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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
7.留学生(美少女)
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「オゥ……コレがジャパニーズゲイシャガール……」

 翌日、妹が連れてきた金髪碧眼美少女の第一声はそれだった。


「……いや、アイムノットゲイシャ」

 とりあえずそう言ってみたけど、目の前の美少女の耳には届いていないみたいだった。宝石みたいに透き通った青い目で私を凝視して、何か呟いている。

「……何て言ってるの?」

 美少女の隣に立つ妹に小声で聞くと、妹はちらっと美少女を見た。そして適当な感じで通訳してくれる。

「何この人、めちゃくちゃきれい。これが東洋の神秘か。やばい。クレイジー」

「……」

 褒められてるのかどうか、微妙に判断に困る。これが異文化ってやつか?

 そして、この世界に来てからのお約束だけど、私から見ると相手の方がクレイジーなほどの美少女だ。死ぬ間際に彼女を見たら、天使が迎えに来てくれたと信じて疑わないと思う。


「まあ、立ち話も何だから中にどうぞ」

 妹の言葉に頷いて、美少女は部屋に足を踏み入れた。土足で。

「……あ」

 全員の声が揃った。美少女は長いまつ毛をきょとんと瞬かせる。すごい、まつ毛まで金色だ。

「えーと、日本では家に上がるときに靴は脱ぐの」

 妹の指摘に、美少女は一拍置いて、それからはっとしたような顔になった。

「オゥ、ワタシとしたことが!」

 抜けるように白い頬を恥ずかしそうにうっすら染めて、美少女はいそいそと靴を脱ぐ。淡い金色の髪が目の前でふわっと揺れて、つい深呼吸してしまった。変態じゃないよ、ただのブスだよ。

 ちなみに美少女は、何の匂いか分からないけど外国っぽい匂いがした。


「そして靴は常に持っておくんですよネ! いつでも逃げられるように!」

 自分が脱いだ靴を掲げて、得意げに言う美少女。

 私は妹と、後ろに立つ幼馴染みを見た。二人とも何とも言えない表情をしているので、靴を持ち歩くのがこの世界の風習というわけじゃなさそうだ。

 しかし、彼女は何から逃げるつもりなんだろう。もしかして、枕元に靴を置いて寝る地震対策が間違って伝わってるんだろうか?

「うーん……とりあえず、この家ではここに置いたままでいいよ」

 妹に指示されて、美少女はちょっと納得がいかないような顔をしつつも、大人しく玄関に靴を並べた。



 美少女は、日常会話レベルの日本語ならそれほど問題なく理解できるみたいだった。元の世界でも外国語はほぼ分からなかった私としては、とてもありがたい。

 ただ、言葉が通じるからといって、文化を正しく理解しているとは限らない。


「だから、あなたが留学する学校には忍者もくの一もいないの。みんな普通の高校生。校舎に隠し扉とか落とし穴はないし、授業で切腹の作法は習わない」

 意外と面倒見が良いのか、懇切丁寧に言い聞かせる幼馴染みの前で、美少女は絶望に塗りつぶされた表情をして座っていた。

「そんな……嘘デス……だって、テキストに書いてあった……」

「……テキスト?」

 思わず聞き返すと、美少女は青い目をはっと見開いた。

「そう、テキストデスヨ!」

 彼女は勢いよく立ち上がり、部屋の隅に置いてあった大きなキャリーバッグに駆け寄る。それを開いて、中をごそごそやり始めた。


 オカルトグッズに占拠されてただでさえ狭い部屋に、美少女のものだけじゃなく妹のキャリーバッグも置いてあるので、相当な圧迫感がある。しかもそこに私と美少女三人がひしめいているのだ。ブス一人じゃ薄めきれないほどの美少女濃度だった。

「これデスヨ! 見てクダサイ!」

 美少女が胸を張って差し出したのは、薄めで大判の冊子だった。その胸の質量感に視線が吸い寄せられ、受け取るのが一瞬遅れてしまった。


 確か妹のクラスメートだとか言っていたから、妹と同い年、つまり十六歳のはずなんだけど。妹の薄っぺらい、一部の人にはめちゃくちゃ受けそうな体型とはだいぶ違う。この世界でも外国人のほうが発育がいいんだろうか。

 妹に聞かれたら問答無用でボコられそうなことを考えながら、受け取った冊子をめくってみる。妹と幼馴染みも覗き込んできた。

 日本語の文章が箇条書きのように並んでいる。その下に書かれた外国語っぽい記号の列が、たぶん訳なんだろう。



〈友人の家を訪ねるとき〉。

『こんにちは。ヨサクさんはいますか?』

『ついさっき、家の中の落とし穴に落ちてしまいました。彼の父が助けようとしているところなので、部屋で待っていてください』

『それは大変ですね。彼は先日も学校の廊下で落とし穴に落ちていました』

『そうだったのですね。まったく彼はソコツモノです』


〈アルバイトの採用面接〉。

『あなたはどこの里から来ましたか?』

『はい、私はコウガから来ました』

『あなたはテンプラを作れますか?』

『はい、それは私の得意料理です』

『それはとてもいいですね。それでは、あなたは水の上を歩けますか?』

『ときどき歩けます』

『よろしい。明日から私のもとでオンミツをしてください』



「……これがテキスト?」

 数ページ眺めて、どうやらずっとこの調子らしいと判断した辺りで、恐る恐る聞いてみた。美少女はきらきらした表情で力強く頷く。

「ハイ! ワタシの学校の日本語クラスで使ってるテキストデス!」

 私は妹を見た。彼女は死んだ魚のような目で私を見つめ返してきた。そんな顔をしてもマジ天使、だけど今の問題はそこじゃない。

「……向こうの学校で、ちゃんと勉強教えてもらえてる?」

「……私が使ってる教科書はそんなに変じゃないと思うけど……でもちょっと不安になってきた……」

「……おばさんに、転校も考えてもらえるようにそれとなく言ってあげようか?」

 幼馴染みまで心配そうな顔で言う。


 一人状況が分からないらしい美少女は、不審そうに眉を寄せた。

「何かおかしいことがありますカ?」

 私たちは顔を見合わせる。

「何か……っていうか、何もかもがっていうか……」

「うん……なんで敢えてのヨサクさん? それに粗忽者って、時代劇以外で初めて聞いた……」

「オンミツって隠密だよね? 天ぷらと関係あるの……?」

 ひそひそと感想を言い合っていた私たちは、美少女がぷるぷると身を震わせているのに気づいた。


 彼女は青い目を吊り上げて食ってかかってくる。

「さっきから何を言ってるのですカ? このテキストは、ワタシがお世話になってる先生が自ら作ったものデス、間違いがあるはずがないデス!」

 確かに、文法的にはそんなに間違ってない。ただ、それ以外がだいたい間違っているのだ。そしてその先生の日本に関する知識が非常に心配でもある。

 でも今それを言うとさらに激昂しそうなので、私たちはいきり立つ彼女を必死になだめたのだった。

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