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第2話 魔女は靴を置いて行きません!

 なぜだかいつもより眩しい朝日を受け、ロッカは目を覚ました。

 まだまだ重たい瞼を持ち上げれば、キラキラ輝く黄色に青空の青。


 はて、あたしのベッドから空なんて見えたかしら……。


 寝起きで回らない頭でそんなことを考えながらぼぉっとその青を見つめていた。


「そんなに見つめられると、いくら理性の強い僕でも襲っちゃうよ?」

「……?」


 青空が喋った? いや、なんで、一人暮らしのこの家で、他人の声が聞こえるの……!?


 だんだんと回りだした頭が疑問と共に警戒心を持ちだし、やっと視覚情報の処理を始めた。

 その結果、目の前にあるのは青空ではなく、青空色の瞳。そしてやたらと朝日を受けてキラキラしているのは、ひまわり色の髪の毛だということを理解した。


「うにゃっ!!!?」

「やぁ、おはよう、ロッカ! 朝から可愛いね!!」

「え、な、なんで、フランっ!? え?」


 ニコニコ、キラキラしたフランが寝癖で爆発しているロッカの紅茶色の髪の毛を撫でる。そして未だ混乱しているロッカの耳元で甘く囁いた。


「ロッカの髪の毛、ふわふわで美味しそうだね。食べちゃいたい」

「~~~!! この、へんたいぃぃ!!」


 羞恥と怒りで爆発したロッカは、反射的に魔力の塊(強)を放出していた。

 そして扉や壁の一部を巻き込み、フランは部屋から飛んで行った。


 吹っ飛んだ方向が外ではなく家の中だったのは、不幸中の幸い、というか悪運が強いというか……。非常に残念な結果だった、とロッカは後々深く後悔した。


   § § § § §


 時間を掛けて爆発している髪の毛を宥めすかし、お手製の化粧水でじっくり肌のお手入れ。今日は仕事で外出する予定はないので、胸元を飾る生成りのレースがお気に入りの、オレンジ色のワンピースを身にまとう。

 そして吹っ飛んだフランが破壊してくれた扉の残骸を乗り越え、自室から階下の居間へと向かう。


 扉の残骸の下には居なかったから、多分ここだろう、とは予想していた。 しかし、お気に入りのソファーで悠々と寛がれていては、思わず脱力してしまう。


 なんで、さも家の主のように振る舞えるのかしら……?


 それでも、聞かなくてはいけないことは色々あるのだ。

 気を取り直したロッカはフランの前に立つと、チョコレート色の瞳を険しくさせて、問い詰める。


「ねぇ、なんであたしの家知ってるの!?」

「だって僕は王子だからね!」

「職権乱用!! 胸を張るな! あと不法侵入!」

「ええ、そんなことはないよ。ちゃんとお邪魔します、って言ったし」

「そこじゃないでしょ! 大体、この家には目くらましと侵入妨害のまじないを掛けてるのよ?」

「朝からキャンキャン、相変わらずロッカはうるせぇな」


 いまいち噛み合わない問答を繰り返していると、不機嫌そうな低い声と、美味しそうな香りに遮られる。


「ほら、折角作った朝食が冷める。とりあえず食え」


 その言葉と共に、カゴに山盛りに盛ったパン、オムレツときれいな焼き色のついたベーコン、サラダが乗ったプレート。さらにはコーヒーを注いだカップが次々とテーブルに乗せられる。


 そしてフランの前に仁王立ちしたままのロッカの頭にポフン、と大きな掌が乗り、微妙な圧力を掛けてくる。

 少し抵抗してみるが、グググ、とより圧力が掛けられた。元々大きくないロッカの身長がより縮められそうだ。

 仕方なしに、その掌の誘導に従ってフランの向い側のソファーに腰掛ける。その後ロッカの隣に腰を下ろすのは、先ほど掛けられた声から予想した通りの、幼馴染みの魔法使いだった。


 銀髪蒼目の涼しげなイケメンだ。

 魔法使いの証のローブの上に、ロッカのフリルが沢山付いたピンク色エプロンを付けているのに、なんとなく様になっているのが気持ち悪い。


 とりあえず、目の前に並べられた熱々のご飯を突きながら、隣の青年に抗議する。


「ディドイ! フランを連れて来たのも、まじない解いたのもあんたね!!」

まじない、もう少し精度上げた方がいいんじゃね? 直ぐ解けたぞ?」

「あんたレベルの魔法使いなんて、そうそう居ないんだから、あんた基準で話さないでよ!」


 不法侵入の手伝いをして、ピンクのフリフリエプロンを着けて朝食なんか作っているけれど、これでも近い将来国一番の魔法使いになるだろうと言われている男なのだ。ロッカとてそこそこ腕の良い魔女だが、ディドイには敵わない。

