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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
7.留学生(美少女)
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3

「ふーん。つまり、教科書に落書きをしたのは入れ替わる前のお姉ちゃんであって、今ここにいるお姉ちゃんはそんなやばい奴じゃないよ、って説明すればいいの?」

「ちょっと違う……けど、まあそれでいいや」

 自分でも何を説明したかったのかよく分からなくなってきて、適当に頷いた。妹はまた「ふーん」と言って、留学生と外国語で話し始める。

 おお、そうしていると妹がちょっと大人に見える。そう言うべきか迷って、やっぱり言わないことにした。「いつもは子供っぽい」と取られかねないと思ったからだ。乙女心は複雑である。


 二人の様子をぼーっと眺めながら弁当を口に運んでいた私は、ふと視線を感じた。見ると、幼馴染みが眉間にしわを寄せてこっちを見ている。

「え、何?」

「…………何でもない」

 全然何でもないようには思えない口調で言って、彼女はふいと顔を背けた。

「……言いたいことがあるなら言っていいよ」

 そう言うと、幼馴染みは横目で私を見た。口を開いたり閉じたり、しばらく繰り返して、やっとぼそっと呟く。

「……取り替えっ子のこと、なんで私に聞かないのかなって思っただけ」

「……は?」


 何を言われているのか分からなくて首を傾げる。幼馴染みはきっと目つきを鋭くして、机をべしっと叩いた。

「だから、私だって取り替えっ子に詳しいのに、なんで妹ちゃんに聞くのかって! ……あ」

 幼馴染みが張り上げた声はだいぶ大きく響いて、昼食メンバーだけでなく教室全体の注目を集めてしまった。

 すぐにそれに気づいたらしい彼女は、ぽんっと音が聞こえそうな勢いで赤面した。両隣の委員長とお嬢様に隠れるように身を縮める。

「べべ別に私は取り替えっ子好きなんかじゃないんだからね、私に聞かなかったからって拗ねてるわけじゃないんだからね」

 お嬢様とキャラがかぶっている。


「ねえ、お姉ちゃんが取り替えっ子だって説明しといたよ」

 漂う微妙な空気を全く気にする様子もなく、妹が声をかけてきた。

「あ……ありがとう」

「で、それは分かってもらえたんだけど」

 妹はちょっと言葉を濁して、留学生をちらっと見る。釣られて目をやった留学生は、青い目をきらきらさせて私を見ていた。天使すぎて思わずちょっとのけぞる。

「……なんか、お姉ちゃんが入ってる部活に興味を持っちゃったみたいで」

「オカルトの研究をしてるんですよネ? 日本の部活、見てみたいデス!」

「……えー」

 その口ぶりは、もしかして日本の部活が全部そんな怪しいものだと思ってるんじゃないだろうか。

 その懸念は口に出せないまま、放課後に部活に連れて行く約束をする羽目になってしまったのだった。



 放課後、私は重い足取りで部室に向かっていた。後ろには留学生が、踊るように軽やかな足取りでついてくる。

「……ほんとに一緒に来るの?」

「もちろんデス! せっかく日本に留学に来たんですから、日本文化をちゃんと見ておかないト!」

 ふんっと気合いの入った鼻息を漏らす留学生。はるばる日本まで来ているのは確かだから、そう言われてしまうと反論が難しい。ただ、これだけは言っておかないと。

「……私が入ってる部活、ちょっと珍しいやつだからね? 日本の部活のほとんどは、もっとこう、普通にスポーツしたりするやつだからね?」

「スポーツ……日本のスポーツって、シュリケンを投げたり、カラクリ屋敷からの脱出スピードを競ったりするんですよネ? それも見たいデス!」

 ……もうだめだ。


 私は肩越しに振り向いて、留学生のさらに後ろに目をやった。少し離れて歩いているのは妹だ。

 留学生に超常現象研究部への興味を持たせてしまったことを反省しているのか、自分も一緒に部活に行くと言い出したのだ。普段なら昼休みが終わる頃に帰るのに、今日は放課後までどこかで時間をつぶすと言って、本当に放課後にまた教室にやってきた。

 ちなみに、幼馴染みは今日はついてきていない。居残り補習だとかで、まだ教室に残されているみたいだ。まあ、漢字が苦手そうだったし、そんなこともあるんだろう。


 部室の扉の前に着いてしまった。できれば開けずに帰りたいけど、留学生が天使のような顔を期待に輝かせているので、そうも行かない。

 渋々扉に手をかけようとした瞬間、向こうから扉が開かれて、私は悲鳴を上げながら手を引いた。……なんか、前にもこんなことがあったような気がする。

「あら、入部希望者かしら?」

 姿を見せた先輩は、私の背後を見て小さく首を傾けた。



 留学生は、部室に足を踏み入れてからずっと部屋の中の探索をしていた。所狭しと積まれた得体のしれないものを、おっかなびっくり覗きこんだり、そっと指を触れてみたりしている。

「なるほど。彼女はそちらの妹さんのお友達で、日本に留学に来ているのね」

 一通り事情を話すと、先輩は気だるげに机に寄りかかって頷いた。

 私と妹と先輩は、部室に置かれた机を囲んでいる。

 相変わらず二つしかない椅子は、今回は先輩と妹に奪われてしまった。妹と自分の力関係を改めて噛みしめながら、私はその辺にあった箱を引き寄せて腰を下ろしている。

「はい。この部活に興味を持ったらしくて」

「それは光栄だわ」

 先輩は目を細めて、濁った液体が入った瓶を恐る恐る持ち上げている留学生を見た。


「……」

 そんな先輩を、なぜか険しい目で見つめる妹。先輩もそれに気づいたみたいで、長い脚をゆっくりと組み替えながら妹を見た。

「なあに? そんなに見つめられると照れちゃうわ」

 先輩から発散される濃密な空気に息が詰まりそうになる。でも妹は気後れする様子もなく、目つきをさらに鋭くした。

「いえ……脂が乗っていらっしゃるなと思っただけです」

 妹の視線は、先輩の胸元に向けられている。男子の夢がぎっしり詰まったようなその膨らみは、今日も重たげに机に預けられていた。

 ……って、脂?


「まあ、面白いことを言うのね」

 ちょっと遅れて妹の発言を理解し、青ざめる。

 そんな私とは対照的に、先輩は余裕の微笑みを浮かべて見せた。肩から体の前に垂れた髪を払って、立体感を見せつけるように胸を張る。

「あなたは……まだ稚魚かしら? 成長が楽しみね」

 妹の平らな胸元に視線を向けながらの先輩のせりふに、妹のまとう雰囲気が未だかつてないくらい荒む。次の瞬間、妹は先輩に向かってパンチを繰り出していた。

「ちょっ……」

 止めるどころか反応らしい反応もできなかった私の前で、先輩はいつものゆったりした動きからは想像できないくらいの俊敏さで、妹の拳を受け止めていた。


「……ちっ」

 数瞬視線をぶつかり合わせた後、妹は眉間に地割れのように深いしわを寄せ、舌打ちをしながら拳を引いた。歴戦の強者みたいな仕草だけど、見た目はやっぱり小学校高学年なので、似合わないことこの上ない。

 先輩のほうは悠然と微笑んだままだ。妹の突然の攻撃をあっさり受け止めるとは、この人やっぱり底が知れない。

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