悔しいからアイドルになって地球を救ってやる!!(番外編的な何か)
最初にあったプロットを少しいじりました。読んでいただいた人へのプレゼントです。辛口NGです(笑)
その光は、最初は淡く、ただの星の一つとして。
しかし、空を見上げていた人々は、次第に、あまりにも強い光を放つその星に目を奪われていった。
皆既月食。
台風一過。澄み渡った秋の夜長。
子供達は、学校で教わり、早めの夕食を済ませて、高台に集まる。
大人達は、ニュースやSNSでふとその情報を知り、駅から降りたタクシー乗り場で、空を見上げる人々に釣られて、液晶画面から、東の空を見上げた。
次第に光を失っていく月の光。それに反するように、いや、月が光を失ったからこそ、その星は明るく輝き始めたように見えた。
*
太陽系外から、恐ろしいスピードで地球へ進むその物体が捕らえられたのは、今から一週間前。
発見したのは、新しい彗星を探して、毎晩望遠鏡を覗き込んでいたアメリカの少年。
新彗星発見の報道に沸く天文ファン達。科学雑誌で取り上げられ、一躍時の人になった少年は、彗星に彼の名前を贈られた。
異変に気付いたのは、NASAを始めとした各国の観測機関。その物体の軌道は、明らかに彗星の軌道から外れ、ただ一直線に地球に向かっていた。
*
「本日、会議が開催された理由は言うまでもありません」
首相官邸。その地下に設置された会議室には日本の内閣が急遽召集されていた。
会議室の全面には、巨大なプロジェクター画像が複数、映写されていた。
その中の一人、黒人の男性が口を開く。
「すでに、各国の観測機関により確認されているとはおもいますが、コニー彗星は、地球と火星軌道の中間点において停止、沈黙状態にあります」
「彗星が停止したというのか、バカバカしい」
別画面の東洋人が流暢な英語で叫び、笑い声を上げた。
「情報統制はもう限界ですな。気の早い国では迎撃体制を用意しているとの話もありますが」
銀髪の老人が、冷めた視線を画面に送る。
「正確な観測結果について伺いたいが」
日本の首相が、マイクに向かって慣れない英語で語りかける。
「直径数マイル、形状は中央が膨れた、円盤型。前後と思われる部分に突起物があるらしい」
黒人の男性の画面に、望遠レンズで撮影された、コニー彗星の画像が映しだされた。
画像をみた誰もが、その形状に驚きの声を上げる。
「まさに、こりゃエイじゃな」
会議室で、最年長の男性が思わず声を上げた。
「問題は、この物体が、全くの音信不通であり、こちらからの呼びかけにも全く応じないということです」
プロジェクターの画像が、再び、黒人男性の顔を映し出す。
「聞き捨てなりませんな。勝手にコンタクトを試みられたのですかな」
禿げ上がった頭に汗を浮かした男性が、冷めた視線をプロジェクターに映し出させる。
「しかたあるまい。ことは一分一秒を争う。なんせ、コレは、エッジワース・カイパーベルトから、ここまで僅か五日でやってきた」
「しかし、一国で対応を試みられたのはやはり早計ですな」
「そもそも、貴国は西アジアにおいても……」
緊急国際衛星会議でいつも繰り広げられるゲーム。 本心を隠した外交ゲームに顔を上気させる首脳達。
「で、日本はどういう立場を取られるつもりか」
突然振られた質問に、日本の首相は、玉の様な汗をハンカチで拭う。
「わ、我々、日本としましては、各国が話し合いでもちまして、い、委員会のような物を立ち上げ……」
首相がしどろもどろな英語を呟く中、会議室に、背広姿の官僚が静かに入り、我関せずと居眠りをしていた文部科学大臣の側に走り寄る。
背中をつつかれ目を開いた大臣は、男性からメモを受けとると、眼を眠たそうに擦りながら、その走り書きされた文字を読む。
「…… でありまして、とりあえず国連を窓口として」
バタン。
会議室十に響き渡り大きな音に、皆が、文部科学大臣に注目する。
椅子を倒し、立ち上がった大臣は、震える手でメモを持ち、呟く。
「す、彗星からメッセージが届きました」
静まり返る会議室内とプロジェクター。
「どこに?」
やっと口を開いた黒人男性が聞く。
「武道館」
「武道館?」
「Budokan?」
皆が一斉に聞き返す。
「なんで?」
日頃、標準語を崩さない女性大臣が、思わず身を乗り出して尋ねる。
「ホールを一週間借りるのにいくらかかりますか、って」
*
人類と異星人のファーストコンタクトから、数百年後。
統一政府緊急会議室内。政府高官達は、ダイブチューブに繋がれ、サイバー空間に設けられた、擬似会議に召集されていた。
各地域の地方官達が、未確認非行物体の接近に、顔を青ざめ、席につく。
「さて、本日の議題ですが」
黒人男性が席を立ち、世界標準となった言語で話し始める。
黒人男性の目の前に、リアルホログラムのディスプレイが浮かび上がり、その円盤型の物体が表示された。
神妙な顔つきをした政府高官達は、お互いの顔を見合わせると、おもむろにポケットに手を入れて立ち上がる。
ポケットから、一斉に取り出された彼等、彼女等の手には、小さなチケット型のホログラムが乗っていた。
「やっぱり、早紀ちゃんですよ。あのツンなところが」
「いやいや、通は、綾香ちゃん。あの大阪弁、も〜たまらんわ」
「天然優奈に一票!」
「裕子ちゃんに知的になじられたい」
各々が興奮気味に騒ぐ中、黒人男性が、怖ず怖ずとチケットを取り出す。
「私は、やっぱり杏子ちゃ」
「ちょっと待った! そのチケット」
側にいた女性高官が、黒人男性のチケットを覗き込む。
「プレミアムAチケット!幻の握手権利付きじゃない!」
「聞き捨てなりませんな。勝手にコンタクトを試みられたのですかな」
「しかたあるまい。ことは一分一秒を争う。なんせ、コレは、エッジワース・カイパーベルト付近から、ここまで僅か五日でやってきた。無茶もしますよ」
「しかし、一地方官で対応を試みられたのはやはり早計ですな。せこい!」
「私なんてこれを買うために徹夜したのに」
顔を青ざめた女性高官が悔しそうにヒールを踏み鳴らす。
「まあ、まあ、わ、我々、統一政府としましては、各地方が話し合いでもちまして、フ、ファンクラブのような物を立ち上げて……」
興奮した会議室に、男性の声が虚しく消えていった。
『コス☆モス銀河辺境興行公演』――それは、ウラシマ効果により、永遠に続く夢のお祭。
― おしまい ―