009 コイツとやり合えるかどうかを
「良いこと?」
首を傾げながらに可愛らしく言うお姉様に私は頷いて返す。
「一緒に開けて、どっちが良いか話し合いましょう?」
「一緒に?」
「良い事も悪い事も、二人いっしょなら怖くありませんわ」
まさか大きい方の中身は『妖怪詰め合わせ』なんてことはないだろうし(というか無いと思いたいけれども)、多分お父様の考える私向けのプレゼントが入っているのだと思う。
私用のプレゼントにお姉様が魅かれるなんてことは四歳も離れてれば無いと思うし、そうなれば必然的に私が大きい方でお姉様が小さい方という構図が出来上がる事だろう。
精神年齢二十歳を超えてしまった私に四歳用のプレゼントが嬉しいかは兎も角として、無い頭なりに結構考えた結論であろうことは読み取って欲しい。
「えぇ……えぇ! とっても良い案だわ! クシェル、そうしましょ?」
お姉様は絶賛の声を上げながらに私を抱き上げてクルクルと回る。
あぁ! 危ない。私がバランスを取らないとお姉様が転んでしまう! なんて私の気苦労に誰も気付かず、お父様なんて展開にホッとしたような顔をしているだけだ。
子供の仲睦まじい姿を見てニコニコとしているお母様はそんなお父様が自分と同じことを思って笑っているんだろうなんて考えてるんだろうなぁ。
「それじゃあまずは大きい方から開けよ? 良い事で悪い事を上書きするの」
「はん」
お姉様の提案に、私は頷く。
何が飛び出すか最も分からないパンドラの箱たる方から手を付けるのに依存は無い。
「じゃあいくわよ? いっせーの!」
私とお姉さまは自分達の身長よりもはるかに高いプレゼントボックスより、垂れ下がった私達が開けれる様にする為であろうリボンを引っ張り、包装を解く。
プレゼントボックスは漫画のように開き、その中から顔を出したのは、ぬいぐるみだった。
「うわぁ~!」
「…………ぉぉぅ」
お姉様の声が一オクターブ上がったのに対し、私は若干引いてしまったせいで思わず小さな声で呻いてしまう。
それは大きな、とても大きなぬいぐるみだった。
ウサギと猫を足して二で割ったような外見で、白くふわふわな毛に点の目、キュートな耳がチャームポイントな動物のぬいぐるみ。
良い肌触りだろう事は触らずとも分かる。分かるけどさ……。
でかいよ。プレゼントボックスの中パンッパンに入ってたんだね。
正直言って見下されているような気がするし、何だろう、この威圧感は。
ひょっとして私は試されているのか。
コイツとやり合えるかどうかを。
まあ、そんな本心は一秒も立たない内に呑み込んで、舌切り雀の話なんてあっと言う間に頭から抜けたらしいお姉様と一緒にぬいぐるみへ近づきそのモフモフの体に触れる。
モフッ、モフッ。
めっちゃやわい。ナニコレ。
お姉様の目がキラッキラ輝いているのが見なくても分かる。
このぬいぐるみが可愛らしいのかはさて置いて、これは絶対市販じゃないよね、こんな良い生地使ってこんな大きなぬいぐるみ作ろうと思ったら十万越えは確実……っていうか、ブランドとかついてたら百万いっちゃうんじゃない?
……しかし、
お姉様と私が抱き着いても腹回りを覆うことが出来ないぬいぐるみって……。
おっといけない、思考の波に溺れるなまだ小さい方が残ってるんだ。
「あはは! モフモフよ、クシェル、モフモフ!」
「モフモフですわ、お姉様」
……まあ、お姉様も楽しんでいるようだし、もう少し経ってからでいいかな。
お父様はお姉様のテンションの上がりように若干の焦りを見せているようだった。
小さい方に何が入っているのかは知らないけれども、大きい方でここまで喜ばれているものね……。
お姉様の興味、小さい方に向くかな?
