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仲良く並んだ双子の乳白色の月が西の空低く浮かび、
眼を刺すような激しい閃光を放ちながら、東の空からは大きな太陽が昇っていた。
夜と夜明けの狭間、動物すら寄り付かない乾き荒れたサンドエリアで
ボンヤリと空を見上げ考え事をしているのは、彼が試作品を組み見上げた直後か、
途中で自分の論理ミスに気が付いて落ち込んでいたのか・・・そのどちらかだ。
彼の傍らに寄り添うように浮かぶ白い光りを放つ球体が、
規則正しく点滅しながらシーシーっと発している音だけが唯一。
風も無く、あと1時間もすればジリジリと全てを焼き尽くすそんな場所で、
彼は真夜中にやって来てソコに寝転がり、ずっとそうして空を見ていた。
「Dr.ツインズムーンより何か来ます」
シーシーと音を発していた白い球体が不規則に点滅したかと思うと、
ヒトの言葉をその中から発して、そこ寝ている男をDr.と呼んだ。
一瞬、間を置いてゆっくり起き上がった男の疲れた顔を、容赦なく鋭い朝日が射る。
どうやら、論理ミスに気が付いて自分の馬鹿さ加減を嘆いていたらしい。
「何かってなんだ、メイ」
不快そうに顔を歪めると、素早く彼の尻の下に敷いていた防塵マントを頭からすっぽり被った。
「所属不明の小型船舶から、緊急脱出用ジェルポットが1つ放出されたようです。
それを追って警備艇が3機追走しています。あと3分後、ちょうどこの場所にに着陸予定です。175.174.173・・・」
白い球体メイの無慈悲な警告に男は慌てふためいて立ち上がると、
身を隠せる安全な場所を探して辺りを急いで見回す。
が・・・
この砂丘のサンドエリアに役立ちそうな場所、岩どころか石ころ一つ見当たらない。
「くそっ・・・来い、メイ!」
「121.120.ハイ、Dr.117.116・・・」
砂に埋もれる足を不慣れな様子で持ち上げながら、必死でバイクに飛び乗ってはみたものの、
普段から言うことをきいてくれないソイツが、こんなところでこともあろうか、またヘソを曲げた。
誰に似たのか、組み上げたメイすら手を焼くこともある。
「メイ、かからないぞ」
「62.61.右側部を・・・蹴って!55.54.・・・」
言われた場所を力任せに一蹴りすると、グーゥンと鈍い電子音が唸り始め、
車体がスっと宙に浮く。やれやれ、一回バラさないとダメだな。
「ヨシ」と彼は頷くと、マントのフトコロに球体を抱えこみアクセルを回す。
「44.43.42.」
懐の不気味なカウントダウンにウンザリしながら、
後方の上空に姿を現した、光を乱反射させて落ちてくる緊急脱出用ジェルポットを見上げた。
追撃する勢いで追走してきた3機の警備艇の銃口が、朝日にキラリと光る。
「ヤバイ」そう思った矢先、まるで旧式のマシンガンのような連射音が乾いた大地に響き渡り始め、
自分たちからそう遠くない場所で砂煙が空高く舞い上がった。
「なんてことを・・・」
『いかなる場合も脱出ポットを攻撃してはならない』
連邦共和国周辺には、そんな絶対的な決まりがあったのではないか?
不条理な攻撃に、彼は嫌悪感すら覚えていた。
ポット内の乗員が武装していたとしても、
あのタイプのジェルポットでは敵に向かって攻撃出来る筈も無い。
いや、無事着陸したとしても、外からの救出が無い限り外界へ脱出はままならない筈。
あの3機の警備艇の卑怯な攻撃の理由はなんだ?
バイクが巻き上げる砂煙に気付いて、攻撃が止むという希望は捨てよう。
兎に角、この場所から出来る限り離れなければ。