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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
9.もう一人の私(???)
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 そう思ったところで、私はやっと本来の目的を思い出した。

「……それで、私が元の世界に帰れるって話はどうなったの?」

「帰る!?」

 いきなり耳元で大声を出されて、耳がきーんとなった。幼馴染みに肩を抱かれたままだったことを忘れていた。

「帰るって、帰るってどういうこと!? ずっとこの世界で生きてくって言ってたよね!?」

「あうあうあう」

 鬼の形相の幼馴染みに胸倉をつかまれ、豪快に揺さぶられる。鬼の形相でも可愛い……とか考えている余裕はない。頭ががくんがくんとなって、今にももげそうだ。

「そうだそうだ、帰るなんて許さない!」

 遠のきそうになる意識の中で、聞き覚えのない声が聞こえた気がした。同時に幼馴染みの手が止まって、私の頭もとりあえず静止する。


「……えーと」

 ぶれていた視界がだんだん定まってきて、私は声がしたと思われるほうを向いた。もう一人の私である美少女がまっすぐに私を睨んでいてビビる。

「あっちの世界には私がいるから、あなたはずっとこっちにいて」

 美少女は私を睨み据えたままそう言った。さっきの声はやっぱり彼女のものだったみたいだ。

「お前、自らこの世界に戻ってきたのではないのか?」

 口を挟んだのは女の子だった。それを聞いた美少女は、腰に両手を当ててふんぞり返る。

「私は、世界間を自在に移動する能力を手に入れた。その力を確かめるために、試しにこっちに戻ってみただけ」

「おうふ」

 何というか、黒歴史が更新される瞬間に立ち会ってしまった気がする。


「……まあ……さすが超常現象研究部の副部長。私が見込んだだけのことはあったわ」

 ずっと黙っていた先輩が、感嘆したようにそう言った。

 私、副部長だったのか。この期に及んで初耳だ。まあ、部員が二人しかいないなら必然的にそうなるか。

「……世界間を移動する……って、どういうことなんですか?」

 委員長の質問が真っ当すぎて涙が出そうになる。委員長、やっぱりこの世界の良心だ。他人宛のファンレターを燃やす奇癖はこの際見逃そう。

 その質問に、美少女はさらに偉そうにふんぞり返る。

「最初に違う世界に移動できたのは、私の天性の才能と長年の研究のおかげなんだけど」


「……オカルトオタクすぎて、ほんとに超常現象を呼び寄せちゃったのかな。……××××」

 小声でそう呟いたのは妹だ。最後のほうは外国語っぽくて、何を言っているのか聞き取れなかった。諸々の要素から判断するに、いい意味じゃないことは確かだけど。

 家族の冷たい反応にめげる様子もなく、美少女ことこの世界の私は軽く振り返って、自分が現れたブランコの中の闇を指差した。

「これが、私がさっきまでいた世界との境界。私はこの境界をいつでも自由に作り出すことができるようになった」


「なんで止めるの!?」

「許さないって言ったでしょ! 人の話聞け!」

 美少女の言葉を聞いた次の瞬間、私はブランコの鎖の間に広がる闇に向かってダッシュしていた。でも美少女の見事なタックルを食らって、闇の中じゃなくて地面にダイブする羽目になった。

