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はいはい、美少女美少女  作者: 佐藤鈴木
4.先輩(美女)
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2

 部員は私と先輩の二人だけだったという。

 机に頬杖をついた先輩は、うっとりしたような眼差しを私に向け、甘ったるい口調で言う。

「この閉ざされた部屋で、二人きりで毎日濃密な時間を過ごしていたのよ。今のあなたにその記憶がないのは残念だけれど、これからまた一緒に愛を育んでいけばいいわね」

「顔が近い! あと、その言い方は誤解を招く!」

 力強い突っ込みを入れてくれたのは幼馴染みだ。

 ちゃっかり一緒に部室に入った彼女は、先輩と私の間に陣取っている。先輩に対して威嚇するようなポーズを取っている彼女から目を離して、私は部室を見回す。


 造り自体は普通の教室と変わらないみたいだけど、とにかく物が多い。それも、普通は学校内にはなさそうな物ばかりだ。

 古びた分厚い本、無駄に巨大な理科の実験道具のようなもの、埃をかぶった水晶玉みたいなもの、濁った色の液体が入った瓶、などなど。そんなものが乱雑に置かれ、おまけに窓には暗幕までかけられている。

 ……やばい予感しかしない。アパートの私の部屋に似てるあたりとか特に。

「えっと……ここ、何ていう部活でしたっけ?」

 さっき聞いた胡散臭い部活名が聞き間違いだったらいいな、と儚い希望を抱きながら聞いてみる。

 先輩は艶やかな唇をおもむろに開いた。

「超常現象研究部」

 希望は打ち砕かれた。


 返す言葉を見つけられない私は、もう一度部室を見回す。

 部室の真ん中で、私たちは身を寄せ合うように机を囲んでいた。あまりの物の多さに、机を置いている部分以外はほとんど床が見えないくらいだ。

 部員が私と先輩だけだったというのは本当みたいで、椅子らしい椅子はふたつしかなかった。椅子取りゲームに敗れた幼馴染みは、その辺に転がされていた箱状の謎の物体を持ってきて腰かけている。


