シーン練習『学校の昼休みに屋上でご飯を食べる』
「いやっほーい! ご飯だ、ご飯だあ!」
屋上へと繋がる扉を開け放って、青空の下、美里は大きく伸びをした。
「ちょっと。もう少し、声抑えてよ、美里」
「待ちに待ったお昼ご飯だよ! この綺麗な空をごらんよ! 透きとおった青の中に浮かぶ、白い雲! 夏だねぇ」
「はいはい、いつも聞いてるからね。そろそろ聞き飽きたからね」
「今日はね、昨日の残りの、エビフライが入ってるってママが言ってたの! ひゃっほーい!」
呆れ顔の理子を置いて、広い屋上で美里は器用にくるくると回る。それにあわせて手に持っている弁当もぶんぶんと回されているが、おそらく本人は気付いていないだろう。
そのままスキップをしたり、飛び跳ねたり、フェンス越しにグランドに向かって「ご飯だあ」と叫んだり。
理子はふぅっとため息をこぼしてから、さっさとレジャーシートの上でお弁当をあけた。
「あ、理子、ずるい!」
「ずるいとかじゃないでしょう。はしゃいでないで、早く食べるよ。課題、終わってないんでしょ?」
「はっ! そうだった!」
片足を持ち上げてぴょンぴょンと跳ねていた美里は、慌てて理子の正面に座る。大きな瞳をきらきらと輝かせながら、大切なものを扱うようにゆっくりと弁当を広げた。
「いっただきまあー……あぁ…あー!」
「ん? どしたの、美里……って、あらら」
理子が少し身を乗り出して、美里の弁当を覗き込む。
弁当の下段に敷き詰められていたご飯は右端にぎゅっと寄せられ、綺麗に彩られていたであろう上段のおかずも、ぐちゃぐちゃに荒れていた。
美里の大好きなエビフライは、タルタルソースから離れ、ポテトサラダにくっついている。なんとも悲しい姿だ。
「弁当持ったまま、遊びまわるからじゃない。自業自得ね」
「……い、いいもん。食べれるもん」
美里は、今にもこぼれそうな雫を目にいっぱいためて、箸を握る。
そんな美里に苦笑をもらした理子は、自分の弁当箱の中にあったエビの天ぷらを箸にとると、美里の前に差し出した。
「はい、あーん」
「みょ!? い、いいの?」
仕方なくだからね、と理子。
美里は涙のあふれる瞳で、理子と天ぷらを見てから、満面の笑顔でそれを口にいれた。
「うひょっひょー! おいひー!」
「口に物が入ってるときは話さない」
「あーい」
美里はほっぺを手の平で挟み、もぐもぐと咀嚼。先ほどの涙はどこへやら。
理子は小さく息をつき、それでも嬉しそうな美里の笑顔につられて、ふっと笑った。