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赤い枷の少女  作者: 高浦
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違和感のあった“今日”

「皆ー、集合ー」




終業式が終わり、皆が帰ろうとしたその時。

クラスの中心人物、甲斐純也(カイジュンヤ)の声が教室へ響いた。


「んだよー純也ー」何て少しだけ気怠げな声を上げる男子に、「良いから早く」と、至極真面目に返す甲斐。


クラスメイトが皆集まったのを確認する様に、甲斐は教室を見回した。

暫しの沈黙が流れる。




「…んでー?何なんだよ純也ぁー」




宮前李兎(ミヤマエリト)が、男性にしては少し高めの声でその沈黙を破る。

すると甲斐が、少しだけ笑みを浮かべて口を開いた。




「あのな…


明日、肝試ししよーぜ!」



「きっ…きっきき肝試し!?

何言うとんねん!」



「瑠威…ビビり過ぎだから…」



「いいじゃねーか、賛成だぜ」



「えっ、ふうちゃんマジ!?」




甲斐の提案に、皆が一気に騒ぎ立てる。




「あ、あぁー…あのっ!」




騒々しい中、青山梓織(アオヤマシオリ)が一際大きな声を出し、ざわめきを断ち切った。


クラス中の視線が青山に注がれる。

すると青山は、少しだけ頬を赤くしてたじろぐも、一つ咳払いをして改まる。




「その…何処へ行くのですか…?」



「ふっふっふ…

呪縛の館、って知ってるか?」



「呪縛の館!?呪縛の館に行くんですか!?」




呪縛の館、という名前を出した途端、青山が間髪入れずに聞き返す。

心なしか目の輝いている青山と、青山の反応に気分を良くしたらしい甲斐。


他のクラスメイトはおいてけぼりなのも気に止めず、更にヒートアップする青山。




「じゅ、呪縛の館と言えば…!

膨大な面積の森に囲まれ、その館を見に行った勇気ある者は数える程しか居ないと言われていて!

アンティークな館の中には“何者か”が住んでいると言われている…あの…あのぉ!


…はっ!…あーでもー…呪縛の館は、非常に危険性が高いと言われておりまして、殆ど捜査されていない…いや、出来ていないらしいですよ」




叫んだ事によって正気に戻ったらしい青山が、普段通りのトーンで告げた。

それを聞くと甲斐は、ニヤリとした怪しい笑いを浮かべた。




「だからこそ行くんだよ

俺達で呪縛の館の謎を解明!みたいなよ!」




盛り上がる甲斐と、「興味はある…けれど…」と悩む青山。

それに対し、他のクラスメイトは賛否両論。

「俺はパス。塾あるし」「あたしもー」という具合に何人かが拒否し、早々に帰って行った。


結果的に、23名のクラスメイトが残り、そのメンバーで行く事になった。

女子の体力を考慮し、交通手段は電車。

青山に時間を調べてもらうと、4時38分にその近くまで向かう電車が来るとの事だった。

それを聞いた甲斐の、「じゃあ4時30分までには集合な」という声に返事をして、今日のところは解散となった。






†          †          †






呪縛の館がどんなものか気になるから調べてみたいし、明日に備えて家でゆっくりしたい。

そう思い真っ先に教室を出て、階段を下り、さっさと校門の前まで来ていた。


皆どうして帰るのがあんなに遅いのだろうか、とか。皆まだ下りてこないな、とか。

そんな事をぼんやり考えながら、体力を消耗しない程度の速度で歩いた。


数歩歩くと、誰かが走る音が迫って来た。

その足音のリズムは、私の背に近付いてくると減速していく。止まったと思う頃には、走って来たであろう人物に手首を掴まれていた。




「凛夜」




私が振り向くと、其処には、いつもあどけない笑みを向けてくる人が居た。




「ヒロ…今日は少し早かったね」




鈴浦千尋(スズウラチヒロ)。愛称ヒロ。


男性ながら、普段は「可愛い」という言葉がピッタリな雰囲気で、分け隔てなく見せる優しい笑みに落とされる女子も少なくない。

だが裏の顔は、常に冷静沈着で、時に手段を選ばない残虐さを見せる。

その上洞察力に長けていて、心理学にも詳しいという質の悪い奴である。


残虐と言えば、丁度2年程前屋上で―いや、やめておこう。




「凛夜が早かったからね、急いだよ」




そう言って、また笑うヒロ。

いつもの表の顔。“いい人”のヒロだ。



いつの間にか手が離されて居たので、私は再び歩き出し、ヒロと共に帰路を歩く。

ローペースで歩く私に、ヒロも歩幅を合わせてくれた。


いつものやり取り。何の変哲もない日常。

一見いつも通りだ。




「…ねぇ、どう思う」



「ん?例の場所?」



「そう」




細かく説明しなくても伝わる所は流石だ、と思う。

それもいつも通りだ。

ここまでは、日常の範囲内。


―妙な胸騒ぎがする。




「っはは、そうだねぇ…

普通の肝試しでは、終わらないんじゃないかな」




ヒロの目が、少しだけ細められた。


普段、なかなか見る事のない真面目な表情。

極一部の人にしか見せない、鋭い目。




「やっぱり?」




その様子を見て、今度は私が笑った。


何故だろう。私は、この人の真面目な表情を見ると笑ってしまう。

すると、ヒロはいつも怪訝そうに私を見てくる。

今日もその通りなら、きっと明日も“いつも通り”で終わるのだろう。

そう思った。


だが―

ヒロの目は、心底楽しそうで、口元は弧を描いていた。




「うん

…楽しみだね、凛夜」





“今日”の時点で、既にあの場所へ引き込まれ始めていたんだ。


彼も、私も。

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