彼と過ごす日々
「運命の子」、という言葉を聞いた事がある。
「運命の子」とは産まれながらに数々の運命の糸を神によって与えられ、世界を変革するという存在。
人間、誰かと魔力の波長が合い、その人間と親身になることがある。
こういった関係を「運命の糸で繋がった関係」とよく言う。
ジェラルドは正に「運命の子」だった。
まず、ジェラルドに手を引かれてジェラルドの家に着くまでの間、気付く。
敵意が湧かない。
浮かぶはずの疑念さえ浮かばない。
一緒に居るだけで心が安らいだ。
それは僕以外の人間誰彼構わずそうだった。
確信する。
彼は「運命の子」だと。
彼からはきっと運命の糸が複数のびていて、かかわる者が誰彼構わず繋がっていくのだ。
誰にでも優しく、自分に厳しい。
分け隔てせず、誰にでも手を差し伸べた。
彼はまるで太陽の様な人物だった。
あれから僕とジェラルドは親友になっていた。
僕の両親との問題解決に手を貸してくれたし、僕もジェラルドの特訓に付き合った。
ジェラルドの家はエヴェといって、世界的に有名な武門の一族だった。
世界中に門下生が居て、一族が散らばっている。
開祖は彼らの祖先である初代エヴェ(本名不明)だそうで、
ありとあらゆる武器、魔法、格闘術に精通した彼(彼女?)が生み出した総合戦闘術、それがエヴェ流戦闘術だという。
初代エヴェは戦神ギクスに仕えたと代々伝わっているらしいが、神に仕えたという初代の生き様に準ずるべきだと考えるに至った、聖王国では珍しい一族だ。
彼らエヴェの一族は特別な能力を持っている。
初代エヴェから連なる正当なる血統の証、
神の敵を薙ぎ払い、あらゆる障害を打ち払った能力。
適応能力。
単純な話だ、何かに「適応」する、それだけの能力。
聞けば初代エヴェはありとあらゆる環境、状況に適応し、全ての敵に打ち勝ってきたと言う。
その能力の片鱗を彼らは産まれながらに理解し、使いこなしている。
ジェラルドがいい例だ。
ジェラルドの適応能力は「武装適応」、
あらゆる武器防具の扱い方を理解し、手足の様に操る。
無手だろうが構わず、路上の石だろうが木の枝だろうがジェラルドにかかれば立派な武器となった。
「ジェラルドは凄いね、色んな人と仲良くなれて」
「んー?」
彼が鎖付き鉄球を振り回す横で僕は勝手に話し出す。
「ジェラルドならきっと、僕には叶わない事だって叶えられるんだろうな......」
ジェラルドが投げた鉄球が庭に置いてある岩を破壊する。
「そうだな、何でも出来るかもなッ!」
弾け飛んだ岩の破片を鉄球を蛇の様にくねらせ、打ち落としていく。
「特にお前とならでかい事が出来そうだ!」
ジェラルドが僕を見て笑う。
「そ、そんなこと無いと思うよ?僕なんて体力ないし、ジェラルドの足手まといになっちゃうかもだし」
「でも、お前は俺より頭が良いし、魔法も使えるだろ?」
「だ、だけどそれじゃジェラルドと一緒に戦えないよ.....」
「だーから!同じ土俵に立つ必要なんて無いんだって!かあさんならこう言うぜ!」
「「馴れ合ってんじゃねぇ、心と力を認め合って力合わせてんのさ!」ってな!」
ぬっと現れたジェラルドの母親、アースラさんと声を揃えてジェラルドはそう言った。