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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
6.妹(美少女)
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2

 妹とこの世界の私は、一歳違いの姉妹だったらしい。つまり、この小学校高学年に見える美少女は、日本で言うと高校一年生だそうだ。

「いやー、ほんと全然変わんないよね。前会ったのって確か去年の今頃だけど、そのときのままだもん……っと」

 精神的ダメージからやっと立ち直った幼馴染みは、妹が繰り出したキレのあるパンチを素早くクッションで受け止めた。こいつ、慣れてる。

 ちなみに、そのクッションのカバーには布団カバーと同じおっさん柄がでかでかとプリントされていて、妹の拳はそのど真ん中にめり込んでいた。呪われそうだ。


 妹は、年齢より幼く見えることにもともとコンプレックスを抱いていて、海外に行ったことでそれが更に増幅されたらしい。年齢不詳系ブスである私からすれば、若く見られるのが嫌だなんて贅沢を言う口は丁寧にガムテープで封をしてやりたいところだけど。

「どいつもこいつも一人で歩いてるだけでお菓子渡してきたり『お母さんとはぐれちゃったの?』って言ってきたり警察に連れて行こうとしたり、マジで××××!」

 最後のほうは外国語っぽくて聞き取れなかったけど、その形相と口調からたぶんすごい罵詈雑言なんだろうとは想像がついた。この世界でも日本人は若く見える傾向があるんだなーと場違いに感心する。


 全方位からコンプレックスを刺激され続けるうち、妹にとって「実際より幼く見える」という類のせりふは禁句になったそうだ。どれくらい禁句かというと、言われた瞬間に反射的にアッパーをかましてしまうくらいだ。

 ここまでの情報を引き出す間に、追加で三発ほどアッパーを食らったので、たぶんその通りなんだと思う。


「えーと、それで何の話してたんだっけ? あ、いつまでここにいるのかって?」

 ふと思い出したように、妹は床に転がっていた携帯を取り上げた。そんな話してたっけ? 顎を殴られすぎたのか、記憶があやふやだ。

 妹は携帯を少しいじってから、画面をこっちに向けた。カレンダーが表示されている。

「学校が始まるのがこの日だから、この辺まではこっちにいるかな」

 彼女が「この辺」と指したのは、一ヶ月ほど先の日付だった。

「……あ」

 今から一ヶ月ほど先、私がこの世界に来た日の約二ヶ月後。つまり、例の幼女が言っていた、彼女の相棒が戻ってくる頃だ。


 それに気づいて思わず漏らした声が聞こえたみたいで、妹は首を傾げて私を見る。

「何?」

「いや……別に」

 元の世界に帰るつもりだと明かすかどうか、一瞬迷った。でもそばに幼馴染みがいることを思い出して、少なくともここでは言うべきじゃないと判断する。

「あっそう。……じゃ、そういうわけだから、しばらくここに泊めてね」

 そう言われて、私は改めて部屋を見渡した。

「あー……はい、むさ苦しいところですが」


 それは全く謙遜じゃなかった。所狭しと物が置かれ、しかもそれが全部胡散臭い。最初に目覚めたときに感じた、文字通りの意味での臭さは、私の全力の換気によってだいぶましになったけど。

