[ ショウブに翻弄されアヤメに染まった雪白 ]
末っ子で甘えたで自分に甘い少女が、欲しかった。
己と同じ立場に居ながら、他人に興味が無い彼女が、欲しかったのかもしれない。
親戚中で集まるたびに集ってくる従姉妹たちをあしらっては息を付ける場所を探していたあの頃、広間を抜け出して辿り着いた離れで見つけたのは、酷く冷めた目をした小さな女の子だった。
寒空の下、薄い浴衣を一枚纏っただけの格好で池の中に佇む姿は何処か異質で、慌てて室内に引き上げれば、「濡れるよ、」と呆れたような声で云った。
子供のくせに酷く冷めている少女の、"如何でも好いモノ"を相手にしてる態度が気に入った。
彼女の傍でなら、息が付けた。
彼女の人に媚びない姿に独占欲が沸いた。
それは、欲しかった"妹"を、彼女の内に見つけた瞬間だった。
眠 る の に 必 要 な モ ノ な ん て 、 何 も な い で し ょ う ?
びしょ濡れのまま、如何でも好さそうに吐き捨てたその言葉が、
彼女を見つけて慌てたようにタオルで簀巻きにする大人の声が、
そんな大人たちを愚かなモノを見るように見下している視線が、
その視線の意味を正確にとらえて「めぇ!」と叱る従兄の声が、
ぐにゃりと奇妙に溶け合って ずぶずぶと世界を呑みこんでゆく夢を視せた。