beat2
「あれは違法行為です。
どのような状況下であっても脱出ポットを銃撃する事は許されません。21.20.19.」
球体を点滅させ、メイは低くうなるように言う。
「わかってる!」
ジェルポットの下敷きにならないように、もっと離れないと・・・
飛び散ったジェルの巻き添えもゴメンこうむりたい。
あと10メートル、身を低く縮め加速を願う。
銃声と共にブシャンと水風船が破裂するような、
イヤな響きを持った鈍い破裂音が後頭部に襲い掛かる。
「つぅ」ピリピリと刺すような熱い痛みが、微かに露出していた皮膚に走る。
「Dr.、溶解液で洗浄すれば問題ありません」
「ああ」
防塵マントとバイクの尻にベッタリと張り付いたジェルの飛沫に苦笑しながら振り返ると、
後方で白煙をあげている脱出ポットのあまりにも無残な姿を発見し眉をひそめた。
警備艇は撃墜した脱出ポットに更に銃口を向け連射すると、
まるで何事も無かったかのように太陽へ向かって飛んでいった。
「ありえないな」
「あの警備艇は違法行為を犯しました、報告する義務があります」
マントの下から顔を出して宙に漂いながら、メイは赤く警戒色を発光しキツイ口調で言った。違法行為を軽蔑するかのような口ぶりは、時間を経て学習から習得した技だ。
「何処の船だ?」
Dr.は、メイのそんな反応を面白そうに観察し、警備艇が飛び去った方角を見つめた。
あの方角の先には、確か・・・
「第3特別区所属の警備艇です」
「そうか・・・」
思ったとおり、第3特別区が絡んでるか。
よっぽど運の悪いヤツが、ポットに乗ってるという事になる。
軍も動かしてしまう程の力を持つその特区の存在を、知らない者はいない筈。
なのに、この男は・・・と、無残、いや悲惨に飛び散ったジェルポットの中央に横たわる
黒く焦げた死体・・・死体といってもその四肢は見当たらず、僅かばかりに形を留めた胴体と
頭部。
「Dr.、報告は?」
「面倒だ、ほっとけ・・・」
「はい」
靴底にへばりついたジェルを恨めしく思いながら、
彼がその場を立ち去ろうとした時、彼の耳に微かに聞こえた。
「Dr.どうかしましたか?」
「今、何か」
彼は黒い亡骸を凝視する、彼の耳に聞こえたものはソコから発せられている。
微かに、耳が良い彼でなければ気が付かないほどの、微かな・・・
「オイ、生きてるのか!」
『・ァ・・パ・・・』
真っ黒な塊の中にあった白い目玉が、ギリギリと音を立てて小刻みに動いている。
頭の中に詰め込まれていたドロリとした赤い保存液が、メタルの継ぎ目から染み出ていた。
「コイツは・・・JJか」
「JJ、ジャンピングジャックですか?」
「ああ」
ということは・・・脳みそはまだ死んでないってことか。
このままにしておけば、いずれ保存液が無くなって本当に死んでしまうだろう。
コイツをちょっと助けて見るのも面白いかもしれない・・・いつものお節介癖が顔を出す。
彼はバイクからソードを持ってくると、不気味に動き続ける白い目の玉に向かって言った。
「オイ、神経が生きてたら痛いが、死ぬ事は無い」
躊躇うことなくレーザーソードを一振りする。
この世のものとは思えない、断末魔の悲鳴が乾いた空気を振動させた。
ゴロリと砂の上におちた頭部を袋に入れて担ぐと、彼はメイを伴って家路に着いた。