 頬を膨らませ、ディドイをペチペチ叩いていると、フランからじとり、と視線が送られてくる。


「お前たちは仲良いんだな」

「「仲良くない!」」

「仲良しじゃないか。減給するぞ、ディドイ」

「ふざけんな! アホ王子」

「お前さ、僕の扱い酷くない?」


 食ってかかるディドイに、フランは呆れたように首を傾げた。しかしそうは言っているが、特に怒った風でもなく、むしろ楽しそうに問いかける。


「王子だからって、特別扱いやめろってフランが命じたんだろうが」

「うん、そうだけどさ、僕一応第3王子だよ? あんまりヒドいとクビにするよ?」

「そうだな。お前が第3王子のおかげで、ただの護衛対象であって雇い主ではないな。オレは王宮に仕えてるわけだし」

「はうっ! 正論が辛い……」


 尊大な態度で胸を張るディドイに、フランはわざとらしくソファーへ突っ伏す。

 よく見る光景ながら、なかなか愉快で鬱陶うっとうしい主従漫才だ。


「コントしてるとこ悪いけど、なんであたしの家に侵入して来てんの? わざわざディドイまで使って」

「ああ、そうだ! なんでキミは靴とか置いてかないんだ! おかげでディドイに頼らなきゃいけなくなっちゃったし」

「あ~、そういうの、お姫様の専売特許だから。魔女のあたしに求められても困るのよね」

「いや、そういう問題じゃねぇだろ。いい加減ボケてないで本題進めようぜ、ご飯も食い終わったし。一応フランも午前から仕事あるだろ?」


 折角ロッカが本題へと話題を持っていったのにまたズレ出した話題に、ディドイが呆れたようにツッコミを入れる。

 散々フランに対してひどい扱いをするが、なんだかんだとおりをする身。しっかりと軌道修正を行うのだった。だからこそ、よりフランが適当になるのだ、という忠告はしてあげない。


「ええ!? せっかくロッカの家に入れたのに……」

「仕事、あるだろ?」


 にっこり、と秀麗な顔に迫力のある笑みを浮かべると、フランは折れた。


「ううう、仕方ない……。ロッカ、これを受け取ってくれ」


 そう言ってフランが差し出すのは、フランを示す紋章の透かしが浮かぶ、立派な封筒。中には何かしらの手紙が入っているようだ。

 どう考えても、いい予感がしない。


「い や よ」


 にっこり、語尾にハートマークを付ける勢いで言い切り、ロッカは差し出された封筒を受け取ることなく燃やし尽くした。


「あああああ!」

「ぶっは! 思い切りいいなぁ! ロッカ」


 あっけなく灰になった封筒のなれの果てを見て絶叫するフランと、腹を抱えて爆笑するディドイ。そしてその二人を冷たい笑みで見下ろすロッカ。

 長閑な朝日が照らす、なかなかカオスな光景だ。


 ひとしきり笑ったディドイは目元を拭うと、床に落ちた灰の前でくずおれるフランの背中を叩く。


「ま、次の手を考えるこったな」

「次の手、とかいらないわ」

「まぁまぁ、そう冷たいこと言ってやんな」


 どことなく温かい眼差しをフランに向けたディドイは、ロッカににやりと笑いかける。


「こいつの諦めの悪さは知ってるだろ?」

「……」

「ま、今日はコレ回収して帰るわ。がんばれよ」


 そう言ってディドイはフランの襟を掴み、ヒラリと手を振ると魔法を発動させた。

 一瞬の眩い光と、圧倒的な魔力の奔流。それらが収まった時には、既にディドイとフランの姿は消えていた。


「わざわざ転移魔法使うとか……」


 確かにロッカの家は王都の外れにあり、歩けば一刻以上は時間がかかる。 魔法のほうきを使用しても、四半刻くらいはかかる。

 しかし、だからといって超上級魔法を軽々と使用するディドイには、殺意を覚える。


「あーあ、なんか嫌な感じがする」


 足元の灰を見つめ、ロッカはため息を吐いた。

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