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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
8.保健室の先生(美女)
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 帰り道を歩きながら、私はぼんやりと考えていた。


 昼間保健室の先生にも聞いたけど、この世界の私について、私はやっぱりあまり知らない。重度のオカルトオタクだったことだけは、アパートの部屋を見ても分かるし、いろいろな人の言葉の端々からも思い知らされたけど、それ以外のこと、たとえば見た目とかの情報は今のところ皆無だ。

 私がブスだということは、入れ替わる前の私もブスだったんだろうか。その場合、この世界でのブス、つまり私から見ればすごい美少女になるんだろうか。

 ……複雑な気分だ。


 あ、容姿についてひとつだけ知っていることがあった。スタイルは良かったらしいということだ。

 相変わらず私はこの世界の私の制服を着ているけど、美少女たちの気合いの入った弁当のせいなのか、もともときつかったその服がそろそろはちきれそうになっている。スカートのホックが弾け飛びそうなので常時外しているのは内緒だ。


 ……考えていたら、この世界の私の顔を見てみたくなってきた。



「ねえ、この世界の私の写真とかないの?」

 アパートに帰り着いてすぐに言うと、先に部屋でくつろいでいた幼馴染みは困惑したように眉を寄せた。

「……ないことはないけど……」

 歯切れが悪すぎる答えに、何となく嫌な予感がする。私はあまり勘が鋭いほうじゃないけど、この世界に来てからの嫌な予感はだいたい当たっていた。

「……人に見せられないような写真ってこと?」

「……」

 雄弁すぎる沈黙が返ってきた。辛い。


「私、元お姉ちゃんの写真持ってるよ」

 ベッドに寝転がって漫画を読んでいた妹が口を挟んできた。元お姉ちゃんって、なんかあんまり嬉しくない響き。

「近況報告とか言って、ときどき自分から送ってきてたから。ほら、これとか」

 妹は傍らに置いてあった携帯を開いて、画面を見せてきた。どれどれ、と覗き込んで、私は固まった。

 待ち受け画面に表示されているのは、顔に極彩色のペイントを施した人物だった。頭にはとうもろこしのひげみたいなものがくっついた謎の被り物を載せている。顔の作りどころか、もはや年齢も性別も不詳だ。


「…………これが、私?」

 口から言葉らしい言葉が出るまで、一分以上はかかったと思う。

「うん。これは何だったかな、これから何とかの精霊だか死霊だかを呼び寄せる儀式をします! っていうメールに添付されてた気がする」

 この時点までは、私はこの世界の私のことをちょっぴり甘く見ているところがあった。いくらオカルト好きで奇行に走っていたとはいえ、そこまで常軌を逸していたわけじゃないだろうと。

 その人生を引き継ぐはめになった以上、そう信じたかったのかもしれない。

 でもそれは間違いだったと、この画像ひとつで思い知らされた。これはガチなやつだ。

「……えっと、何ていうか……元気出して。今日の晩ごはん、好きなもの作ってあげるから」

 打ちひしがれている私の肩を、幼馴染みがいつにない気遣いを見せてぽんぽんと叩いてくる。その優しさが辛かった。


「でもあれだね、お姉ちゃんの写真待ち受けにしちゃうなんて」

「……悪い?」

「悪くないよー。可愛いなって思って……っ」

 幼馴染みの声に続いた鈍い音に顔を上げると、彼女が掲げたクッションに妹の拳がめり込んでいた。堂に入ったフォームとは裏腹に、そのあどけない頬はうっすらピンクになっている。

「照れなくてもいいじゃん、姉妹仲がいいって素敵だし」

「仲良くなんてなかったし! あんなオタクなお姉ちゃんなんて欲しくなかったし!」

 叫びながら両手で交互にパンチを打ち込む妹と、それをクッションで受ける幼馴染み。ここはボクシングジムじゃないぞ、と言いたくなる。

 しかし、あの写真を待ち受けにしていたことを本当に単純な好意の表れと取っていいのか、ちょっと迷うところだ。もしかしたら、隙あらば姉の現在進行形の黒歴史を世間に晒そうとしていたのかもしれないし。



「あ、そういえば具合はもう大丈夫なの?」

 ひとしきりボクシングもどきをした後、クッションを床に下ろした幼馴染みにそう聞かれた。妹は力尽きたのか、ベッドに倒れ伏している。

「具合……?」

「お昼前、保健室に行ってたんでしょ?」

 そう言われるまで、何のことか分からなかった。寝不足で調子が悪かったのは本当だけど、病気なわけじゃなかったからだ。

「……うん。もう大丈夫」

 それもこれもお前らのせいだよ! と言いたいのは山々だったけど、この光り輝く美少女に面と向かってそう言うには、私にはブス根性が染み付きすぎていた。


「そっか、それなら良かった。そういえば、保健室って言えばあれだよね、めちゃくちゃ若作りな先生がいるよね」

「若作り……?」

 今日会った先生は、別に若作りという感じはしなかった。髪型も白衣の下に着ている服も年齢相応だったと思う。振る舞いもほんわかした感じはしたけど、無理して若く装っているような印象は受けなかった。

 もしかして、保健室には他にも先生がいるんだろうか。

「若作り……はちょっと違うかな。若く見える、かな」

「それはだいぶ違う」

 言葉のチョイスに難がある。さすが、漢字がいまいち書けないだけのことはあった。


「そう? まあいいや。今日、保健室に先生いた?」

「いたけど」

「どんな人?」

 先生の特徴を説明すると、幼馴染みはしたり顔で頷いた。

「その先生、私のお母さんの友達なんだって」

「……そうなの?」

「うん。お母さんの母校もこの高校なんだけど、そのときの同級生だったみたい」

 私はまじまじと幼馴染みを見つめた。彼女はぽっと赤面して、頬を両手で包んで身をよじる。

「いやん、そんなに見られると照れる」

 その可愛さに腹を立てている余裕は、今の私にはなかった。

「……なにそれこわい」


 恐る恐る詳しい説明を求めたところ、幼馴染みの母親がものすごく若いわけではないらしかった。各方面に配慮して具体的な年齢は伏せるけど、間違いなく二十代だろうと思った保健室の先生の実年齢は、下手をしたらその二倍近いかもしれないということだ。

「……マジで?」

「マジだよー。うちのお母さんに聞いてみてもいいよ」

 生徒の若さを吸ってるんじゃないかとか、いろいろ言われてるんだけどね。そう言って無邪気に笑う幼馴染みに、私は頭を抱えた。

 先生といい妹といい先輩といい、実年齢と見た目年齢が噛み合わない人が多すぎやしないか? この世界の時空は歪んでるんじゃないか?

 早く元の世界に帰りたい。久しぶりに心底そう思ったところで、はっと気がついてカレンダーを見た。


 あと一週間弱で、私がこの世界に来て二ヶ月になる。

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