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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
7.留学生(美少女)
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 実際の日本を見た留学生が、イメージと違いすぎてがっかりしてしまうんじゃないかと心配していたけど、意外と大丈夫だったみたいだ。

「オベントオベント~」

 昼休み、留学生は楽しげに口ずさみながら私の席に来た。その手にあるお弁当は、彼女自身が作ったものだ。

 彼女の国には弁当の文化があまりないらしく、幼馴染みが私に作ってくれた弁当を初めて見たとき、いたく感動していた。それから自分でも作ってみたいと言い出し、毎朝幼馴染みの指導を受けながら作るようになったのだ。


「今日も自分で作ったお弁当なんですか?」

「そうデス! 今日のテーマはフジヤマですヨ!」

 どんな弁当だ、と顔を引きつらせる私とは違って、委員長はにこにこと頷いている。

 留学生が来たのは私のクラスだった。顔見知りの私がいるから、早く周りに馴染めるだろうとの配慮らしい。私よりは委員長の存在のほうが、留学生の学校生活には役立ってそうだけど。

 それにしても、委員長の動じなさには相変わらず感心させられる。それは渋沢家のお嬢様との付き合いの中で育まれたのか、それとももともとのスルースキルゆえにお嬢様と仲良くなれたのか。

 どっちが先だったのかは未だに謎だ。


「今日も来てやったわよ!」

 私の物思いと連動するかのように、お嬢様が教室の入り口に現れた。いつものようにめちゃくちゃ高そうな風呂敷に包まれた弁当箱を抱えて、私の席に近づいてくる。

 私は委員長と視線を交わして、どちらからともなく互いの机をくっつけた。

 昼食のメンバーが増えすぎて、私の机だけでは狭くなったので、最近は二つの机を合わせてテーブルにしているのだ。この充実した高校生活な感、私の人生には馴染みがなくて肩が凝る。

 そこに幼馴染みもやってきて、六人で弁当を広げる。……一人多いのはホラー的な現象ではない。


「……今日も来たんだ」

 呟くと、妹がぎろっと睨んできた。

 こんなに愛らしい顔立ちをしてるくせに、そういう目をすると堅気じゃないような雰囲気が漂う。外国で何かあったんだろうか。

「悪い?」

「悪くないです」

 思わず敬語になる私をもう一度視線で突き刺してから、妹は手提げバッグからサンドイッチを取り出した。



 ずっと家でごろごろしていた妹は、相当暇を持て余したのか、昼食を食べるためだけに私の学校に来るという行動に出るようになった。

 やっとクラスメートたちも私の存在に慣れてくれたらしく、目立つ行動をしない限りは注目されることも少なくなってきたのに、妹が来たことで状況は最初の頃に逆戻りだ。

 彼女と一緒に昼食を取っていると、「なんで高校に小学生が?」「隠し子?」みたいな目で見られまくる。いや、私にはそう感じられるというだけで、実際そう思われてるかどうかは知らないけど。

 妹自身も自分が注目されていることには気づいているようだ。

「なんかすごいじろじろ見られるんだけど、制服着てないからかな?」

「そうだと思う」

 返事をそれだけにとどめておけるくらいには、私も顎を大事にするようになった。


「そういえば学校に入るとき、守衛さんとかに止められなかった?」

 幼馴染みの質問に、妹の目つきが剣呑になる。

「『どうしたの? ここは高校だよ』って言われたから殴りかけたけど、お姉ちゃんのためになんとか踏みとどまった」

「ありがとうございますありがとうございます」

 お礼を言ってから、あれ、ここって私が感謝すべき場面か? と思ったけど、深く考えるのはやめておいた。


「……すごい色だね」

 留学生が開いた弁当を見て、思わず正直な感想を漏らしてしまった。彼女はそれを褒め言葉と取ったのか、得意げに弁当箱を傾けてみせた。

「フジヤマといえばこの美しいブルー! きれいデショウ?」

「うん、まあ……」

 そういえばさっき、今日の弁当のテーマはフジヤマだとか言っていたか。食欲をそそるかどうかを別問題とするなら、確かにきれいな色ではある。


 弁当箱の中には、鮮やかな青に着色されたご飯が円錐形に盛られてそびえ立っていたのだ。山頂の雪を表現しているのか、ご丁寧にも上の方は白いご飯のままだ。

 よくその形を崩さずに学校まで持ってこられたなと思う。というか、日本でその原色の青を表現する着色料は手に入るんだろうか? 色々な基準に引っかかりそうな気しかしない。

 今のところ、私の昼食を用意してくれる美少女のローテーションの中に留学生は入っていない。でも今後も入らないという保証はないのだ。もしこの鮮やかな青いご飯を出されたら、食べきる自信はちょっとないかもしれない。

「……」

 お前の弟子だろ何とかしろよ、という思いを込めて、幼馴染みの顔を見た。

「……」

 幼馴染みは諦めという言葉を具現化したみたいな表情で、小さく首を横に振った。駄目らしい。


 そんな私たちの無言のやり取りをよそに、留学生は青いご飯をためらいも見せずに口に運ぶ。もぐもぐするその表情は、普通に美味しそうだ。

 まあ、本人が美味しく食べているなら今のところはいいか……と思ったとき、ふと思い出した。

「ねえ、向こうの国にも取り替えっ子っているの?」

 聞くと、サンドイッチを頬張っていた妹は首を傾げた。ほっぺたがちょっと膨らんでいるのが小動物っぽくて可愛い、けど、たぶん彼女には褒め言葉と受け取ってもらえないだろうから口には出さない。


「取り替えっ子は世界中のどこでも現れる可能性があるみたいだから、あっちにもいるんじゃないかな。実際見たことはないけど」

「じゃあ、そっちの国の人たちも取り替えっ子の存在は知ってるんだ?」

「だと思うけど。何、いきなり」

「いや、彼女に私のことをどう説明しようかと思って……」

 彼女、と私が示した留学生は、みんなの視線を受けてきょとんとした。


 話のきっかけは、今日の午前中に遡る。

 私が授業中に床に落としてしまった教科書を、隣の席の留学生が拾ってくれた。

 ちなみに、留学生の席は私の隣だ。つまり私は委員長と留学生に左右を挟まれていることになる。東西の美少女、夢の共演だ。

「ドウゾ」

「あ、ありがとう」

 教科書を受け取った私は、留学生が何とも言えない顔をしているのに気づいた。

「……それ、何ですカ……?」

 彼女が不気味そうな目で見ていたのは、落ちた拍子に開いてしまった私の教科書だった。正確には、そこにびっしりと書かれた、この世界の私の落書きだ。何回見ても禍々しい。


「ああ……えーと、何て言えばいいんだろ……」

 取り替えっ子についてこの留学生にどう説明したらいいんだろう。海外にもそういう概念はあるんだろうか?

 ちょっと考えて、妹に説明してもらえばいいかと思いついた。海外で暮らしている妹なら、そっちでの取り替えっ子の扱われ方も知っているかもしれない。それに、日本語での説明が難しかったら通訳も頼める。

「今授業中だから、お昼休みに説明するね」

 小声でそう言うと、留学生はこくりと頷いた。まだちょっと気味悪そうな顔をしていたのは、まあしょうがない。

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