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beat  作者: 久保とおる
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beat7

Dr.ハマクラは、お気に入りのテラスで短い春の訪れを喜んでいた。

たった数週間で過ぎ去る春の穏やかな気候に、一時だが庭に緑が萌える。

生命の力強さに驚嘆させられると同時に、自然の営みに抱かれている自分を感じていた。


一月前の雨降る晩に、マサカドの再生は終了していた。

降り続いた雨が窓を叩くその夜に、「再生が完了しました」とメイは彼に告げたのだ。

頭も身体も完全に修復再生されてはいたけれど、「彼を目覚めさせていいものだろうか」と

こうしてまどろんでいる今でも、彼の頭をそのことが占領していた。


「めずらしいですね、Dr.が日向ぼっこなんて」


背後からの突然の声に驚いて振り返ると、制服を着た見覚えのアル顔が笑っていた。

第3特区警備班少佐ジェイス=キタムラが、姿勢良く直立して。

嫌な予感が彼を襲う・・・何をしに、今ごろ何をしに来たんだ?

精悍な笑顔の下に隠れている、少佐の目論見は何だ・・・


「珍客だな、どうだ腕の具合は」

「問題なく。ところで、お尋ねしたい事があるんですが」

「なんだ」


優雅に制服の裾をひるがえして、彼の隣に座った男は

被っていた制帽を脱いで、テーブルの上に置いた。


「何か、飲むかい?」

「ありがとうございます、宜しければ水を一杯」


彼は立ち上がって薄暗い家の中に入ると、素早くメイに指示を出した。


「メイ、マサカドの痕跡を隠してくれ」

「ハイ」


グラスに冷たい水を入れ、戻ろうとした矢先、耳元でメイが唸った。


「彼がバイクを見ています」

「そうか」


結局、あの時のまま放置されていた汚れたバイクとマント。

何ヶ月もの間野ざらしにしていたけれど、ジェルがこびり付いている事には変わりない。

やはり、ジェイスが追っているのはマサカドなのか・・・


彼がテラスに戻ると、少佐はまったく動いていないかのように

先ほどと変わらない様子でその場に座っていた。


「すみません」


そう言ってグラスを受け取った再生した右腕は、Dr.ハマクラが3年前に手がけたモノだ。


「お父さんは元気かい?」

「ええ、相変わらず。毎日怒鳴り散らして部下に当たってますけどね」

「あはは、それは良かった」


ガタイのいい、旧友の元気な姿が目に浮かぶようだ。

親子ほど年の離れた二人の不思議な友情を、目の前の彼の息子は理解できないだろうな。

彼の父親もまた、特区の警備班大佐の役を担っている。


「それで、聞きたい事とは?」

「ええ、数ヶ月前にこの近くに堕ちた脱出ポットについてお聞きしたくて」

「ああ、アレか、憶えているよ・・・

どこかの警備艇が、脱出ポットを追撃した違法行為のことだろ?

その真下にいたからね、危うくコッチがヤられるところだった。あれは、キミの部下か?」


少佐は悪びれず、ただ肩をすくめて見せた。


「中に居た人物はご存知ですか?」

「さあな、手足は吹っ飛ばされて黒コゲのJJだったことは知ってるが」


少佐はテーブルに肘をつき、その上に母親に似た端整な顔を乗せ

芝居がかったような思案気な目つきでDr.を見つめた。


「単刀直入にお聞きします。あなたですか、ヤツの首を持ち帰ったのは?」

「知らないな、JJを好むヤツに興味はないからね」


ジェイスはテーブルに置かれていた制帽を被ると、静かに立ち上がり形式通りの敬礼をした。

そして、立ち去り際に、庭のバイクに視線を投げて、静かな口調で言い放った。


「車体の脇に、JJ用の保存液が垂れていましたよ」

「そうか」

「では、失礼します」


妙にカンの鋭いところは子供の頃から変わらないな・・・ただ・・・

そのカンも余計に働かせ過ぎると、自分の首をも絞めることにならないか?

家の裏で土煙が巻き上がる。一隻の警備艇が霞が掛かった空へと上昇していった。

その船底を見上げながら、彼は唸るように言った。


「メイ、スグにマサカドを起こせ、スグにだ」

「スグとは?」

「可能な限り早く」

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