「……具体的にはどんなことをしてるんですか?」

 やっと気を取り直してそう質問した。周りを埋め尽くすいかがわしい物体にちらりと視線を流して、先輩は淀みなく答える。

「この世に存在する、科学では説明できない不思議な物事を研究しているの。オーソドックスなところで言えば超能力や心霊現象、ちょっと珍しいのだと悪魔召喚とか」

 薄々分かってはいたけど、聞かないほうが幸せだったかもしれない。

 幼馴染みに目をやると、死んだ魚のような目で首を横に振られた。

 光のない目をしていても、それはそれで物憂げな雰囲気があって可愛い。これだから美少女は。


 それはそうと、この反応からすると、彼女は私がこの部活に入っていたことを知っていたみたいだ。

「……私がこの部活に入ってたこと、なんで今まで言わなかったの?」

 言葉だけを見るとちょっときつい言い方かもしれないけど、私の力のない口調から、幼馴染みを責めるつもりがないことは感じ取れたはずだ。

 何というか、もうそんな元気はなかった。部室に充満する禍々しい空気のせいか、それとも単にこの現実に疲れてるだけなのか分からないけど。

 幼馴染みはふてくされたように目をそらして、渋々という風に答える。

「だって……こんな部活に関わってほしくなかったんだもん」

 もん、とか言うな、可愛い。


 真正面から失礼なせりふに、先輩は特に気分を害した様子はなかった。むしろ面白がっているように唇の両端を吊り上げる。

「ずいぶんな言い草ね。それに、あなたも人のことは言えないんじゃない?」

 先輩の言葉を聞いた幼馴染みの顔が、目に見えてこわばった。効果音で言うと「ぎくっ」という感じだ。

「あなた、取り替えっ子が大好きだったわよね? 確か、夜ごと学校に忍び込んでは取り替えっ子召喚の儀式を」

「あーあー、何も聞こえなーい!」

 先輩の口から不穏な言葉がこぼれたような気がしたけど、幼馴染みが両腕を振り回しながら大声を上げたので、はっきりとは聞き取れなかった。


「……そういえば、取り替えっ子好きなんだっけ」

 何となく呟いたら、幼馴染みの顔がものすごい勢いでこちらを向いたのでめちゃくちゃビビった。

「え、私取り替えっ子好きって言ったことあったっけ!?」

「いや、言ったことはないと思うけど……」

 ストレートに取り替えっ子が好きだと聞いたことはないと思う。でも、幼馴染みの言葉の端々からそんな匂いはしていた。

 私の答えに幼馴染みはぽかんと口を開け、それからがっくりとうなだれた。

「カマかけだったのか……はめられた……孔明の罠……」

 自爆しておいて人聞きの悪いことを言うのはやめてほしい。というかこの世界にも孔明は存在したのか。



 この世界における取り替えっ子の認識のされ方は、私の元いた世界で言う宇宙人に似ているみたいだった。つまり、オカルトの一種のようなものだ。ごく稀とはいえ実在するという点で、厳密にはオカルトとはちょっと違うけど。

「で、その取り替えっ子に憧れを抱いた挙げ句、夜な夜な学校に侵入しては取り替えっ子召喚の魔法陣を描いて、虚空に向かって呼びかけていたと」

「やめて! 傷が抉られすぎて穴が空く!」

 幼馴染みは頭を抱えて悶えている。暴露された彼女の黒歴史があまりに痛ましくて、私まで悶絶しそうだった。

 黒歴史を暴露した張本人である先輩だけが楽しそうに目を細めている。


「わざわざ学校で魔法陣を描いたりするものだから、見つかって通報されたりして色々大変だったわね?」

「だって、私が読んだ本によれば学校が方位的に最適だったんだもん! っていうか、それこそ人のこと言えませんよね、先輩!? 現在進行形で黒歴史を量産してますもんね!?」

「何の話かしら?」

 死なばもろともと言わんばかりの気迫で詰め寄る幼馴染みと、動じる様子もなくゆったりかまえている先輩。

「この部活自体がもはや黒歴史の塊じゃないですか! 何ですか、超常現象研究部って! そんな部活が許されるのは中学までですよ!」

 中学ならいいのか、と突っ込む気力は私には残っていなかった。

 先輩は余裕たっぷりに微笑んで見せる。

「なあに? あなた、そんなにこの部活に入りたかったの? 今からでもいいわよ、入部する?」

「なんでそうなるんですか! だいたい、私が好きなのは取り替えっ子だけです! 先輩みたいに節操なしに興味を持ったりはしません!」


 幼馴染みのその言葉を聞いて、ふと嫌なことに気づいてしまった。

「……入れ替わる前の私もこの部活に入ってたんだよね?」

 むきー! と声に出しそうなくらいいきり立っていた幼馴染みは、私の呟きにぴたりと動きを止めた。

 硬直している彼女に代わって先輩が答える。

「そうよ。前のあなたは、超常現象に対してとても真摯に取り組んでいたわ。風邪を引くのも厭わずに豪雨の中で精霊を呼び出す呪文を唱え続けたり、古文書の記述を元に調合した万能薬を自ら飲んで病院に運ばれたり、前世の記憶を取り戻すための旅に出ようとしたり」

 すっと寄せられた美貌と甘く響く囁き声に動揺して、内容が半分くらいしか頭に入ってこない。それでも、この世界の私が相当あれだったらしいことはよく分かってしまった。


「だーかーらー、いちいち顔が近い!」

 先輩をぐぐっと押しのけた幼馴染みに、一応確認してみる。

「……もしかして、この世界の私についてあんまり喋りたがらなかったのって、私がすごいオカルトオタクだったから?」

「……ふ、ふふーん」

 幼馴染みはわざとらしい笑顔を作って見せたまま、私の質問には答えない。その沈黙が何より雄弁な肯定だった。

 それを前提とするなら、今まで腑に落ちなかったいろんなことがしっくり来る。うら若き女子高生の部屋があんな得体のしれないインテリアに覆い尽くされてることとか。教科書にびっしり書かれた呪文みたいな落書きは、もしかしたら本当に呪文なのかもしれない。

 私はがっくりと机に突っ伏す。何が悲しくて、こんな黒歴史完備の人生の続きを歩まなければならないのか。

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