 妹は特に表情を変えずにうなずいた。

「大丈夫、慣れてるから」

 それは本音っぽかった。彼女の話によれば、この世界の私は昔からオカルトマニアだったようだから、インテリアの趣味も今に始まったことじゃないんだろう。

 何にしても、この妹とは当分一緒に過ごさなければならないみたいだ。とりあえず年齢の話は振らないということだけ肝に銘じておく。



「そんなわけで妹ができたんだけど」

 放課後、私は一緒に帰ろうと追ってくる幼馴染みを何とか撒いて、学校からもアパートからも少し離れた公園のブランコに座っていた。

「ふむ」

 隣のブランコにはジンギスカン職人の幼女が腰かけている。ちょっと話を聞いてほしくて、私が呼び出した。

「気づいたら寝床が乗っ取られてて」

「誰にだ?」

「妹と幼馴染みに」

 何を言っているのか分からないという目をされる。正直私もどうしてこうなったのか分からないので、人に説明するのは難しい。


「うち、ベッドが一つしかなくて。でもソファとかはないし、しょうがないから妹と一緒に寝ることにしたんだけど」

「……ああ、そうだったかな」

 女の子は私の部屋の様子を思い出しているのか、ちょっと目を細めた。

 しかしあれだけ物がいっぱいあるのに、寝床になりそうなものが何一つないってどういうことだ。少なくとも妹が泊まりにくることはあったらしいんだから、寝袋くらい買っとけ。どう見てもガラス製の水晶玉とかより先に。

「幼馴染みにそう言ったら『けしからん! 私も一緒に寝る!』って怒られて」

 そんなに私の妹と一緒に寝たかったんだろうか。幼馴染みは一人っ子らしいから、羨ましいのかもしれない。


「……ああ」

 黒目がちな目をぱちくりさせてから、女の子は納得したような声を出した。何だその反応。

「それで?」

 突っ込もうとしたら続きを促された。私はその後起きた由々しき事態を説明する。

「いろいろ揉めた後、最終的に幼馴染みと妹が一緒に寝て、私は一人で寝るってことになって」

「ふむ。それの何が問題なのだ?」

「まあ言いたいことはいろいろあるけど、一番納得行かないのは配置かな」

 幼馴染みと妹が私のベッドで寝て、私は床で寝ることに決められたのだ。妹を床に寝かせまいと気遣って一緒に寝ようとしたのに、まさかそれがこんな方向に転ぶとは。


 幼馴染みと妹は、部屋の真ん中に私が横になれるくらいのスペースを作ってくれた。大量のオカルトグッズを、めちゃくちゃ無造作に端に追いやって。

 一応他人の部屋のものなのにこの扱い。この世界の私がどういう立ち位置だったか、何となくうかがい知れて辛い。

 せめてもの情けのつもりなのか、幼馴染みは自分の部屋から布団を持ってきた。空けたスペースに敷いて「これで寝ていいよ」とのことだ。微妙に恩着せがましい感じが解せぬ。


 私の話を聞いて、女の子は「ふむ」と腕組みした。

「二人まとめて幼馴染みの部屋で寝かせればいいのではないか?」

「そう言ってみたけど断られた」

「ではお前が幼馴染みの部屋で寝るとか」

「それも断られた」

 幼馴染み曰く「年頃の女子の部屋で寝たいなんて破廉恥!」だそうだ。生まれてこの方、これほど強く「お前が言うな」と思ったことはない。


「それでも寝るときだけならまだ我慢できるんだけど」

 女の子は首を傾げた。

「他にも何かあるのか?」

「私がいる間中、私の部屋に幼馴染みが居座ってて」

 この世界に来たときから、幼馴染みはしょっちゅう私の部屋に来てはいた。それでも妹が来る前はそんなに四六時中いるわけじゃなかった。

 それがここ数日、幼馴染みが自分の部屋に戻るのは、朝登校の準備をするときくらいになっている。


「あと、妹も常にいるし。……っていうか、それが元凶かも」

 休暇で日本に来ている妹は、当然学校に行ったりはしない。暇を持て余しているらしく、私が帰ってくると付きまとってくる。そんなときの妹はたぶんテンションが上がってるんだと思うけど、これがまた分かりにくいのだ。

 彼女はどちらかというと表情が乏しく、それに加えて毒舌だ。渋沢家のツンデレお嬢様なんて可愛いもんだと思ってしまうくらい、機嫌を推測するのが難しい。いくら見た目が妖精でも、率直に言って割とめんどくさかった。

 厄介なのは、そんな妹に対して幼馴染みが謎の対抗心を燃やしているらしいことだ。さらに妹も幼馴染みを意識しているみたいで、やたらと当てつけるような行動を取る。それを見た幼馴染みがまたむきになる。美少女のデフレスパイラル状態だ。

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