 どうにか振りほどいてブランコのほうに向かおうとする私と、そうさせまいと体にしがみついてくる美少女。何だか格闘技の様相を呈してきた。

「ちょっと、見てないで何とかしてよ!」

 腕を組み、半眼でこっちを見ている女の子に向かって叫んだ。女の子はこめかみを指先でぽりぽりかいた。めんどくささを隠すつもりもないらしい。


「あー……お前は、なぜあちらの世界にいたいのだ?」

「異世界に行くのが夢だったから」

 女の子のどうでもよさそうな問いかけに、私にしがみついたままの美少女は即答した。それを聞いて、女の子は私に視線を移す。

「らしいぞ」

「いや、そう言われても何も納得できないからね?」

 少なくとも、はいそうですか、じゃあどうぞ、と言える答えではなかった。

「あと、あっちだと私、すごい美人扱いされるから」

 そう付け加えた美少女は、私を上目遣いに睨んできた。うお、可愛い。私のくせに。

「あなたもそうでしょ? こっちの世界では美人って言われるでしょ?」


「……あー、えーと、そうだね」

 私にとってはそれは未だに社交辞令にしか聞こえなくて、毎回反応に困っているんだけど、彼女のほうはそうでもないみたいだ。

「お互い、今いる世界で美人扱いされてるならそれでいいじゃない。人生イージーモードじゃん」

「……イージー、かな」

 私としては、モードが変わったというよりはそもそも違うゲームになってしまったくらいの転換だったんだけど。

 でも、美少女は畳み掛けるように続ける。

「せっかく手に入れた美しさなんだよ? なんで自分から手放さなきゃいけないの?」

「それは違う」

 周りの反応が変わっただけで、私自身が美しさを手に入れたわけじゃない。

 現に、未だに鏡を見て「ここがもうちょっとこうで、こっちがもうちょっとこうで、これがこうだったら美人だったのに……って全部じゃん」と落ち込むこと多数だ。



「ああもう、やだ! 私はあっちに行くもん!」

 業を煮やしたのか、美少女はそう喚いて、空中に向かって声をかけた。

「早く出てきて! 帰るよ!」

 彼女の言葉から一拍置いて、何もなかった空中から白と赤の塊みたいなものがぼとっと落ちてきた。地面に降り立ったそれは、巫女服をまとった……

「……ゴリラ?」

 半分無意識に呟いて、はっと我に返って勢いよく口をふさぐ。仮にも女性に対して、あまりにも失礼な表現だった。……女性、だよね?

 この世界に来てからずっと美少女や美女ばかり見てきた目には、その女性と思われる人の容姿はなかなか衝撃的だった。彼女の外見について、それ以上の詳しい説明は控えておく。何を言っても「お前が言うな」となりそうだからだ。


 そのとき、周りの空気が何となく変わったのを感じて、私はきょろきょろした。そして、幼馴染みをはじめとする美少女と美女たちが、ぼうっとした顔でその女性を見ているのに気づく。

 その目つきにはものすごく見覚えがあった。私が彼女たちから向けられ続けてきたのと同じだ。――見とれている。

「……おぅ……」

 そうか、この世界で言う美人とはこういうタイプなのか。ついでに自分も「こういうタイプ」なのかもしれないと気づいて、容赦ない現実にちょっとめまいがした。


「ちょっとこの人押さえといて」

 美少女が巫女服の女性に声をかける。女性にぎろっと見られて、私は顔をひきつらせた。私は決して華奢なほうじゃないけど、だからといって腕力があるわけじゃないし、物理的に強靭な体だというわけでもない。この女性に押さえられたら、ついでに息の根まで止められそうだった。

「いや、待って待って、話せば分かる……っていうか、それ誰?」

 半分ひとりごとのような私の問いかけに、美少女は得意げに答えた。

「私が召喚した精霊だよ。彼女の力を借りて、私は世界間を自由に渡れるようになったんだ」


「それは違うな」

 だるそうに私たちを眺めているだけだった女の子が、急に割って入ってきた。

「違う……?」

「そいつは私の相棒だ」

「……相棒」

 この人が例の……ということは、元の世界に戻るにはこの人にお願いしなければならないわけか。

 そういえば、ずっと前に女の子が、世界同士をつなぐのは力仕事だとか言ってたような覚えがある。確かに力仕事担当っぽい……と、彼女のたくましい腕や肩を見ながら思ってしまって、慌てて頭を振って打ち消した。

 相棒さんとは初対面だけど、この世界の私のせいで、ここにいる私の心象もよくないという話だった。マイナスの印象をさらにマイナス方向に押し下げるようなことはやめておかないと。


 かと言って、どう振る舞えばプラスの印象を持ってもらえるのか分からない。とりあえず下手に出てみる。

「……えっと……お噂はかねがね……折り入ってお願いしたいことが……」

 私の言葉に反応したのかどうかは分からないけれど、ずっと黙って立っていた彼女が、おもむろに一歩踏み出した。そのまま、どことなくおぼつかない足取りで私たちのほうに向かってくる。

 たとえて言うなら筋骨隆々なゾンビというか、本能的な恐怖を感じる姿だった。

「え、何……ちょっと、重いんだけど!」

 逃げたいけど、しがみついている美少女が邪魔で起き上がれない。彼女も予想外の事態に固まってしまっているみたいだった。


「……お腹がすいた」

 私たちのすぐ近くまで来た女性は、見た目からは想像できないくらいか細い声でそう言って、そのままその場にうずくまった。

 それとほぼ同時に、ブランコの中の闇がすうっと消えていった。残ったのはいつも通りの公園だ。鎖の間には、普通に向こう側の風景が見えている。

「ああっ!? なんで!?」

 美少女もそれに気づいたみたいで、悲鳴のような声を上げる。

 何が起きているのか分からなくて、私は助けを求めて女の子のほうを見た。彼女は仏頂面を美少女に向ける。

「お前、そいつに餌は与えたか?」

「……餌?」

「やはりな」

 ひとりで納得されても困る。

「……説明を求む」

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