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beat  作者: 久保とおる
13/15

beat13

青空に両手をかざして、透き通るほど青白い両手を見つめた。

陽の光りに、体内に流れる血が薄っすらと透けて見えそうだ。

棺から出されて3週間が経った今、毎日を無駄に過ごすしかなかった。


まるで老人のように力の無いこの肉体を引きずって、

この丘まで散歩してくるのは、メイがオレに科した日課の一つ。

人並みの体力と抵抗力を養うためだと、朝食が終わると家を叩き出された。


細く柔らかな長い髪が、汗ばんだ顔にひっついて離れない。

何度も切ってしまおうとハサミを手に持ったのに、執拗にメイに止められた。

「美しい髪だから」というだけの理由で、無意味なことを言う。


青々と息吹いた芝の上に大の字になって、深呼吸する時だけ

オレは爽快な気分になれた。だから、嫌々でも散歩を続けている。

けれど今日は、アイツも一緒に付いて来やがった・・・


「どうだ、慣れたか?」

「何に?」


その響くような低い声に、ビクリとする。

横たわったまま、オレはヤツの方へ顔を向けた。


「その身体に」

「動かすことには慣れた」

「そうか」


オレの傍らで腰を下ろしたハマクラは、遠くを見つめていた。

遠くにみえる、自分のあばら家を。


「聞いていいか?」

「ああ」


真実をその口から聞きたいと、オレはヤツにたずねる。

青臭い匂いが、風にのって鼻腔をくすぐった。


「何故、オレを再生した、オレだとわかっていて再生したのか?」

「回収した時は知らなかった。その後だ、知ったのは」

「オレがどんなヤツかわかっていたのに?」

「ああ、興味があった・・・それだな」


興味だけで、再生したとは可笑しな男だ。

呆れた返答に、オレは顔を青空に戻した。


こうやって、ハマクラとキチンと話をするのは初めてだ。

普段は目も合わせることなく、ヤツの存在を無視していた。

こうして話しているのは、ヤツを許したわけではない・・・知りたかったからだ。

この身体の意味を。


「興味ねぇ・・・この身体は何故だ?」

「何故といわれても、私にも不可解」


不可解で片付けられるほど、この身体を簡単には受け入れられない。

どう間違えたら、こんな・・・オレを心底憎んでいた母親と同じに。


「無責任だな。オレはメタル以前も男の身体を持っていたのに」

「データを解析したが、致命的なミスは見つからなかったんだ」

「それで、その見解は?」

「あくまでも仮定だが・・・メタル以前のキミの身体が借り物だとしたら?」

「はぁ?」


オレはとっぴなハマクラの発言に、身を起してヤツの顔を見た。


「借り物って、どういう意味だ」


足元の芝を指でいじりながら、ハマクラは続けた。


「キミは幼少の頃に保護されている、そして政府機関で秘密裏に育てられた。

その間に何かしらの処理を、身体に施されているのも考えられるってことさ」

「無きにしも非ずだな」

「物分かりがいいんだな」

「オマエがオレの母親にした仕打ちに比べたら、大した事は無い」


今度はハマクラがオレを見つめる番だった。


「オレがした仕打ち?」

「実験とでもいうべきかな?」

「何のことだ」


眉間にシワを寄せ、難しい顔をしながら、ハマクラは呻いた。

オレは努めて何気ない振りをして言った。


「オマエは、ボニーの子宮の中に時限装置を埋め込んだんだろ?」

「私は・・・知らないぞ」


オレが手に入れたオレ自身の情報は、どんな情報よりも確実なものだ。

機密屋として偶然出くわした事実だが、その事実がオレをJJへと駆り立てた。


「嘘をつくな、今更、隠してもしかたないだろ」

「だから、何の話だ?」

「オマエは、ボニーの腹の中にオレを仕込んだ。3年後に受胎するようにってな」

「わからん」

「オレの母親は、汚れないまま身篭って、オレを産んだ」


見開かれたその瞳には驚愕がまざまざと浮かんでいた・・・どういうことか?

と聞きたいのはオレの方なのに、ハマクラがその言葉を口にしていた。


「どういうことだ?」

「知らん。知っているのは、母親が処女のままだったという事実」


母親が忌み嫌ったのは、己の腹より生まれ出た

見ず知らずの・・・身に覚えの無い・・・呪われた悪魔の子。


「ありえない、私は・・・頼まれた通りに彼女を再生しただけだ」

「嘘なら、オレはオマエを殺すぞ」


「誓ってもいい、そんな馬鹿げたことをする理由も無い」

「既に母親はオレを身篭っていたのか?」

「それに気付かない訳がないだろう」


お互いに解せない顔をつき合わせ、その事実は迷走し始めた。

正直、オレはこいつの技術には、以前より敬服していた。

人智を超えたものすら感じているのに、この不快感がハマクラを

信頼できない理由になっている。


「もう一度、最初からみてみよう」

「ヤルなら、メイに気付かれないようにやれ」

「どういうことだ?」


不快感をあらわにして、ハマクラはたずねる。


「そういうことだ」

「ありえない・・・それは、ありえない」

「断言できるのか?完璧なものなど存在しない」

「まさか」

「オレに関わる遺伝子情報をもう一度、全部自分1人でで調べるんだな

その結果次第では・・・オレはメイをぶっ殺す」


オレとハマクラの間を・・・

一陣の風が、あの家へ目指して吹き抜けていった。





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