四 出会いⅡ
前編といいながら結局前回出会わなかった夜光と如月……^^;
今回は後編です。
「だぁれ……?」
夜光は目を見開いた。
帰ってきたのがあまりにもかぼそい、少女の声であったから。
「娘……か? こんな時間にこんなところで何をしている」
驚きから立ち直って、それでも警戒は怠らないようにしながら、夜光はすたすたと少女の方へと歩き出した。
少女は両手を胸の前で握り合わせ、きょどきょどと落ち着きのない動きをしながら小さく返事をした。
「えっ、えと、その、奈津がいなくなっちゃったから……」
「奈津?友人か?」
少女の顔がしっかりと見えるところまで行って夜光は立ち止まる。
少女がいっそう身を硬くするのが分かった。
「……家族」
「そうか、家族か。こんな時間になって見つからなければさぞや心配だろう。手伝ってやろうか?」
夜光が手を差し伸べると、少女は怯えるように一歩後ずさった。
「あ、こら、馬鹿……!」
「え? あれれ? うわぁっ……!」
――そして、派手な水しぶきを上げて、彼女は泉に落ちた。
少しして夜光に引っ張りあげられた少女は、夜光が貸した上着にくるまりながら、夜光と並んで座って、縮こまった。
「お前、名は?」
「……如月」
「如月? 春の名だ」
「うん」
「何故このような所に住んでいる?」
「知らない。覚えてない」
「お前……。家族は? その奈津とやらが、いるのだろう? 妹か?」
「うさぎ」
「……」
「うさぎの奈津。私が付けた。女の子だから」
「……そうか」
何とも言えない沈黙が流れて、結局二言三言交わしたところで『奈津』が如月の元へと帰ってきたため、そのまま如月とは別れた。ただ、月ノ宮に戻った後も妙に気になって、数日後、夜光はまた泉に出掛けた。
そしたら、いた。
如月が。奈津と一緒に。
「如月」
驚かせないように、ゆっくり声をかけたのに、如月はビクッとしてから慌てたように振り返って見開いた目で、夜光を見た。
「……来たんだ」
「……お前こそ、来てたんだな」
「うん。……また来るかなって、思ったから」
それから、夜光は満月の夜、泉に通うようになり、如月は夜光といるとき段々笑うようになった。
そんな穏やかな日が続いていたある日。
月に一度、美しい光を泉へと注ぐ月が満ち満ちている夜。
それなのに、いつまで経っても如月が来ない。
不安に思ったが、如月の小屋まで行くのは少し躊躇われて、夜光はじっと待っていた。
しかしあまりに遅いので、小屋へと向かって歩き出し……森の中で倒れている如月と、その傍らで不安そうに駆け回る奈津を見つけたのだ。
燃えるように熱い体でぐったりとした如月を慌てて月ノ宮まで連れ帰った。原因はただの風邪のようだが、なにか悪いものが体に入り込んだらしく、生死の境を彷徨うほどの重態となっていた。
しかしなんとか如月は持ち直し、夜光が忙しくなったこともあって、それを機に今度は如月が月一で月ノ宮を訪れることになった。
立派な一国民である如月の安否確認、ということで月ノ宮内にも話は通した。
夜光の身分がこの都の王弟である事を知り、夜光の家が月ノ宮だということが分かったときには如月も驚いている様子だったが、もうすっかり夜光に慣れてしまった彼女が今更夜光に敬語を使う事もなかった。
最初の方こそあまりいい顔をしなかった宮の人間も、如月の人当たりの良さが幸いして、今ではすっかり如月と仲良くなっていた。
こうして、如月が夜光の元へと通う日々が新たに始まったのだった。
こうして、夜光と如月の物語は幕を開けます。
そして次回ようやく話が戻り如月の決断の時……。
次話もよろしくおねがいします。