誕生、そして
≪ぅっぎゃぁ~~ふえぇ~ん≫
幼子のその声を聞き、部屋にいた8人は一斉にその声の持ち主えを振り返る。
そして、その子を見て驚愕した。なぜならその幼子の髪の色が漆黒の髪だったからだ。
アスティーヌ国で黒髪の持ち主がいるとしたら、魔王とその妃の魔妃のみ、それはこの世界の理にも等しかった。
「・・・ねえ、この子はどうみても黒髪よね?」
「そうだな・・・どうみても黒髪だ・・・」
先に声を発したのはリティシアとリューゼナイトだった。
「・・・竜王様、竜妃様。取りあえずは、姫君に服を着せて、命名するのが先決だと思われますが」
一拍置いてロイスがそう言うと、ニーナが急いで部屋にあるクローゼットから淡いピンクと白の布地の服を取り出し、孵化したばかりの姫君に慎重に着させた。
竜族は卵のときは頑丈な殻に護られているので屋根の上から落としても大丈夫だが、孵化したばかりの幼子は弱く傷つきやすい体で力も不安定で独りでは使えないので、親竜を始め竜族全体で護られて育つ。ちなみに、竜族は基本的に長命なため子供が出来にくく生まれたとしても、一人か二人で現竜王夫妻に5人もの子供がいるのは極めて珍しい事である。
「父上、母上、妹の名前は決まっているのですか?」
そうリュークバルトが訊くとリューゼナイトとリティシアは顔を見合わせてこう言った。
「あぁ、この子が姫だと判ったときにリティと相談して決めていた名前がある」
「えぇ、この子にはあの名前がいいと思うわ」
そして、孵化したばかりの未だ少しぐずっている姫をリューゼナイトが抱き上げ二人は言う。
「「ユーフィミア・リア・リュゼル、我らの姫よ。ここに命名する」」
「ユーフィミア、そなたが常に幸せであることを」
「ユーフィミア、あなたが悲しみにくれないことを」
「「我らはここに願う」」
その瞬間、ユーフィミアと名付けられた姫君の周りはたくさんの精霊の祝福を受け光り輝いていた。
その光りがやむと、ユーフィミアは落ち着き幸せそうに眠っていてリューゼナイトはユーフィミアを起こさないように慎重にクッションの上に寝かせ布団を掛けてあげた。そして、ユーフィミアの兄弟たちが一斉に駆け寄った。
「ユーフィミア、これから宜しく。君が傷付くことがない様に、兄であるわたし達が君を護るよ。」
リュークバルトがそう言うと、他の兄弟達もユーフィミアに声をかけた。
「ユーフィミア、これから宜しく。兄上が言ったように俺達が必ず護るから、ずっと笑顔でいてくれ」
「「ユーフィミア。ぼく達の大切な妹、だから必ず護るよ。たとえ何があっても」」
そう子供達が決心して、ユーフィミアに声をかける中大人たちは微笑ましそうにしながらこれからの事を話し合っていた。
「それにしても、これからどうしましょう?」
「そうだな、ユーフィミアが黒髪で産まれた以上、中央には話しにいかねばならんだろうが」
竜妃と竜王が少し難しい表情を浮かべて話していると、ロイスから声が掛かった。
「竜王様に竜妃様。発言することを許可ください」
「ロイス?かまわない、何だ?」
「姫君はまだ孵化したばかりです。中央に知らせれば姫君は直ぐにあちらに連れて行かれるでしょう。それに、竜族は本来200歳ぐらいまでは同族の者の傍でしか育てられないですし、各竜種の族長を集めそれから相談してみて決めてはどうでしょうか」
「そうだな、そうするとしようか」
「そうですわね、私もそれでかまいませんわ。そうしますと、城の者にはユーフィミアの容姿を公言せぬ様に伝えねばいけませんね」
そう、3人が話し合いをするとその為にそれぞれがすべきことをするために行動を起こした。
「ニーナ。私の部屋から私専用の手紙を持ってきて頂戴。勿論、ペンも一緒に持ってくるのですよ」
「はい!竜妃様!直ぐにお持ちしますね!」
リティシアは各族長に召集の手紙を書くために、そしてリューゼナイトは城仕えの者皆を大広間に集めユーフィミアの容姿を公言せぬように伝えた。
「皆のもの、よく集まってくれた。感謝する。皆も知っての通り卵がついに孵化した、だが姫の容姿に関してはこの城の者以外には知らせないでほしい。ただし、姫の容姿、髪の色にさえ触れなければ姫のことを話すことはかまわぬ。よいな」
「「「「「「「「「はい!竜王様のご命令とあらば、何があってもそれに従います!!」」」」」」」」」
「すまぬ。そして皆ありがとう」
ロイスは竜都の者に姫君の誕生を伝えに行った。容姿のことには触れずに。