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008 ところで話は変わるけど


 プレゼントと聞いて早々に朝食を食べ終えたお姉様に、急かされ若干駆け足気味に朝食を食べることとなった両親は食べ終えてすぐ食堂を出てお父様のプレゼントが置かれる部屋へと向かう。

 この広すぎる雨ノ森邸において、そういったサプライズを事前に発見することは予知能力でも無ければ不可能なのだけれど、今日のこれは昨日のアレが無ければ気付く事が出来たかもしれないと思われる。


 何故ならお父様の言ったプレゼントの置いてある部屋とは、つい先程まで居たお姉様の部屋の隣、つまりは私の部屋だったのである。


「本当は目覚めると同時にプレゼントに気付く筈だったんだが」


 何、サンタ気取りですかお父様? たけどそうだった場合、お姉さまへはサプライズ性が薄れるよね。

 私なんかいいからお姉様にサプライズをお届けしてあげてよ。

 ただでさえ何時も居ないんだから、『お姉ちゃんだから』なんていう理由は通じないと思う。

 ……いや、私がお姉様と寝ていたから急遽変更したのかな? でもそれならどちらにせよお姉様の部屋にスタンバれば良かったのではないかと思う。


 私は別にそういうの気にしないし。

 というかそこまで幼い思考回路はしてないし……。

 後で打診してみようか……なんとか間接的に。


 兎にも角にも私はドヤ顔で扉に手を掛けるお父様と、ワクワクしながら扉を開けるのを待っているお姉様、そしてそんな光景を微笑ましげに眺めているお母様をドラマでも見ているかのような、余所の家の風景でも眺めるような気持で傍観する。




 ……あっいけない。

 私もこの人達の家族なんだ。


 師匠を見たせいで紫月に戻っちゃってたかも、やばいなー紫月であり、クシェルであるなんて。

 雨ノ森クシェルと言うペルソナが、崩れちゃうじゃないか。


 おっと、そんなことを考えている内にプレゼントとのご対面である。

 開かれた扉の先には、確かにいつもと違う物の存在を確認出来た。




 ◆◆◆





 ……ところで話は変わるけど、舌切り雀という話をご存じだろうか。


 優しいお爺さんに助けられてかわいがられていた雀はクソババア……婆さんが障子の張り替えに使おうとしていた糊を食べてしまい、たったそれだけのことで理不尽にも舌を切られて命辛々逃げ出した。

 その事実を知ったお爺さんは雀を追って山へ行くと、雀達が恩返しにご馳走してくれたり踊りを見せてくれた。


 お土産として大きなつづらと小さなつづらのどちらを持って行くか聞かれ、小さい方を持って帰り家に着いて中を見てみると小判が詰まっていた。

 欲張りで自分のやったことに微塵も罪悪感を覚えていないクソババアは、大きなつづらをもらおうと雀の宿に押しかけ、大きい方を強引に受け取って、帰り道で開けてみると中には妖怪や虫や蜥蜴や蜂や蛙や蛇が詰まっており、愚かなババアは腰を抜かし気絶してしまうのでした。めでたし、超めでたし。

 ザマァ。的な話である。



 まあ何が言いたいのかって言うと、欲張って大きい方を選んでも良いことは起こらないって事。

 つまりはもしどちらを選ぶか選択を迫られたら取り敢えず小さい方を選択しておくのが無難ってこと。

 大は小を兼ねるっていうけれど、そんなのは嘘だと思うお年頃(四歳)です。

 ……らしいんだけどなぁ。


 目の前には、超巨大なつづら(プレゼント)と大きなつづら(プレゼント)



 あるぇ? 小さいつづらという選択肢が無いぞぉ?


