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第4話 魔女にはドレスの魔法は効きますか?

 美味しそうな匂いに胃が刺激されて、ロッカは目を覚ました。

 また不法侵入されてる。

 頭を抱えつつも、ひとまず身支度を整えて階下を窺えば、水色のチェック柄エプロンを身にまとったディドイが朝食を並べていた。もっと面白柄のエプロンを置いておけばよかった……。

 扉の側で下らないことを考えていると、ディドイに気づかれた。


「おうロッカ、起きたか」

「おはよ。不法侵入して毎回堂々と朝食作ってるのはどうかと思うよ」

「うっせぇ。今日は忙しいんだから、さっさと飯を食え」


 目を反らし続けてたのに、月日は残酷で、今日は王命で招待されてしまったフランの誕生パーティー当日だった。間違いなく、ディドイはロッカが逃げ出さないように派遣されたのだろう。

 もやもやした物があるが、目覚めを促すほど美味しそうな匂いを漂わせる食事が目の前に並べられているのだ。胃がギュルギュルと空腹を主張している。


 不服、といった表情を顔に張り付けながら渋々と朝食を取り始めたが、甘さ控えめのフレンチトーストと分厚いベーコンの組み合わせが、食を進める。黙々と、付け合わせの色鮮やかなサラダと具沢山スープまであっと言う間に平らげてしまった。

 ディドイは本当に、無駄にスペックが高い。いいお嫁さんにもなれる。一体、どこを目指しているんだろうか……。


 食後のカフェオレをまったりと飲みながら下らないことを考えつつ、ディドイを見やる。いつの間にやら食器の後片づけまで終わらせて、エプロンを外してコーヒーを飲んでいた。


「そういえばさ、この間のピンクのエプロン、どこやったの? あれ、結構お気に入りだったんだけど」

「……知らね」


 眉間に皺を寄せて言い捨てたディドイは、さらさらの銀髪を掻き毟ると立ち上がった。


「んなこといいから、さっさとソレ飲み終われ。城行くぞ、城!」

「お城? なんで?」

「ロッカお前、今日のパーティー、魔女服で出席する気だろ?」


 バカにしたように見下ろして言うディドイに、ロッカは顔をしかめる。


「一般庶民の魔女を国主催のパーティーに呼ぶ方がどうかしてるのよ」

「ま、それはオレも思うけどな。何にせよ、魔女服で参加したらお前がバカにされる。フランが用意してるから、城行くぞ」

「イヤよ! フランに借りを作るなんて」

「借りじゃねぇだろ。フランのワガママに付き合ってやるんだ。むしろこんくらいしない方がおかしい」

「でもイヤ!」

「グチャグチャ言うな! 大人しく着いて来い!!」


 そう言ってディドイはロッカの小さな頭を鷲掴わしづかみにして、勝手に魔法を発動させた。

 強烈な光に周りを取り囲まれ、強い魔力の奔流に飲み込まれる。転移魔法なんて初めてだ。

 ギュッと目をつぶり、身を縮こませているうちに、光が収まっていた。そして頭を鷲掴みにしていた大きな掌にポンポンと軽く叩かれ、恐る恐る目を開くと。


「まぁまぁ! ロッカ殿ですね。ようこそお出でなさいまし」

「いつも遠くから拝見しておりましたが、小さくて愛らしいわ!」

「ささ! 身支度致しましょう!!」


 ニコニコど迫力な笑顔を浮かべたメイドさんたちに取り囲まれていた。そして有無を言わせずに、隣室に繋がると思われる扉へと連行されていく。


「ふにゅあぁ!?」

「がんばれよ」


 一瞬目があったディドイは、欠片も応援している様子が伺えない声を掛け、ひらりと手を振っていた。


 ディドイの薄情者! そしてメイドさん怖い!!


   § § § § §


 それから三刻ほどメイドさんたちにもみくちゃにされた。

 頭のテッペンから足の先っぽまで、マッサージやエステ、各種お手入れフルコースである。

 おかげで外見はピッカピカのトゥルトゥルになった。しかし精神的には疲労マックス。ロッカのライフはゼロだ。


 そしてメイドさんたちから解放され、最初に連れてこられた部屋に戻ると、金色キラキラの諸悪の根元が居た。

 ぎろり、と睨み付けてやるが、欠片も気にしていない。キラキラニコニコ笑って、長い腕を広げる。


「ロッカ! やっぱり僕の見立て通りだ!! 可愛いよ」

「はぁ……。あんたに無言の抵抗は効くわけないか。てかさ、やめて欲しいんだけど。こんな恐ろしいの……」


 綺麗に化粧が施された顔を青ざめさせたロッカは、自身の身にまとわされたドレスを見下ろす。

 白と薄紫色を基調としたシンプルなデザインのドレスだ。しかし上等な生地がふんだんに使われ、繊細なレースや薄青色の糸で随所に施された細かな刺繍で飾られた一品であり、明らかにとんでもない値段がするものだろう。

 しかも、複雑に結い上げられた紅茶色の髪の毛には、細かな銀の髪飾りがいくつも飾られている。


 身分に合わなすぎる装いで、卒倒しそうだ。


「だめ。僕のワガママだからね」


 にっこり笑っているが、青空色の瞳は有無を言わせない迫力を持っている。滅多に見ない、王族らしい威厳だ。嫌になる。


 思いっ切りため息を吐いて諦めを表明すると、途端に瞳までキラキラ輝かせた笑顔になった。白を基調とした礼服のせいで、異常なまでのキラキラ王子様オーラが漂ってくる。


「そうそう、パーティー始まる前にこれを渡そうと思って来たんだ。しばらくは挨拶回りとかあって、時間が取れないからさ」


 そう言いながらロッカの後ろに回り、控えめに開けられたドレスの胸元を補うように、首飾りを付ける。


 細い銀の鎖に、繊細なレースのような透かし彫りが施された銀の六枚花のような飾りが付いている。それぞれの花弁の先端にはフランの瞳の様な青い石があしらわれてアクセントになっているが、全体的にシンプルで控えめな首飾りだった。


「これは、雪の結晶を模したものだよ」

「雪って、うちの国じゃ百年に一度くらいしか降らないっていう?」

「そう。あとね、遠い東の島国では、雪のことを六花ろっかと言うんだって」


 にっこりと笑ったフランは、ロッカの胸元に光る銀色の結晶を持ち上げる。


「まさに、僕にとってのロッカと同じ、奇跡の花だよ」


 そう囁いて少し屈み、上目遣いでロッカの瞳を見つめながら結晶に口付けをする。


「なっ!?」


 顔を真っ赤に染め上げたロッカは口をパクパクと開くが、何も言葉にすることはできなかった。そんな様子をしばらく見つめていたフランは、熱の籠もった瞳を僅かに細め、ロッカから離れる。


「じゃあ、もう時間がないから行くね。あとは頼んだよ、ディドイ」


 颯爽と白の礼服を翻して去っていくフランを、リンゴのように真っ赤になっているロッカと、にやにやした笑いを浮かべたディドイが静かに見送るのだった。

六花の読みは「りっか」の方がポピュラーかもしれませんが、「ろっか」とも読むのでそちらを採用してます。

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