私はお姉様がある程度モフモフを堪能するまで一緒にはしゃぐ振りをしながらモフってから提案する。
「つぎは、小さいほうですわね」
「そ、そうね! 次は小さい方ね!」
お姉様から遊び足りないオーラが止まらないけど、お父様がそろそろ仕事へ出なきゃいけなくなっちゃうから。
お姉様の精神的背中を押して、小さい方へ関心を向けさせる。
関心を向けさせるとは言っても、未だお姉様の心はぬいぐるみの方へ向いている訳で、これからどんなものが出てきても……傾かないと思うなぁ。
大きい方から開けたのは失敗だった。お父様の思うようには所有者が決まらなそう。
「じゃあ開けるよ?」
「「いっせーの!」」
私も声を合わせてみた。
小さい方のプレゼントボックスは、リボンを解いて上から開ける方式になっていて、私とお姉様はその蓋を二人で一緒に開けて中を覗きこんだ。
「……えっと」
「…………」
中に入っていたのは、三十インチはあろう大きな液晶ディスプレイと、箱の中の大半を埋め尽くす程に今となってはタワー型かスパコン位しか見ないであろう大きなサーバー。
付属にキーボードとマウスが付属されたそれはどこからどう見てもパソコンだった。
お姉様は反応に困り、私は黙した。
「? ……??」
それを見たお姉様の疑問符を浮かべながらの微妙な顔ったら無かった。
当たり前のことながら学校で(あるかどうかは分からないけど)パソコンの授業も始まってない訳で、お姉様のパソコンとの接点はゼロに近い。
というか、テレビか何かで見た事無かったらゼロじゃないかな? 我が家は時代錯誤な洋館という表現が正しかろう外装をしている為に内装もそれに合わせ、機械的な物はそれ専用の部屋にしかない。
そしてお姉様が手を出す電子機器と言ったらテレビ位。
他に有るとすれば最近そのテレビに影響されて携帯に興味を持っている位だろうか。
そんなお姉様がパソコンを見た反応は……。
「小さいテレビかしら……?」
だった。
うん、そうだよね、他に結論出しえないもんね。
でもお姉様、微妙に持ち歩くのには適さないからね、ミクロ化しても意味ないからね。
────うん。まあ、状況説明完了ってことで。
次は私が反応して良いよね。
「パソコン……! パソコン、パソコンですわ!」
「く、クシェル?」
「あはは、最ッ高にハイってやつですわ! これで奴に勝てますわ!」
「や、奴? 奴ってだれ……きゃっ」
私はお姉様に抱き着き、バランスを崩しかけたお姉様は小さな悲鳴をあげる。
お父様は言わずもかなだけれど、お母様も一緒に唖然。
お姉様だけは直ぐに抱き着いた私を抱き返して一緒に笑う。
お姉様の興味がぬいぐるみに向いてしまった今、お父様の作戦は潰えた。
そうなれば私が求めればパソコンを手にする事が出来る、パソコン入手という願望はそれこそ私が雨ノ森クシェルだと知ってから今日この時までずっと。
武道の次の次の次位の優先順位ではあったけれどそれでも、無い頭を使う程度にはずっと考えていた。
どれだけ早い内に手に入れられるか、それが問題だったといっても過言では無い。
けれどまさか、こんなに早く手に入れれるなんて夢にも思わなかった。
お父様の、八歳にパソコンという明らかに背伸びさせ過ぎな思考のお蔭で私はこの『ハピアン』の世界をゲームとして進むことが出来る。
「あはは、あははは!」
「わ! なんだかよくわからないけど、踊るのね!」
「えぇお姉様、一緒に踊りましょう!」
クルクルと回る私達。
私とお姉様の白と黒の髪がキラキラと輝くワルツはお父様が声を掛けるまで続いたのだった。
そして最後には私の予想通り、お姉様がぬいぐるみで私がパソコンという形で丸く収まったのだけれど、突然気が狂ったように笑い出した私はお父様とお母様に奇怪な目で見られたのだった。
不覚……。
二日前の更新は出来ませんでした。
全然時間取れないです。
社会人になったらこれ以上に時間が取れないようになるんでしょうか。
つらたん。