「さあ朱夏、クシェル。大きいモノか小さいモノ、好きな方を選びなさい」


 すみません、どっちも十分大きいです。

 どちらも大きく、大きな法は私の身長と大差ない大きさの箱がリボンと綺麗な包装紙で包装されていて、超巨大な方に関してはどうやってこの部屋に入れたんだろうって程にでかい。

 正確には、四メートル位? でかい、でかいよ。

 本当にどうやってこの部屋入れたんだろう、絶対入口で引っかかるよね。

 まあ包装はこの部屋でやったのだとしても、まさかプレゼントが組み立て式って訳じゃないだろうし。


 何その『一分の十プラモデル『プレゼントボックス』』怖い。


「……えぇと」


「……あ! 分かったわ! 舌切り雀ね」


 私がどう口にしていいか言い淀んでいると、どうやらお姉様も同じ結論に至ったらしいことが分かった。

 ……いや、本来であればつづらの面影も無いプレゼントであるから同じ結論に至るなんて……流石姉妹ってこと? コレを狙っていたお父様もってことなら流石家族かな。

 大方、昨日辺りにでも読み聞かせる等の根回しがあったにちがいないんだろうけれども。


 ……もしそれを考えてたならどちらかがあのクソババアポジになっちゃうじゃん、お父様、少しは考えようよ。

 いや、私は昨日どころか雨ノ森クシェルになってから聞かされた覚えは無いからその意味を知る訳は無いってことで、お姉様だけが小さい方を選ぶだろうということ?

 まどろっこしいよ、超まどろっこしいよ。

 後から私がそのお話を読んでショックを受けることだってあるかもしれないのよ?


 それなら最初からどっちをどっちにあげるか言っちゃった方が効率的よ?

 プレゼントカードに『~~さんへ』とか書いてさ。


 まあだけど、そういうことなら私は大きい方で手を打つし、お姉さまは小さい方を選んでこの場は丸く収まるよね。

 取り敢えず空気の読める私は空気に徹し、お姉様がプレゼントを選ぶのを待ってから余った方を私が受け取るという形を取れば良い訳ね。

 間違っても子供らしく「舌切り雀ってなんですの」とか聞いちゃいけない。


「小さい方を選べば良いのよね?」


 そ、お姉様は小さい方、私は大きい方で……。


「あ……でもそうするとクシェルに良く無いことが起きてしまうわ……」


 えっ。


「それは駄目よ。だって世界で一番大好きな私の妹なんですもの」


 お姉さまの独白は多分、誰にも聞かせるつもりはなかったのだろうけれど、隣にいる私の耳には届いてしまった。

 一生懸命考えるお姉様の横顔はとても愛らしく、考えをまとめた時に出したその表情には決意が見られる。



「……よし、決めたわ。私が大きい方で、クシェルが小さい方ね! ね? クシェルもそれで良いでしょ?」



 ────……えぇ子や。


 良い子よ、とっても良い子に育って居るんだわ私の姉は! でも思慮深いよ! 日本人だよ! そこは気付かず捻らず小さい方を受け取っていて良い場面よお姉様!

 小さい方に何が入っているのかは皆目見当もつかないけれど、お父様の表情から察するに四歳児が楽しめる内容では無いわ! ……つまりは八歳のお姉様にもまだ早いプレゼントである可能性もあるんだけれど、それはさて置いてよ?

 お父様の「ヤバい、ミスった」っていうもう、お父様の立場なら絶対に必要であろうポーカーフェイスなぞ微塵も見られない感情のままに焦った様が見て取れるの。

 気付いてあげて! 周りに気を使うことを知ってるならお父様の焦り様にも気付いてあげて!



「お姉様、ありがとうございます。私もお姉様が大好きですわ! だからお姉様が小さい方をうけとって?」


「私はお姉様なのよ? クシェルは気にしなくて良いの」


 まだ他人に釣られて泣いてしまう程に幼いお姉様。

 その優しさが生み出す環境から何故ゲーム上に出て来た雨ノ森クシェルが生まれたのか、私には分からない。

 

 ……さて、思考の脱線もここまでにどうやってお姉様に小さい方を受け取って貰うか。

 …………。あ、そだ。


「あ、お姉様。良い事思い付きましたわ」



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