、かと思ったら、玄関の外が明るいからそう見えているだけだった。

「えーと……」

 当然だけどその美少女に見覚えはなかった。相手も私のことは知らないようで、戸惑った顔をしている。そんな顔をしても可愛いから美少女はずるい。


 助けを求めて振り向くと、女の子はローテーブルにあぐらをかいたままこっちを見ていた。そのつまらなそうな顔から推測するに、来客が誰なのか分かっていたような感じだ。

「よく来たな。むさ苦しいところだが、まあ上がれ」

「あなたの家じゃないでしょ」

 私の家でもないけど。

 美少女は少しためらっていたけれど、女の子にちょいちょいと手招きされて、おずおずと靴を脱いで室内に上がった。


 ……見られている。ものすごい見られている。

 靴を脱ぐ間も、美少女はきらきらした大きな目で私を見つめ続けていた。外に出たときに美幼女や美少女や美熟女たちにじろじろ見られたことを思い出す。私が電車に飛び込む直前に見た美少女から目が離せなくなったように、この美少女も私があまりにブスすぎて目が離せないんだろうか。

 ガン見されすぎて変な汗が出てきた。どうにか美少女から顔を逸らして、視線を意識するあまりぎくしゃくとした動きになりつつも、開きっぱなしになっていた玄関のドアを閉める。

「あーっ、また鍵かけてる!」

 背後でいきなり大きな声を出されて、誇張抜きで数センチ飛び上がった。

 自分の手元を見ると、確かに鍵が閉まっている。ほとんど意識してなかったけれど、体に染み付いた習慣の通り施錠したみたいだ。


 振り返ると、美少女が私を軽く睨んでいた。怒った顔も反則級に可愛い。でも、なんで鍵をかけただけで怒られなければならないのか、全く分からない。

「……いや、私だって鍵くらいかけるけど」

「鍵なんかかけちゃダメでしょ! 何かあったらどうするの!?」

 鍵をかけないほうが何かある可能性は高くなる気がする。でも美少女のあまりの勢いに言い返せなくて、私は口ごもった。

「まあ、そんなところで喧嘩せずにこっちに来んか」

 思いがけず女の子が助け舟を出してくれた。

 やっぱりじろじろ見てくる美少女の視線から逃れるように、私はそそくさとキッチンを通り抜けて女の子がいる部屋に行く。

 改めてベッドに腰を下ろした私を、美少女は部屋の入り口に所在なさそうに立ったまま見ている。私はブスではあるけど、常識の範囲内のブスかつ派手さに欠けるブスなので、人からここまであからさまに凝視されたことはなくて、さすがに落ち着かない。

「お前も座れ」

 女の子が美少女に向かって、私の隣あたりを手で示す。美少女はしばらく目を泳がせてから、やっと決心がついたのか、ベッドの端の方にちょこんと座った。


「さて――紹介が遅れたな。彼女はお前の幼馴染みだ」


 女の子は、彼女、と美少女を指し、お前、と私を見た。

 私は美少女の方を向く。美少女も私を見ている。つやつやした唇を薄く開いて、呆気にとられたような顔で。今の私の顔を三百回くらい美化フィルターに通したら、きっとこんな感じになるんじゃないだろうか。


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