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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
9.もう一人の私(???)
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6

 女の子はめんどくさそうに、自分を指差した。

「私はジンギスカン職人だ」

「うん、知ってる」

「話は最後まで聞け」

 例によって神通力で殴られた。頭を押さえる私に、女の子はうずくまっている女性を指で示す。

「で、あいつは私の相棒で、力仕事担当だ。そのエネルギー源として、私が作ったジンギスカンを食べるわけだ」

「へー……」

 何とも反応のしようがなくて生返事をした私は、ふと周りの空気が妙なことに気づいて、辺りを見回した。


 居並ぶ美女美少女が、一様に顔を引きつらせている。何だろう……怖がってる?

 幼馴染みとお嬢様はもはや顔面蒼白だ。いつもの不仲はどこへやら、互いにきつく抱き合っている。委員長と妹は彼女たちほどびびってはいないみたいだけど、若干腰が引けている。

 先輩は好奇心半分、畏怖半分といった表情だ。留学生だけが言葉を完全に理解できていないのか、不安そうに周りの面々を見回している。

 彼女たちの様子を見ても、何にそんなに怯えているのか全然分からない。

 首をひねる私を見て、女の子は訝しげに首を傾げた。

「お前、意外と豪胆なのだな」

「……? そりゃどうも……」

 唐突に褒められて、謎が深まった。

 更に首をひねる私と、不審げな顔をしている女の子。明らかに何かが噛み合ってない感じがする。


 少しの間そうして見つめ合った後、女の子がはっとしたような顔になった。

「……お前、ジンギスカンを知っているか?」

「知ってるよ。羊料理でしょ?」

 食べたことはほとんどないので詳しいことは分からないけど、それくらいの大雑把な知識なら持っている。

 でも、女の子はびっくりしたように目を瞬かせて、それから深いため息をついた。

「……そうか、そこに齟齬があったのか。……この世界で言うジンギスカンとは、人間の肉で作る料理のことだ」


「…………はい?」


 言葉の意味を飲み込むのにかなりの時間がかかった。呆然としている私に、女の子は淡々と言う。

「この世界のジンギスカンは、タレに漬け込んだ人肉を焼いて食するものだ。そしてそれが、そこにうずくまっている私の相棒の大好物かつ主食でもある」

 息もできないくらいに静まり返った中に、女の子の声だけが響く。

「相棒の役割は主に力仕事をすること。たとえば世界同士をつなげることもその一つだ。私は、それに必要な力を出させるため、彼女にジンギスカンを用意する係なのだ」

 そこまで言って、女の子は不審げに首を傾げた。

「――お前、本当に知らなかったのか?」


 私はしばらく口をぱくぱくさせることしかできなかった。必死に記憶をたどって、やっと反論の材料を見つける。

「だって……だって、確か、迷える子羊で作るって……」

 確かこの世界に来たばかりの頃、女の子自身がそう言っていたはずだ。確か「迷える子羊を導いて崖から鍋に飛び込ませ、ジンギスカンを作り上げる職人」……とか何とか。

「比喩的表現だ」

 あっさり答えられた。女の子は呆れたように目を細める。

「最初に話したとき、お前は『なにそれこわい』と言ったではないか。だからてっきり、分かっているものだと」

「それも比喩的表現だよ!」

「何だ、紛らわしい」

 お前が言うな。


 内心で叫ぶ私をスルーして、女の子はもう一人の私に視線を向けた。

「ジンギスカンの材料が人肉だと、お前は当然知っていただろうな?」

「当たり前じゃない! 馬鹿にしてんの!?」

 今の質問のどこにそんなに腹を立てる要素があったのか、全く分からない。訝しく思っていると、もう一人の私がふっとこちらを向いた。

「……あなたがいた世界では、ジンギスカンの材料って人間の肉じゃないの?」

 今までの感じとは違ってちょっと弱気な態度に、私は戸惑う。

「え……うん、羊料理だったけど」

 素直に答えると、もう一人の私は深いため息をついた。

「なーんだ、良かった」


「良かった……?」

 何をそんなにほっとしているのか分からなくて、聞き返す。もう一人の私は心底安心した様子でうなずいた。

「あっちの世界では街中に普通にジンギスカンのお店があったから、油断したら私も捕まって食材にされちゃうんじゃないかと思ってちょっと心配だったの。でもこれで安心してあっちに戻れる」

 もう一人の私は、ただでさえ整った顔を晴れ晴れと輝かせていた。まぶしすぎて直視できない。

 ……余計なことを言ったかもしれない。

 ジンギスカンにされる恐怖で、彼女が向こうの世界に戻ることをためらっていたなら、「あっちの世界でもジンギスカンは人肉だよ。隙を見せたら狩られてジンギスカンにされちゃうよ。弱肉強食!」とでも言っておけば、ちょっとは抑止力になったかもしれないのに。


 今からでもごまかせないか? と口を開こうとしたとき、女の子が「さて」と改まった口調になる。

「お前、まだ元の世界に帰りたいか?」

 その言葉は私に向けられたものだった。それを聞いて、幼馴染みをはじめとした美少女たちの威圧感が増す。

 私はちょっと、いやかなりためらったけど、彼女たちから全力で目を逸らしながら正直に答えた。

「……帰りたい」

 もうすぐこの世界に別れを告げられるのなら、今更彼女たちの好感度を上げようと頑張っても仕方がない。ここは素直になるのが自分のためだろう。


「分かった。お前、タレは持ってきたか?」

 せりふの後半は留学生に向けられたものだった。留学生ははっと我に返ったように、布包みを抱える腕にぎゅっと力を込める。

「ハイ、抜かりはないデス!」

「よろしい」

 彼女に偉そうに頷いて見せ、女の子は再び私を見た。

「――では、どれにする?」

「……どれって、何が?」

 女の子は片手をすっと上げた。


 その小さな手には、どこから取り出したのか、巨大な包丁が握られていた。

「決まっておろう。ジンギスカンの材料だ」


 何でもなさそうな口調で言って、女の子は包丁の切っ先を美少女たちに向けた。彼女たちが一斉に息を呑み、後ずさる。

「人ひとり別の世界に送るだけなら、材料も一人分で足りるか? どうだ?」

 私に聞かれても、と思ったら、そばでうずくまっていた小山のような体が小さく揺れた。

「お腹すいた……」

「足りぬか。二人ではどうだ?」

「……」

「まだ不満か。では奮発して三人、大盤振る舞いだ」

「……それで手を打とう」

「だそうだ」

 包丁の先で美少女と美女たちをぐるっと指し示しながら、女の子はいつも通りのつまらなそうな顔で私に言う。


「あの中から、ジンギスカンの材料を三人ほど選べ」

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